新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART1 ~この恋、日本を守ります!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

文字の大きさ
上 下
46 / 117
第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編

母親みたいな人、の話

しおりを挟む
 誠は部屋を後にした。誰もいない廊下を、無我夢中で駆け続ける。柱の影に隠れるように回り込んで、誠はようやく立ち止まった。

 こんな時にこんな気持ちを抱くなんて、不謹慎なのは分かっている。

 でも素直に嬉しかった。

 生きて帰って……そう言われた時、疲れ果てた体にマグマのように熱い力が湧いて来るのを感じた。

 例えもうすぐこの命が終わっても、あの人を守りたい。恩返しがしたい。

 だからこそ、何が何でも負けるものか……!

 誠は歩き出したが、校舎の出入り口付近にカノンが立っていた。

 カノンは誠に気付くと、顔を上げて短く問いかけた。

「……動けるの?」

「動く。いや、動かす……!」

「そ。バカは、死んでも治らなかったわね」

「死にかけた事は沢山あるけど、死んだ事は一度もないだろ」

「……………………そうだっけ?」

 カノンは静かに微笑んだ。

 彼女がまだ何か言いたげだったので、誠はもう少し会話を続ける。

「そう言えば、カノンはどうして残ったんだ?」

 誠の問いに、カノンは遠い目で宙を見上げる。

「ずっと前にね、母親みたいな……人?に言われたのよ。いつかまた、あんたみたいなバカが現れたら、助けてやりなさいって」

「そりゃ酷いお母さんだ」

「あたしも思うわ。あれ、そのシールは何?」

 カノンが不思議そうに言うので、誠は廊下の手洗い場の鏡に背中を映す。首元には、見慣れぬ小さなシールが貼ってあった。

「雪菜さんかもしれない。知らない間に付けられたのかな」

「意外とイタズラ好きなのね、司令は」

「そういうとこあるよ。あの人、ちょっとおてんばだから」

「おてんばねえ……あんたは昔っから、そういう人が好きなのよね」

 カノンはそう言って苦笑し、少し悪戯っぽく誠に言う。

「それ、記念に持ってったら? お守りになるかもしれないわよ?」

「お守りか。神仏はあまり信じてないんだけど」

「……運も悪いし?」

「先に言われた」

 2人は声を上げて笑った。



 やがてその時が訪れ、誠は機体を起動させる。操縦席のハッチが閉じ、正面のモニターに緑色の文字が次々浮かんでは流れていく。

 コクピットハッチを固定。

 OSオペレーションシステム起動。

 各部人工筋肉アクチュエーターに通電開始。

 人工筋肉が活動を始め、周囲にゴムを圧縮するような音が響き渡る。

 機体の各部が通電によって青く輝き、誠は改めてその様を綺麗だと思った。

「全起動シークエンス終了、全て異常なし。鳴瀬機、起動する」

「こっちも異常なしやで」

「よっしゃあ、これで勝ったら、俺ら伝説だぜ……っと、ボスが出てきちまうかな」

「いいさ宮島、今日は思いっきりフラグ立ててくれ。出てくれなきゃお陀仏なんだ」

 状況が絶望的すぎて逆に吹っ切れたのか、隊員達は元気だった。無駄口を叩きながら、数機の大型ヘリに機体を次々搭乗させていく。

 ヘリの格納庫に入ると、ジェットコースターのバーに似たロックシステムが降りて来て、誠達の機体を固定した。

 同様に砲兵や工兵部隊も別のヘリに搭乗した。

 敵の群れが接近し、乱気流をもたらす霧が上空を覆ってからでは飛行できないため、先回りして誠達を投下するのだ。

 ヘリが前後のローターを回転させると、青い光がローターを包んだ。揚力強化リフトフォース音響伝播阻害サイレントの属性添加を施されたためだ。

 待ち受けるは5000の敵、対してこちらは笑ってしまうほどの寡兵かへいだ。

 けれど誠は、不思議と絶望していなかった。

 遠い昔から、寡兵で戦うのには慣れている……そんなふうな気がしたのだ。

 誠はシールを首元からはがすと、モニターの端に貼り付ける。

 たまにはお守りもいいかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

処理中です...