上 下
20 / 117
第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編

武将級餓霊との遭遇

しおりを挟む
 崩れ落ちる敵から刀を抜きつつ、誠は倒れた機体に呼びかけた。

「友軍機、聞こえるか。聞こえたら応答してくれ」

 やがてモニターに相手パイロットが映った。紺色の髪をやや短く切りそろえた、大人しそうな少女である。

 誠は続けて語りかける。

「こちら救援部隊、大丈夫、君は助かった。全ての機器から手を離し、深呼吸されたし」

 手を離させたのは、物音で反射的に引き金を握り、誤射するのを防ぐためだ。

「落ち着いたら、所属と名前を」

「う、宇部です。所属は、第16特別避難区防衛部隊、第5人型重機小隊」

「配属暦と技術段階」

「えと、2週間。基本操作だけです」

「負傷はあるか? 機体状況は?」

「け、ケガはありません。機体は……ええと、損傷中軽度。骨格系に若干のダメージが……コクピットハッチと、追加装甲に損傷あり。でも起きられます」

「上出来だ」

 誠は胸を撫で下ろすが、そこでモニターにカノンの顔が映った。

「あまりゆっくりしてらんないわよ、敵さんこっちに気付いたみたい。第一波、推定12、3ってとこかしら」

 カノンの言葉と同時に、あちこちで電磁火線が閃いた。

 やがて先ほどと同型の餓霊が、次々姿を現した。ぬらりとした動作で首を伸ばし、周囲の獲物を探っている。

「接続操作モードへ移行」

 誠は機体のOSに指示し、迫り来る敵をモニターで睨んだ。

 意識を集中し、相手の次の動作を読み取ろうと試みる。

(……駄目だ、やっぱり動きが読めない……!)

 誠は相手の爪をかわし、機体を後ろに回避させた。

 実を言えば、誠の特技はもう1つあったのである。

 集中すると敵がスローに見える事に加え、以前は敵がどのように動くのか、事前に予知イメージ出来たのだ。

 けれどその力は、『』から失われたままだった。時々試してみるものの、いっこうに復調の兆しは無い。

(だったら、今出来る事をするだけだ……!)

