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第一章その3 ~とうとう逢えたわ!~ 鶴ちゃんの快進撃編

今までの苦労は一体……

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 霧は木々に乱されながら、山肌を駆け下りていく。さながら白い瀑布のようだ。

 誠達の人型重機部隊は、高輪半島南部の山あいに待機しており、眼下には険しい谷……つまり日本を東西に横断する、中央構造線が見てとれる。

 鶴と狛犬のコマは、今は誠の後ろの補助席に座っていた。

 不意に誠の機体のモニターに、例の女神の姿が映った。

「それでは始めるぞ。知っての通り、先の戦いでお前達の居住区は守れたものの、他の地域は依然として苦境のままだ」

 女神は誠達の画面に地図を表示して説明する。

「特に北西の平野部は、敵の別働隊が押し寄せた。おかげで避難区の多くは孤立状態にある。まずはこれらの避難区を助け、お前達の味方に付けるのだ」

 女神の言葉と共に、四国北西部の平野が拡大された。

「現状は敵の囲みがかなり厚いし、一度に相手どるのは骨だろう。邪気の霧も濃く、例え艦砲射撃をしても、威力がかなり減衰するしな。だからこそ、お前達で敵の補給路を叩くのだ」

「補給路を?」

「そうだ。この谷を通る抜け道は、敵が戦力を動かすために不可欠なもの。ここを叩けば必ず敵は浮き足立ち、平野部の囲みも乱れる。こんなところだが、質問はあるか」

「無いわナギっぺ」

「いや、あるよ! 具体的な作戦をまだ、」

 慌てる誠だったが、鶴は強引に通信を切ってしまった。霧の中で通信出来るのは、鶴の神通力とやらのおかげなので、最早誠にはどうしようもない。

「大丈夫よ黒鷹、私がいるわ。こっちよ」

 鶴の案内で、誠達は山肌を駆け抜けていく。

 レーダーすら効かぬ霧の中、敵の配置を事前に察し、素通りで進んでいるのだ。まるで一度攻略したゲームのようである。

 誠達が移動すると、山の木々が機体を避けるようにずれるが、誠はもうツッコミをいれなかった。

 やがて敵の大将の直上に来ると、鶴の合図で斜面に並んだ。なんとなく戦隊ヒーローの登場シーンのようだ。

「さあさあ、人の世に仇為す悪党ども、今日が年貢の納め時よ! 黒鷹、みんな、こらしめてやりなさい!」

 もうここまで来たら行くしかない。ともかく部隊は斜面を駆け下りた。

 その状態で鶴が念じると、天から雷が降り注ぎ、誠の機体の剣に宿った。誠はそのまま勢いに任せ、敵の大将に切りつける。

 大将はもがきながら悲鳴を上げ、谷に落下していった。山間の道路を埋め尽くす餓霊も、瞬く間に溶け落ちていく。

 この間、わずか10秒程度だ。

「な、なんやこれ、あっけなさ過ぎるやろ……」

「っつーかよ、俺ら今まで何やってたんだろな……」

 悩む難波や宮島だったが、画面には再び女神の姿が映る。

「何をぼやぼやしている、次だ次!」

「りょ、了解!」


 誠達は独楽鼠のように移動しては、同様の戦いを繰り広げ、敵部隊は激減していく。効率的に大将のみを狙っているため、既に7000近い敵が姿を消していた。

「ねえ鶴、これだけ後ろを突っついたら、さすがに敵も慌ててきたね。平野にいた奴らが戻ってきたよ」

 コマが半透明の地図をスクロールすると、敵は平野部にいた戦力の多数をこちらに向けてきたようだ。

「このままここで迎え撃ちますか?」

 誠の問いに、モニターに映る女神はにやりと笑った。

「いや、このぐらい誘い出せば、平野の守りも薄いはず。さあ今が好機だ、平野部に切り込み、孤立している人々を救い出すのだ!」

「了解!」

 段々慣れてきた誠達は、女神の言葉に力強く答えた。

 こちらへ向かう敵をかくれんぼのようにすり抜け、敵の大将へ突進する。

 巨大化したコマが敵の群れを飛び越え、鶴が放った火球が敵の大将を一撃で吹き飛ばしてしまう。

 厨子王型レベルの巨大な敵を瞬殺した鶴に、誠はひきつった顔で感想を述べた。

「……な、なんか前より威力が上がってないか?」

「勿論よ黒鷹、だいぶこの体に慣れてきたもの」

 鶴はすました顔で得意げだ。

 ひょっとすると、ディアヌスに代わって新しい魔王が来ただけなんじゃないか……と誠は思ったが、鶴が怒りそうなので黙っておいた。

 そこでコマが鶴の頬を前足で突っつく。

「鶴、機嫌のいいとこ悪いけど、そろそろ素通りしてた別働隊が戻ってくるよ」

 コマの言う通り、山間部に向かっていた敵が、慌ててこちらに戻って来ている。

 今度は奇襲も効かないだろうが……

「ナギッペ、敵が戻ってくるわよ」

 鶴が言うと、画面に映る女神は、頬杖をついたままニヤリと笑った。

「ふん、バカどもめ。移動に焦って霧が薄いぞ。さあ夏木よ、艦砲射撃をお見舞いしてやれ!」

「……や、やあ鳴瀬少尉。そんなわけで、またよろしく」

 夏木が疲れた顔で画面に映ると、彼方から光弾が降り注いでくる。

 あきしまから強力な砲撃が加えられ、折角戻ってきた敵は、完膚なきまでに叩きのめされていくのだ。

「いよっしゃあ! やったぜ!」

 飛び上がって喜ぶ一同だったが、女神は勝利の余韻に浸らせてくれない。

「お前達、何を安堵している? まだまだ多くの人が苦しんでいるのだ。さあ動け!」

「あ、あの、うちらちょっと休憩したいんやけど……」

「駄目だ。一刻を争う事態なのだ」

 女神は頑として譲らない。

 誠達は機体を走らせながら、ひそひそ声で話し合った。

「なあ隊長、これって前より苦しくなってねーか?」

「俺もそう思う。神は神でも邪神の方かもしれないぞ」

「聞こえているぞ!」

「ひえっ!?」

 レバーを握る手に力が入り、機体が高くジャンプした。
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