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第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編

シーサーと狛犬は似ている

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「…………???」

 黒鷹は意識を取り戻し、不思議そうに周りを見回している。

「良かった鳴っち、気が付いたで」

「このバカっ、心配させないでよ!」

 隊員達も安心したように声をかけ、黒鷹はようやく立ち上がってブリーフィングルームへ入っていった。

 コマはそれを見送ると、正座した一同に怒鳴りつけた。

「何やってんだよ、あれじゃ逆効果だよ! 黒鷹も目が覚めちゃったし、怖がらせただけじゃないかっ! もう絶対サインなんかしてくれないぞ!」

「……ごめんちゃい。愛しい黒鷹の夢に入ったら、テンションが上がりすぎて、ついおふざけしちゃったわ」

「姫様イチリュウの照れ隠しだぞ」

「なんでそこだけ一流を目指すんだよ!」

 コマが怒ると、鶴も龍もしゅんとした。

 鶴は恐る恐るコマに言う。

「……コマ、最近ナギっぺに似てきたわ」

「似てないよ! 似てたらこんなもんじゃないよ! 僕も怒られたくないから、真面目にやれって言ってるんだよ!」

 ヒートアップするコマを、牛がまあまあとなだめてくる。

「モウ済んだ事ですし、許してあげては」

他人事ひとごとみたいに代弁して……」

 尚も怒りのおさまらないコマだったが、鶴が突然大声で叫んだ。

「そうよ、代弁だわ!!!」

「うわっ、びっくりした!?」

 コマも他の神使もひっくり返ったが、鶴は構わず一同のおしりに言った。

「直接見えなくても、黒鷹が心を許してる人に霊感があれば、その人から話して貰えばいいのよ! お告げとかじゃなくて、じっくりみっちり通訳して貰うの!」

 コマは納得して飛び起きた。

「そうか、鶴、たまにはいいアイディアを出すじゃないか!」

「さすが姫様、天才ですぜ!」

「モウ神懸かってますね!」

 他の神使達も鶴を賞賛する。

 鶴は満足げに頷くと、そこで不思議そうに首を傾げた。

「でもねコマ、さっきあそこにいた女の子、何か思い出しそうなんだけど、なぜだか思い出せないのよ。頭にもやがかかったみたいに」

「それは……多分、前世で会ったんじゃない? 4~500年って、ちょうど生まれ変わる時期だよね」

「それもそうね」

 鶴はあっさり納得し、一同は何度目かの軍議を始める。

 丁度消火器の近くであり、防火の守り神であるシーサーの置物があったため、神使が1人増えた感じだ。恐らく教師か誰かが、沖縄土産に買ってきたのだろう。

「それじゃみんな、今まで見てきた人の中で、どの人がいいと思う?」

「そう言えば、あのつんつる頭があやしいんじゃい」

 アイパッチをした狛犬が言った。

「なんとなくワシらがおると慌てるし、見えないフリをしとるんかもな」

「そんなら簡単やで、締め上げてワイらに協力させるんや」

「よし、それじゃ討ち入りよ!」

 鶴達はブリーフィングルームに突入しようとしたが、その時、またも虚空から神器の画面が飛び出し、弾力のある寒天のように跳ね回った。

「はわわ、またとんでもないタイミングでナギっぺだわ」

 一同は右往左往するも、自動着信で画面は巨大化した。

 とっさに消火器の影に隠れた神使もいたが、スペースの関係で隠れきれなかった狛犬は、シーサーの隣で置き物のふりをして静止した。

「……随分汗をかいているではないか」

 女神・岩凪姫は、ジト目で鶴達を見据えてくる。

 鶴はしらじらしく汗を拭う仕草をした。

「そ、そうなのそうなの、現世は思いのほか暑いの」

「今は秋だぞ。それに今生の体は、暑さ寒さで不自由せんはずだが?」

「ごめんなさい、暑いのは気のせいだったわ」

 鶴は冷や汗を流しながら言い訳をした。

 女神は尚もジト目で追求してくる。

「まさかとは思うが、脱走した連中はそこにおらぬだろうな」

「い、いないわ」

「その足元の狛犬は何だ」

「こ、これは……シーサーとやらの置物よ。防火のお守りだけど、現世ではもっぱら狛犬に似てると評判なの」

「ほう。シーサーには牛もいるのか」

「えっ、モウちゃん!?」

 鶴が慌てて下を見ると、足元には狛犬しかいなかった。牛はと言うと、消火器の陰から顔を出して震えている。

「このバカモノ! 全員そこにおるではないか!」

『ひえっ!?』

 女神の怒声に一同は飛び上がった。

 女神は拳を握り締め、ぷるぷると震わせている。

「休憩だからと甘く見ていたら、いつまで経っても帰って来ず……!」

「も、モウしわけございません……」

 震える神使を庇い、鶴が珍しく神妙な顔で進み出た。

「……ナギっぺ、みんな私が心配で来てくれたのよ。悪いのは心配させた私だわ」

「……ほう、珍しく殊勝な態度だ」

 鶴の言葉に、女神は静かに頷いた。

「だが忘れてはおらぬか? 私には真偽を見極める神器があるのだぞ」

 女神が勾玉を差し出すと、虚空に円グラフが表示される。

 反省27%、ナギっぺはこういう態度をとれば、許してくれるかもが20%、早く黒鷹と遊びたいが50%。分からない、どちらとも言えないが3%だった。

「それ見たことか、打算と遊びの方が多いであろうがっ!」

「ひええっ、ナギっぺごめんなさい!」

 一同は印籠を出された悪党のように平謝りした。

「もう許さん、今日という今日は、貴様らの性根を徹底的に叩き直すぞ!」

 岩凪姫のお説教は本格的に始まり、鶴達はいつ果てるとも知れぬ地獄の時間に恐れおののいた。

「……こ、これはしばらく終わらないわよコマ」

「……そうだね、前にお怒りになった時は、三日三晩続いたからね」

「聞いておるのかっ!」

「ひいいっ!?」

 轟くような女神の怒声に、鶴達は再び飛び上がった。

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