 誠は機体を前に走らせる。

 敵の巨腕をぎりぎりでかわし、強化刀を一閃。相手の腕を切断し、返す刀で斬り伏せた。

 次の1体を射撃で狙い、相手が電磁バリアで弾いた瞬間、その弾いた箇所を正確に突き刺す。強い属性添加の弾丸は、一時的に敵の防御を弱らせるからだ。

 3体目は警戒してこちらの出方をうかがっている。防御にエネルギーを全振りしているため、電磁バリアは通常より色濃い。 

 誠は刀の属性添加機の出力を上げ、大上段から切りつけた。

 斬撃は硬い音を立てて弾かれたが、相手の電磁バリアも大きく揺らぎ、敵は体勢を崩して後ずさった。

 誠は更に突進して、再び上段から刀を構える。先ほどの威力が念頭にある相手は、上方に更に強いバリアを発生させた。

 その隙に誠は、がら空きになった相手の胴を両断していた。

 更に別の餓霊が現れたが、相手が身構える前に蹴り飛ばす。

 餓霊は派手に倒れ込み、怒り狂って身を起こそうとするところを突き刺してトドメだ。

 やがて画面に隊員達が表示された。

「とりあえず、第一波は片付いたわよ」

「さすがカノン。みんなも早いな」

「よお言うわ鳴っち、あっと言う間に5体も倒しといて。ま、うちも2体は稼いだけどな。でかい相手はほんと割がええねん」

「うんうん、流石は隊長だぜ。これなら俺達の部隊も出世して、ウハウハな生活する事間違いなしだ」

「やめろよ宮島。調子に乗ると、すぐお陀仏になっちまうぞ」

 香川はそう言いながら、バスの方に歩み寄った。拡声器を使い、車内の人々に呼びかける。

「ちなみに皆さん無事ですかー? 俺、香川だけどお久しぶりです!」

「あれま、あんたお寺のぼんかいな! ありがたや!」

「ばあちゃん達、俺を拝んでもしょうがないけど、生きてて良かったな」

 バスから身を乗り出し、機体を仏像のように拝むお年寄りに、香川も思わず苦笑している。幸い人々も運転手も無事で、そのまま移動できそうだった。

 誠は運転手に情報を求めた。

「お疲れのところ失礼します。他に避難中の車両を見ていますか?」

「多分……まだ奥にいると思います。6台で移動して、私達が4台目だったので。襲われて、散開して逃げたので……追い抜かれたかも知れませんが」

「分かりました。その旨報告します」

 誠は輸送部隊に情報を送った。

 まだ『送信中』となってはいるが、近付いた時点で受信して読んでくれるだろう。

「カノンと難波は、車両と一緒に撤退してくれ。輸送との合流地点は画面の通りだ」

「ん……いいわ、分かった」

「了解やで。護衛も成功したらおいしい任務やしな」

 カノンは少し渋い顔だったが、難波は明るい表情でウインクした。

「宇部ちゃんやっけ、あんたもうちらといや。その機体やと限界やろ」

「はっ、はい!」

 少女の機体は慌てて難波達に駆け寄った。

「宮島と香川は、残弾と属性添加機のチェック。異常が無いなら、悪いがもう少し先に行くぞ」

「任せとけって。ここからが俺のサクセスストーリーの幕開けだからよ。この戦いが終わったら、実家のお好み焼き屋も建て直してさ。日本を守った英雄として、モテモテ人生の始まりだぜ!」

「だから宮島、そう言う台詞は……」

 !!!!!!!!!!!!!!! 

 香川の言葉は、大音量の叫びに掻き消されていた。

 やがて左手の高台から地響きが起こった。大地を踏み割り、瓦礫を巻き上げ、巨大な何かが駆け降りてくるのだ。

 サイズは20メートルを越えるだろう。

 蜘蛛のような8脚の足に、硬皮の発達した人型の上半身。4本の腕は、先端が弧を描いた刃物状で、周囲の建物を玩具おもちゃのように切断していた。

 頭部にはいびつな兜のごとく無数の角が生え、巨大な三つ目がこちらを見据えている。

 腹にも巨大な口が備わっていて、時折それが開いては、轟くような叫びを上げていた。

 更にそいつの周囲には、4つ足で狼のような形をした餓霊……識別名走狗そうくタイプが、10体以上付き従っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

【2章完結】これは暴走愛あふれる王子が私を呪縛から解き放つ幸せな結婚でした。~王子妃は副業で多忙につき夫の分かりやすい溺愛に気付かない~

松ノ木るな
恋愛
スコル侯爵家の長女、ユニヴェールは夜空のごとし群青色の髪を持って生まれた。 それはその地に暮らす人々にとって、厄災に見舞われる呪いの髪色。家ごと蔑まれることを恐れた家族に、彼女は3つの頃から隠されて育つ。 ろくに淑女教育を受けず、社交経験もなく、笑顔が作れない、28歳ユニヴェール。 日陰者の運命を受け入れ慎ましく過ごしていたというのに、ここにきて突然、隣国へ嫁ぐよう言い渡される。 長年断交状態であった隣国と、和平への道が開かれたばかりの昨今。友好の証にあちらの第三王子の元へ……、つまり人質の役目を押し付けられた形だ。 信頼を寄せる執事とメイドを連れ、その地に踏み入れた彼女。 あれよあれよという間に新婚初夜、夫となった人は言う。 『君だけを、世界の終わるその瞬間まで、愛すると誓おう──』 ではなくて、こっちでした。 『君を言語教師に任命する!』 ……赤い花びらの散るベッドで甘い香りに包まれながら、 これは リクルートですか?? ※ 登場人物がふたつの国の言語を話すので   主人公の国の言葉は 「このカッコ」   ヒーローの国の言葉は 『このカッコ』    このように表現しております。 ✽ 正タイトルは「あなたと私を結ぶ運命の青い糸」です。✽

