32 / 117
第一章その2 ~黒鷹、私よ!~ あなたに届けのモウ・アピール編
整備班の休憩。おいも欲しい
しおりを挟む
校庭に建てられた格納庫は、かまぼこ型の青い屋根が印象的だった。幼い頃に読んだ本によると、円筒形の立体トラス構造というらしい。
隣には学校時代の遺物である藤棚が朽ちかけていて、無機的で頑強な格納庫とはいかにも対照的だった。
格納庫の中に入ると、さすがに全力の修理中だけあって、多種多様な機材が合戦場の落し物のごとく散らばっていた。
壁際には人型重機が彫像のように並んでいて、操縦席から延びる無数の配線が、まるで人体の神経標本のように生々しい。
「おじゃましまーす……うわっ!?」
殺意に振り返ると、整備主任の美濃木が物凄い勢いで走ってきて、調べれば調べるほど壊れとるわーい、と誠に飛び乗る。
肩車の体勢から誠の首をゴキゴキ鳴らす美濃木だったが、誠が差し入れを持ってきたと言うと、すぐにやめて飛び降りた。
「なんじゃ、それを早く言わんかい」
「言う間も無く襲撃してきたんでしょうがっ」
「細かい事は気にするでない。よっしゃ、みんな休憩じゃい」
「わあ、嬉しいっす。甘いものは貴重なんですよね」
機体の肩にのぼっていた坊主頭の尚一は、工具を振ってそう答えた。
誠はテーブルにお菓子を取り出しながら、パッケージに刻印された微妙なネーミングに眉を顰めた。
合成チョコレートを使った甘味は『チョコっとだけよ』、サツマイモを使った甘い菓子は『おいも侍』。パッケージには腕組みした西郷隆盛が描かれ、「おいも欲しい」という吹き出しが、誠の疲労感を倍増させる。
オキアミを粒が残る程度に練って薄く広げ、油で揚げてサクサクした食感を出したスナック菓子は『海の砂っく』。
香ばしく、程よい塩味と海の旨みがするよい菓子なのだが、パッケージにはやっつけでデザインされたキャラが描かれている。イカや魚を模したそのキャラは、目だけはリアルな魚介のままで、初見で夢に出てきそうな狂気を感じさせた。
「うまいけど、食感を砂に例えるなよ……」
誠は次々お菓子をテーブルに出して行った。
一同は集まって一息つきつつ、先の戦いで撮影した映像を見入った。
「うわあ……相変わらずえげつない戦い方しますね。一回の出撃でなんぼ撃墜稼ぐんですか。こんだけ強くて稼げたら、普通は特務隊に行きますけど、残った理由はやっぱり愛ですかねえ?」
メガネにお下げの女性作業員……北海道出身のなぎさが言うと、美濃木が髭を撫でながら悪乗りした。
「いや、それはワシも思っていたんじゃ。お前さんや、その仲間でもなかなかの腕じゃ。誰一人とっても、腕一つで成り上がっていく立身出世の英雄譚になりそうなもんじゃがのう。尚一も思うじゃろ」
尚一は美濃木の言葉に頷いた。
「いや実際、腕に覚えがあるなら、成り上がる方が多数派ですよね。第3船団とか特にそうでしょ。ここと違う基地の連中がどうしてるか、機会があったら見てみたいですね」
「確かに、どんな情報でも参考にはなるからな……」
誠も同意し、それから美濃木に向き直った。
「でも実際使ってみて、OSもかなり仕上がってると思います。動作中でも姿勢制御がすごくいい。支給ソフトの『戦極小町』のままじゃ、ああはいかないと思いますよ」
「そうじゃな。もう少し練って調整すりゃあ、他の基地のルーキーどもに渡せるのう。新米の死亡率もグンと減るはずじゃ」
美濃木はそう言って頷いてくれた。
「そもそもこういう対処は、普通は上が主導してくれるもんなんじゃが、あの腐った連中では無理じゃからの」
「まあ、それを言ったらきりがないですけどね。あと、貢献度のポイントは、いつも通りこっちに回しますんで、必要な物があったら言って下さい」
誠の言葉になぎさが小躍りした。
「やった、私欲しい物があるんで! ひよりお姉ちゃんにも送ろう……いてっ」
「死ぬ思いで稼いだんだぞ、私物に使うなよ」
なぎさにチョップを入れつつ、誠は気を取り直して言葉を続けた。
「司令も奮闘してくれてます。今は苦しいですけど、なんとか協力して乗り切りましょう」
「そうじゃな。わしらももう一踏ん張りじゃい。皆の衆、仕事に戻れい!」
「うす」
「了解っす」
美濃木の言葉に、一同は気合を入れて持ち場に戻っていった。
誠も立ち上がり、奥の階段へと向かうのだったが、後ろから美濃木が呟いた。
「……お前さん。それ、いつまで続けるんじゃ? もう体がもたんじゃろ」
「…………大丈夫です」
誠は少し頭を下げて、簡素な鉄階段を上った。
隣には学校時代の遺物である藤棚が朽ちかけていて、無機的で頑強な格納庫とはいかにも対照的だった。
格納庫の中に入ると、さすがに全力の修理中だけあって、多種多様な機材が合戦場の落し物のごとく散らばっていた。
壁際には人型重機が彫像のように並んでいて、操縦席から延びる無数の配線が、まるで人体の神経標本のように生々しい。
「おじゃましまーす……うわっ!?」
殺意に振り返ると、整備主任の美濃木が物凄い勢いで走ってきて、調べれば調べるほど壊れとるわーい、と誠に飛び乗る。
肩車の体勢から誠の首をゴキゴキ鳴らす美濃木だったが、誠が差し入れを持ってきたと言うと、すぐにやめて飛び降りた。
「なんじゃ、それを早く言わんかい」
「言う間も無く襲撃してきたんでしょうがっ」
「細かい事は気にするでない。よっしゃ、みんな休憩じゃい」
「わあ、嬉しいっす。甘いものは貴重なんですよね」
機体の肩にのぼっていた坊主頭の尚一は、工具を振ってそう答えた。
誠はテーブルにお菓子を取り出しながら、パッケージに刻印された微妙なネーミングに眉を顰めた。
合成チョコレートを使った甘味は『チョコっとだけよ』、サツマイモを使った甘い菓子は『おいも侍』。パッケージには腕組みした西郷隆盛が描かれ、「おいも欲しい」という吹き出しが、誠の疲労感を倍増させる。
オキアミを粒が残る程度に練って薄く広げ、油で揚げてサクサクした食感を出したスナック菓子は『海の砂っく』。
香ばしく、程よい塩味と海の旨みがするよい菓子なのだが、パッケージにはやっつけでデザインされたキャラが描かれている。イカや魚を模したそのキャラは、目だけはリアルな魚介のままで、初見で夢に出てきそうな狂気を感じさせた。
「うまいけど、食感を砂に例えるなよ……」
誠は次々お菓子をテーブルに出して行った。
一同は集まって一息つきつつ、先の戦いで撮影した映像を見入った。
「うわあ……相変わらずえげつない戦い方しますね。一回の出撃でなんぼ撃墜稼ぐんですか。こんだけ強くて稼げたら、普通は特務隊に行きますけど、残った理由はやっぱり愛ですかねえ?」
メガネにお下げの女性作業員……北海道出身のなぎさが言うと、美濃木が髭を撫でながら悪乗りした。
「いや、それはワシも思っていたんじゃ。お前さんや、その仲間でもなかなかの腕じゃ。誰一人とっても、腕一つで成り上がっていく立身出世の英雄譚になりそうなもんじゃがのう。尚一も思うじゃろ」
尚一は美濃木の言葉に頷いた。
「いや実際、腕に覚えがあるなら、成り上がる方が多数派ですよね。第3船団とか特にそうでしょ。ここと違う基地の連中がどうしてるか、機会があったら見てみたいですね」
「確かに、どんな情報でも参考にはなるからな……」
誠も同意し、それから美濃木に向き直った。
「でも実際使ってみて、OSもかなり仕上がってると思います。動作中でも姿勢制御がすごくいい。支給ソフトの『戦極小町』のままじゃ、ああはいかないと思いますよ」
「そうじゃな。もう少し練って調整すりゃあ、他の基地のルーキーどもに渡せるのう。新米の死亡率もグンと減るはずじゃ」
美濃木はそう言って頷いてくれた。
「そもそもこういう対処は、普通は上が主導してくれるもんなんじゃが、あの腐った連中では無理じゃからの」
「まあ、それを言ったらきりがないですけどね。あと、貢献度のポイントは、いつも通りこっちに回しますんで、必要な物があったら言って下さい」
誠の言葉になぎさが小躍りした。
「やった、私欲しい物があるんで! ひよりお姉ちゃんにも送ろう……いてっ」
「死ぬ思いで稼いだんだぞ、私物に使うなよ」
なぎさにチョップを入れつつ、誠は気を取り直して言葉を続けた。
「司令も奮闘してくれてます。今は苦しいですけど、なんとか協力して乗り切りましょう」
「そうじゃな。わしらももう一踏ん張りじゃい。皆の衆、仕事に戻れい!」
「うす」
「了解っす」
美濃木の言葉に、一同は気合を入れて持ち場に戻っていった。
誠も立ち上がり、奥の階段へと向かうのだったが、後ろから美濃木が呟いた。
「……お前さん。それ、いつまで続けるんじゃ? もう体がもたんじゃろ」
「…………大丈夫です」
誠は少し頭を下げて、簡素な鉄階段を上った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる