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第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編

アンタッチャブルからの大逆転

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「到着!」

 鶴とコマは虚空から飛び出し、操縦席に着地した。

 周囲を埋め尽くす画面と機器類。そして何より、ぐったりと項垂れる、鶴と同い年ぐらいの少年の姿。

「あっ……ああああ、あああ……!」

 鶴は震える手をわきわきさせながら、言葉にならない声を上げるが、コマは慌てて鶴の肩に飛び乗った。

「駄目だよ鶴、前見て、前!」

「前? きゃあっ!」

 いきなり画面にでかでかと現れる、巨大な蜘蛛のような怪物の姿。

 鶴は咄嗟に手をかざし、機体の外に、青い霊力の壁を作り出す。

 怪物はまともにそこにぶつかり、よろめくように後退した。

 鶴は自らの手の平を見つめる。

「駄目だわ、あんまり力が出てない!」

「具現化もしてないのに、ドバドバ霊力ちからを使うからだよ! それより早く黒鷹を起こそう!」

「それもそうね」

 鶴は恐る恐る少年の肩に触れようとするが、手はあっさり肩を通り抜けた。

「あ、あれっ?」

 鶴は何度も再挑戦リトライするも、やはり手はすり抜けるだけだ。

「コマ、私触れないわ」

「どれどれ……あっ、僕もだ。邪気の中を長い距離飛んできたから、霊力が減っちゃってるんだ。回復する時間なんてないし……」

「どうしましょう……そうだ、神器なら!」

 鶴は神器のタブレットを取り出すが、どのアイコンを押しても『霊力不足』の表示ばかり。

「困ったぞ、神器も駄目か。あっ、また来るよ!」

 怪物は体勢を立て直し、再びこちらに突進して来る。

 しかし途中で噴きだした消火栓の水に顔を直撃され、怒り狂って叫び始めた。

 一見してコントのようだが、これも鶴の持つ超人的な運のせいだろう。

「すごいな君は、運だけは超一流だ。今のうちに早く!」

「でも困ったわ。魔法もだめ、神器もだめ、黒鷹にも触れないし。何か、何か出て頂戴……!」

 鶴が手を合わせて目を閉じると、彼女の目の前にほら貝が飛び出した。

「コマ、ほっほらっ、ほら貝!」

「子供の頃から吹いて遊んでたもんね。よし、それだ!」

 鶴は少年の耳元にほら貝を当てると、思い切りそれを吹き鳴らした。



「!!!???」

 刹那、誠は意識を取り戻した。

 なぜだか猛烈に耳が痛いが、目の前に敵が迫っていたため、間一髪、機体を横転させて身をかわす。

 気が付くと、画面でカノンが叫んでいた。

「バカ鳴瀬っ、これ使って!」

 強化刀が回転しながら飛んできて、数十メートル向こうの建物に突き刺さった。

 あそこまでは取りにいけない……と思ったのだが、次の瞬間、崩れかけた建物から刀が抜ける。そのまま複雑なバウンドを十数回繰り返すと、誠の機体の左手にすっぽりと収まった。

「い、いやいや、どんな確率なんだよ……」

 誠は思わず呟いた。一体何をどうすれば、こんな都合のいい刀の跳ね方が起こるのだろう。

 だがそんな考えにひたる間も無く、武将級は再度攻撃をしかけてくる。

 こちらの機体はろくに動けず、勝ち目など無いはずだったのだが……

 そこでいきなり、敵の左側にある建物が崩壊した。奴は片側の2本の腕で受け止める。

「……ん?」

 誠が眺めていると、建物の瓦礫の一部がボウリング玉のように転がり、反対側の中層ビルの柱をへし折った。

 やがてそちらのビルも倒れて来て、武将級はもう片方の腕でこれを受け止めた。

 瓦礫は次から次へと転がって、周囲の建物は全て相手に向かって倒れこんでいく。

「……んん??」

 やがて建物の重みを受けて、武将級の足元の道路が陥没した。高い機動力を誇る八つ足が、地面に埋まってしまったのだ。

「……んんんんん?????」

 あまりに都合のいい展開に混乱する誠だったが、再び耳元であの爆音が響き渡った。

「うわっ!?」

 誠は反射的に機体を前に走らせていた。

 走らせてから、そのまま更に加速させた。

 こうなったら勢いである。

(走れる……何で? 人工筋肉もボロボロだったはずなのに)

 もう何が何だか分からない。

 武将級はようやく瓦礫を振り払ったが、動揺のせいか、その身を覆う電磁バリアは乱れている。誠は覚悟を決めて、機体を前に跳躍させた。

 武将級は不十分な体勢ながらも、こちらに気付いて腕を振り上げる。

 誠はその1本を刀で受け流す。1本は機体の頭上を掠めた。残り2本の腕が、こちらの機体の装甲を切り刻んでいく。

 モニターの一部が火花を散らして暗転したが、次の瞬間、誠の機体の強化刀が、敵の頭部を切り飛ばしていた。

 頭を失った相手は、腹の大口を開けて絶叫し、

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!

 まるで水蒸気爆発のように、巨体が周囲に四散していた。

 誠の機体も吹き飛ばされたが、それも僅かの間で、機体は何かに受け止められていた。

 やがてモニターに、見慣れたスキンヘッドの少年が映し出される。

「ったく隊長さん、無茶しやがるぜ」

「……か、香川か……?」

 画面には、次々他の仲間の顔も表示されていく。

「いよっしゃ香川、ナイスキャッチだぜ!」

「ザコも片付けたし、ようやく輸送部隊も到着やで」

 誠がモニターを操作すると、人々は損傷の激しいバスを降り、頑強な輸送車両へ乗り込んでいるところだった。

「ところでみんな、安心している暇はないぞ。あれを見てみろ」

 香川の言葉通り、市街の遠方に大量の粉塵が舞った。

 先ほど撃破した武将級に近いサイズの餓霊が、何体も確認出来たのだ。

「完全に防衛線が突破されたな、隊長。もうじきここにもおいでになるぞ」

 誠は頷き、急ぎ輸送部隊の音羽氏と連絡を取った。

「音羽さん、避難者はこれで全部でしょうか」

「名簿からするとまだ足りません。恐らくは市街地に取り残されて……ああっ!?」

 突然輸送班の隊長は叫んだ。彼方から暢気に走って来る、無傷のバスを目にしたからだ。

 バスは一同の近くに停車し、運転手は手早く事情を説明した。

 しばしの後、音羽氏は引きつった顔で誠に告げた。

「ぜ、全員無事のようです……1人も欠けていませんし、車も完全に無傷で」

「えっ!?」

 喜ばしい事なのに、誠は思わず声が出た。

 音羽氏も同じ感覚だったのか、複雑な表情で言葉を続ける。

「良く分からないのですが、最初は敵に追われていたのに、途中から1体も出会わなくなり、道も大変快適だったそうで……」

「いや、ピクニックやないんやから、おかしいやろ」

 難波もツッコミを入れているが、そこから先は、全ての事がうまく運んだ。

 今までの苦戦が嘘のように、何の問題もなく港に到着。揚陸艦で安全に退避したのだった。

 遠ざかる港を甲板から見つめながら、宮島がまだ半信半疑のように呟く。

「……すげえよなあ、あの状況で全員助かったんだもんなあ」

「いや、ええ事やけどおかしいやろ」

 難波がしつこくツッコミを入れていたが、誠も全く同意見だった。

「確かに俺も、おかしいと……思う……」

 誠はそこで意識が途切れた。

 緊張の糸が切れたせいなのだろうか。

 耳元でカノンが叫んでいるのが聞こえたような気がした。
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