夜紅前日譚

黒蝶
キャラ文芸
母親が亡くなってからというもの、ひたすら鍛錬に精を出してきた折原詩乃。 師匠である神宮寺義政(じんぐうじ よしまさ)から様々な知識を得て、我流で技を編み出していく。 そんなある日、神宮寺本家に見つかってしまい…? 夜紅誕生秘話、前日譚ここにあり。 ※この作品は『夜紅の憲兵姫』の過去篇です。 本作品からでも楽しめる内容になっています。

TAKAMURA 小野篁伝

大隅 スミヲ
キャラ文芸
《あらすじ》 時は平安時代初期。小野篁という若者がいた。身長は六尺二寸(約188センチ)と偉丈夫であり、武芸に優れていた。十五歳から二十歳までの間は、父に従い陸奥国で過ごした。当時の陸奥は蝦夷との最前線であり、絶えず武力衝突が起きていた地である。そんな環境の中で篁は武芸の腕を磨いていった。二十歳となった時、篁は平安京へと戻った。文章生となり勉学に励み、二年で弾正台の下級役人である少忠に就いた。 篁は武芸や教養が優れているだけではなかった。人には見えぬモノ、あやかしの存在を視ることができたのだ。 ある晩、女に救いを求められる。羅生門に住み着いた鬼を追い払ってほしいというのだ。篁はその願いを引き受け、その鬼を退治する。 鬼退治を依頼してきた女――花――は礼をしたいと、ある場所へ篁を案内する。六道辻にある寺院。その境内にある井戸の中へと篁を導き、冥府へと案内する。花の主は冥府の王である閻魔大王だった。花は閻魔の眷属だった。閻魔は篁に礼をしたいといい、酒をご馳走する。 その後も、篁はあやかしや物怪騒動に巻き込まれていき、契りを結んだ羅城門の鬼――ラジョウ――と共に平安京にはびこる魑魅魍魎たちを退治する。 陰陽師との共闘、公家の娘との恋、鬼切の太刀を振るい強敵たちと戦っていく。百鬼夜行に生霊、狗神といった、あやかし、物怪たちも登場し、平安京で暴れまわる。 そして、小野家と因縁のある《両面宿儺》の封印が解かれる。 篁と弟の千株は攫われた妹を救うために、両面宿儺討伐へと向かい、死闘を繰り広げる。 鈴鹿山に住み着く《大嶽丸》、そして謎の美女《鈴鹿御前》が登場し、篁はピンチに陥る。ラジョウと力を合わせ大嶽丸たちを退治した篁は冥府へと導かれる。 冥府では異変が起きていた。冥府に現れた謎の陰陽師によって、冥府各地で反乱が発生したのだ。その反乱を鎮圧するべく、閻魔大王は篁にある依頼をする。 死闘の末、反乱軍を鎮圧した篁たち。冥府の平和は篁たちの活躍によって保たれたのだった。 史実をベースとした平安ダークファンタジー小説、ここにあり。

あやかし奏の宮廷絵巻~笛師の娘と辿る謎解き行脚~

昼から山猫
キャラ文芸
古き都では、雅(みやび)なる楽の音にあやかしが集まると信じられていた。名家の笛師を父に持つ凛羽(りんう)は、父の急逝を機に宮廷に呼び出され、皇女のもとで笛を吹く役を任される。華やかな后妃たちの居並ぶ中、艶やかな音色を奏でる日々が始まるが、同時に何者かが宮中で不思議な事件を引き起こしていた。夜毎に消える女官、姿を見せる妖しの影……笛の音に導かれるように、凛羽の前には謎の手掛かりが次々と浮かび上がる。音色に宿る不思議な力と、亡き父が研究していた古文書の断片を頼りに、凛羽は皇女や侍衛たちと手を組み、事件の真相を探り始める。あやかしを退けるのではなく、共に音を奏でる道を探す凛羽の思いは、やがて宮廷全体を動かしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...