47 / 117
第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編
急いで行くから!
しおりを挟む「コマ、早く早く!」
鶴とコマは廊下を駆け抜けて行く。
一度女神の元に呼び出され、こってりと絞られた挙句、他の神使達はデスクワークに戻ったので、今は2人だけなのである。
「急ぐはめになったのは、君が戻る場所を間違えたんだろ」
「それはそうだけど、そもそもナギっぺのお説教は長過ぎるのよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
コマは階段の手すりに飛び乗り、駆け上りながらツッコミを入れてくる。
2人は3階に駆け上がると、大急ぎでブリーフィングルームの引き戸を開けた。
「こんにちは、私よ!」
「突然お邪魔してすみません!」
2人が次々に叫んだので、窓際にいた金髪の女性……この基地の司令官は振り返った。
「誰かしら……えっ? 鎧? えええっ?」
戸惑う女性を見て、コマが鶴の肩に飛び乗り、安堵したように言う。
「良かった、あのつんつる頭の子はいないけど、この人なら霊感がありそうだよ」
「それなら話が早いわ」
鶴はずかずかと部屋に踏み込むと、遠慮なく女性に語りかけた。
「ご機嫌よう、あなたがこの城の陣代さんね?」
「じ、陣代? 指揮官って意味なら、そうだけど……」
女性は目を丸くして、1人と1匹をかわるがわる見た。
「よ、鎧姿の女の子と……喋るワンちゃん。ワンちゃんなの?」
「僕は狛犬のコマ。ほんとはもっと長い名前があるけど、面倒だからコマって呼ばれてるんだ。ちなみに狛犬だから犬じゃないよ」
「こまいぬ……いぬじゃない」
女性は呆然とコマを眺めている。
「ちなみにこっちは、大きく祝うと書いて、大祝鶴姫。運だけは桁外れに良くて、縁起物の塊みたいな子だよ」
コマの紹介に、鶴は片手を突き出し、親指を立ててウインクする。
「私はこう見えてかなり気さくだから、鶴ちゃんでいいわ」
「鶴ちゃん……」
女性はオウム返しに呟いて、自らの額に手を当てた。
「私、もう駄目なのかしら……」
「まだ元気そうよ……あら?」
そこで鶴は、女性の体の異常に気付いた。邪気が体のあちこちに巣食っているのを感じたのだ。
「ねえコマ、この人の体……」
「あっ、多分だめ! これは狂い憑きだ、下手に触れると暴れるタイプだよ」
コマが必死に止めるので、鶴は渋々手を引っ込めた。
「それよりお姉さん、黒鷹に僕達の事を説明して欲しいんだ。黒鷹っていうのは、鳴瀬って男の子だよ」
「な、鳴瀬くん? 鳴瀬くんなら、もう出発したけれど……」
『えええええっ!?』
女性の言葉に、鶴とコマは顔を見合わせる。
「鶴、どうしよう、間に合わなかったよ」
「追いかけるしかないわ!」
「そうだね、急いで行こう!」
勝手に盛り上がる鶴とコマに、女性は戸惑って問いかけてくる。
「ね、ねえあなた達、追いかけてどうするの……?」
「どうにかするわ」
「どうにかなるものなの???」
「なるわ! お姉さん、場所を教えて!」
鶴はずいと女性に詰め寄る。
「あ、危ないから駄目よ、そんな甘い戦いじゃないのよ」
女性が首を振って後ずさるので、2人は更に詰め寄った。
「危なくないさ、僕ら幽霊みたいなもんだから。ほら、出たり消えたり」
「私も同じく、光ったり浮いたり。なんなら増えたり」
「えっ!? えええええっ!?」
現れたり消えたり、はては分身まで始めた2人に驚き、金髪の女性はへなへなと座り込んだ。
「よし、完全に説得が成功したわ」
鶴は満足げに頷くと、地図を表示した神器を手に、ずいと女性に近寄る。
「さ、これで分かったでしょ。いいから早く教えて頂戴」
「は、はい……あの、この辺りに……」
「ありがとう、それじゃ行って来るわ!」
女性にお礼を言うと、2人は部屋から飛び出した。飛び出したのだが、コマは慌てて鶴に叫んだ。
「あっまずい、ちょっと待って! 行っても信じてもらえないかも!」
「そうだったわね!」
鶴も急ブレーキをかけてUターンすると、再び室内に駆け戻った。
「ひっ、戻ってきた!?」
驚く女性をよそに、コマは2本足で立ち上がり、身振り手振りで説明した。
「怖がってないでお姉さん、この子の神器に声を吹き込んで。そうだな、この2人は味方だから、信じてあげてって叫んで!」
「そうよ、叫んで! 熱く激しく!」
鶴が神器を前に差し出し、足を地団駄させながら催促する。
「よ、よく分からないけど、分かったわ。勢いがすごいし……」
女性は何度か息を整えて、それから叫んだ。
「鳴瀬くん、この子達は味方だから、信じてあげて! そして頑張って!」
女性の言葉を聞き届けると、神器の画面は眩い光に包まれた。
「ありがとう、きっとこれで大丈夫だわ! コマ、行くわよ!」
「合点承知さ」
2人は再び部屋から飛び出した。
コマは鶴の肩から降りながら言う。
「瞬間移動じゃ霊力が減っちゃうからな。鶴、乗りなよ」
「頼むわ」
コマはみるみるうちに巨大化し、虎ぐらいの大きさになった。鶴は走りながらコマの背に飛び乗る。
「しっかり捕まっていろよ」
コマは咆えるように言うと、校舎の窓から空中に飛び出す。
鶴はコマの鬣を強く握り、我知らず叫んでいた。
「黒鷹、みんな、待っててね! 今助けに行くから!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる