上 下
23 / 117
第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編

運命の歯車がずれている

しおりを挟む
「………………?」

 どのぐらい眠っていたのだろう。

 仰向けに横たわったまま、誠はしばし天井を見つめた。

 手に触れるのは、使い慣れた野営用マットレスの感触か。布地を介して細かな振動が伝わって来る。

 息を吸い込むと、少し鉄錆びと機械油の匂いが感じられた。

「そうか……輸送車だ」

 言葉にすると、次第に理性が働いてきた。

 誠はゆっくり身を起こす。

 前方のデジタル時計を確認すると、時刻は朝の7時前だった。

 壁際には折り畳み式のベンチシートが並んでいて、すぐ近くに栗色の髪をショートカットにした少女……つまり難波が、座ったまま目を閉じている。

 上半身は虎柄のTシャツで、下はカーキ色のカーゴパンツ。季節外れの半袖で、特に毛布もかけていないが、彼女は元々、平熱が高くて暑がりなのである。

 カノンは逆に寒がりなため、ベンチに横になって薄い毛布を被っていたし、宮島は大の字になって床にずり落ちていた。

 香川は床で座禅を組んだまま、壁に凭れて眠っている。昨日剃ってから時間が経っているので、少し頭が青っぽくなって……と思ったのも束の間、ズボッ、と音を立ててその髪が伸びると、ウニのように長いトゲ状態になった。

「環境変化で頭皮が活性化してるんだよな……」

 香川に言うと怒るだろうが、寺のイメージとは間逆であり、どちらかと言えばパンクロックなミュージシャンに近い。

(……それにしても、あれは一体何だったんだ……?)

 あの第16特別避難区の撤退戦は、途中まで絶体絶命のピンチだった。正直言って死を覚悟した。

 それなのに、途中から何かの歯車が噛み合ったかのように、やる事為す事うまくいって、都合よく物事が流れまくって。

(運が良かっただけなのか?  いやまさか、俺に限ってそんな事は……)



 誠の故郷は、瀬戸内は芸予諸島に位置する大三島おおみしまである。

 古くから神の宿る神聖な島とされており、島の西部に位置する大山祗神社は、武勇の神、更には国家総鎮守の神として、人々の尊崇を集めてきたのだ。

 そんな有り難い島に育ったにも関わらず、誠は小さい頃から、それこそ桁外れに運が悪かった。

「運なんて非科学的だ。気のせいだぞ、誠」

 研究職の端くれであり、後に高千穂研究所の主要研究員にもなった父は、そう言ってメガネを光らせたが、実際は決して気のせいではない。

 車など滅多に通らぬ田舎の島で、道を歩けば頻繁に轢かれる。

 軽トラにイノシシ、バイクに自転車ぐらいならまだ許せるが、楽しみにしていた祭りの日、勢いがついた神輿に跳ねられた時は、この世には神も仏もいないのかと、ほとほと嫌な気分になった。

 戦いの中、集中すると敵の動きがスローモーションに見えるのは、この頻繁な交通事故のせいである事はみんなには内緒だ。

 くじ運となればもう最悪で、当たり付きのお菓子を買えば、はずれた上にお腹まで壊した。はずれて、はずれて、またはずれて、一つのお菓子に手違いで5つもはずれが入っていた事もある。

 駄菓子屋の婆さんは爆笑し、年寄りの習性よろしく同じ話を繰り返した。

 婆さんはそれを持ちネタ化し、身振り手振りも交えて段々喋りがうまくなっていったし、おかげで誠のあだ名はハズレンジャーとかファイブマンになった。

 以来、誠はくじの類に近づかなくなり、初詣に神社に行っても、おみくじの木箱を敵視していた。

 親切も大抵裏目に出て、観光客の忘れ物を持ってバスに飛び乗ると、そのままバスの扉が閉まり、ベンチに置いた誠の荷物は犬がくわえて走り去った。

 そんなこんなで、「うえーん、おかあさーん!」と泣きながら家に帰るのが、幼い誠の日常だった。

「運が悪いというより、歯車がずれちゃってるのよね。こう、世の中のうまくいく流れと」

 セミロングの髪が似合う母は、そう言って苦笑したが、なぜ笑うのかと誠は猛烈に泣いた。

「ご、ごめんね。そうよ、そう言えば、誠は頑張り屋さんでしょう。そういう人は、何か1つ歯車がずれたら、きっとガチっと噛み合うのよ。そしたらいろんな事がうまくいくようになるわ」

 思いがけない母の発言に、誠は人生の全ての希望を込めて問いかける。

「どうしたらそうなるの?」

「えっ!? そ、そうね…………すご~く運のいいお嫁さんが来てくれるとか?」

 母の言葉に、誠は正直がっかりした。それじゃ結局、運頼みだと思ったのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...