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第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編

急いで行くから!

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「コマ、早く早く!」

 鶴とコマは廊下を駆け抜けて行く。

 一度女神の元に呼び出され、こってりと絞られた挙句、他の神使達はデスクワークに戻ったので、今は2人だけなのである。

「急ぐはめになったのは、君が戻る場所を間違えたんだろ」

「それはそうだけど、そもそもナギっぺのお説教は長過ぎるのよ」

「誰のせいだと思ってるんだ」

 コマは階段の手すりに飛び乗り、駆け上りながらツッコミを入れてくる。

 2人は3階に駆け上がると、大急ぎでブリーフィングルームの引き戸を開けた。

「こんにちは、私よ!」

「突然お邪魔してすみません!」

 2人が次々に叫んだので、窓際にいた金髪の女性……この基地の司令官は振り返った。

「誰かしら……えっ? 鎧? えええっ?」

 戸惑う女性を見て、コマが鶴の肩に飛び乗り、安堵したように言う。

「良かった、あのつんつる頭の子はいないけど、この人なら霊感がありそうだよ」

「それなら話が早いわ」

 鶴はずかずかと部屋に踏み込むと、遠慮なく女性に語りかけた。

「ご機嫌よう、あなたがこの城の陣代じんだいさんね?」

「じ、陣代? 指揮官って意味なら、そうだけど……」

 女性は目を丸くして、1人と1匹をかわるがわる見た。

「よ、鎧姿の女の子と……喋るワンちゃん。ワンちゃんなの?」

「僕は狛犬のコマ。ほんとはもっと長い名前があるけど、面倒だからコマって呼ばれてるんだ。ちなみに狛犬だから犬じゃないよ」

「こまいぬ……いぬじゃない」

 女性は呆然とコマを眺めている。

「ちなみにこっちは、大きく祝うと書いて、大祝鶴姫おおほうりつるひめ。運だけは桁外れに良くて、縁起物の塊みたいな子だよ」

 コマの紹介に、鶴は片手を突き出し、親指を立ててウインクする。

「私はこう見えてかなり気さくだから、鶴ちゃんでいいわ」

「鶴ちゃん……」

 女性はオウム返しに呟いて、自らの額に手を当てた。

「私、もう駄目なのかしら……」

「まだ元気そうよ……あら?」

 そこで鶴は、女性の体の異常に気付いた。邪気が体のあちこちに巣食っているのを感じたのだ。

「ねえコマ、この人の体……」

「あっ、多分だめ! これは狂い憑きだ、下手に触れると暴れるタイプだよ」

 コマが必死に止めるので、鶴は渋々手を引っ込めた。

「それよりお姉さん、黒鷹に僕達の事を説明して欲しいんだ。黒鷹っていうのは、鳴瀬って男の子だよ」

「な、鳴瀬くん? 鳴瀬くんなら、もう出発したけれど……」

『えええええっ!?』

 女性の言葉に、鶴とコマは顔を見合わせる。

「鶴、どうしよう、間に合わなかったよ」

「追いかけるしかないわ!」

「そうだね、急いで行こう!」

 勝手に盛り上がる鶴とコマに、女性は戸惑って問いかけてくる。

「ね、ねえあなた達、追いかけてどうするの……?」

「どうにかするわ」

「どうにかなるものなの???」

「なるわ! お姉さん、場所を教えて!」

 鶴はずいと女性に詰め寄る。

「あ、危ないから駄目よ、そんな甘い戦いじゃないのよ」

 女性が首を振って後ずさるので、2人は更に詰め寄った。

「危なくないさ、僕ら幽霊みたいなもんだから。ほら、出たり消えたり」

「私も同じく、光ったり浮いたり。なんなら増えたり」

「えっ!? えええええっ!?」

 現れたり消えたり、はては分身まで始めた2人に驚き、金髪の女性はへなへなと座り込んだ。

「よし、完全に説得が成功したわ」

 鶴は満足げに頷くと、地図を表示した神器を手に、ずいと女性に近寄る。

「さ、これで分かったでしょ。いいから早く教えて頂戴」

「は、はい……あの、この辺りに……」

「ありがとう、それじゃ行って来るわ!」

 女性にお礼を言うと、2人は部屋から飛び出した。飛び出したのだが、コマは慌てて鶴に叫んだ。

「あっまずい、ちょっと待って! 行っても信じてもらえないかも!」

「そうだったわね!」

 鶴も急ブレーキをかけてUターンすると、再び室内に駆け戻った。

「ひっ、戻ってきた!?」

 驚く女性をよそに、コマは2本足で立ち上がり、身振り手振りで説明した。

「怖がってないでお姉さん、この子の神器に声を吹き込んで。そうだな、この2人は味方だから、信じてあげてって叫んで!」

「そうよ、叫んで! 熱く激しく!」

 鶴が神器を前に差し出し、足を地団駄させながら催促する。

「よ、よく分からないけど、分かったわ。勢いがすごいし……」

 女性は何度か息を整えて、それから叫んだ。

「鳴瀬くん、この子達は味方だから、信じてあげて! そして頑張って!」

 女性の言葉を聞き届けると、神器の画面は眩い光に包まれた。

「ありがとう、きっとこれで大丈夫だわ! コマ、行くわよ!」

「合点承知さ」

 2人は再び部屋から飛び出した。

 コマは鶴の肩から降りながら言う。

「瞬間移動じゃ霊力が減っちゃうからな。鶴、乗りなよ」

「頼むわ」

 コマはみるみるうちに巨大化し、虎ぐらいの大きさになった。鶴は走りながらコマの背に飛び乗る。

「しっかり捕まっていろよ」

 コマは咆えるように言うと、校舎の窓から空中に飛び出す。

 鶴はコマの鬣を強く握り、我知らず叫んでいた。

「黒鷹、みんな、待っててね! 今助けに行くから!」
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