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第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編
孤立した被災者を救助せよ
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人造の巨人が旧市街を駆け抜けて行く。機体の上下動と共に街路塗装がひび割れ、建物のガラスが波打った。
折れた送電柱がそこかしこに倒れかかり、外れ落ちた円筒形の変圧器が、空き缶のように転がっていく。少し古めかしい例えをすれば、西部劇の回転草というところか。
「!」
不意に画面上にコールサインが入ると、指揮車の池谷中佐が映し出された。
「それでは作戦を確認する。先に送った通り、半島東側の退避ルートが、敵の強襲のため遮断され、避難中の住民・推定200人以上が孤立している。上空は帯電粒子が強く、航空機も飛行・偵察が出来ない。取り急ぎ鳴瀬隊が先行して捜索に当たり、発見次第、避難民の保護と付近の制圧にあたって欲しい。先行部隊が場を確保した後、輸送車両が合流。避難民を乗せて退避してくれ」
画面には、輸送部隊の指揮官の顔が表示された。
誠と同じぐらいの歳の、賢そうな顔の少年である。
「送迎と護衛を担当する音羽隊です。よろしくお願いします」
「先発隊の鳴瀬です、よろしく」
「そろそろ通信妨害粒子が濃くなるだろう。私と通信が効きにくくなるため、現場の判断で行動して構わない。本来であれば、とても作戦遂行のための戦力には足りないが……それでも諸君等の健闘を祈る……!」
中佐の言葉と共に、画面上の通信ウインドウは閉じられた。
餓霊の放つ帯電した妨害粒子により、指揮車に備わる強力な通信システムでさえ、長距離の会話は不可能なのだ。
誠は隊員達に声をかけた。
「聞いた通りだ、質問は?」
「特に無いわ」
カノンを含め、一同はモニターで頷いた。
誠はそこで機体を加速させる。
「……前方交差点に破断線あり、各自飛び越えろ」
誠の機体は走りながら身をかがめ、瞬時に跳躍。軽々と道路の割れ目を飛び越えていく。
人型重機の操作には何段階かあり、通常の第一段階……走行などの単純運動は、機体のOSがその殆どを処理してくれる。パイロットは進路や速度の設定だけでよく、路面の凹凸に対する姿勢制御も、機体が自動でやってくれた。
次に第二段階となる戦闘行為……餓霊との射撃戦や格闘戦に入った場合は、全てが全自動というわけにいかない。
敵の体からは、レーダーやロックオン兵器の認識を阻む帯電粒子が放出されているため、人の目で見て判断せねばならないからだ。
これをセミオート操作といい、ある程度の操作はパイロットが行うが、格闘や射撃における細かい運動制御は、やはりОSが微調整してくれた。
しかしもっと接近し、コンマ一秒を争う戦いとなると、前述の操作では間に合わなくなる。そこでパイロットの考えをそのまま反映させるべく、機体と意識をシンクロさせるのだ。
これが第三段階の接続操作で、機体はパイロットの思う通りの動きが出来る。
ただしパイロットには多大な神経負荷がかかるため、接続操作はとっさの数秒程度発動したら、すぐに解除するのが通例だった。
東岸への迂回路に入った途端、戦いの気配が濃くなった。倒れた建物に刻まれた爪痕、血のように撒き散らされたオイル痕等が、目に入るようになったのだ。
ただそんな凄惨な光景とは裏腹に、雲間からは明るい光が差し込んでいた。まるで天から何かが下りて来た光のトンネルのようだ。
でも誠は、神仏にすがるほど純粋ではない。
信じれば天の国が降りてくるとよく言うが、現実はそうではなかった。ただ海原が満ちるがごとく、地獄が上がってきただけだ。
「……っ!? さっきから何なんだよ……!」
再び強い頭痛がして、目の前に火花が走った。
また何かの映像が、誠の頭に浮かんでくる。これは多分、5歳ぐらいの記憶だろうか。
故郷の島の西岸にある宮浦港。
そこから続く、石灯籠の並ぶ海沿いの道を、誠は母に連れられ歩いた。
昔、ここでハリウッド映画の撮影があったのよ、などと言う母は上機嫌だったが、黒い毛虫が道を沢山横切っており、誠の興味は毛虫の方に惹き付けられた。
やがて曲がりくねった道の彼方に、オレンジと緑に彩られた建物が見えて来る。
「あれはすごく古いお社で、阿奈波神社っていうの。遠い昔に、とても苦労をした女神様がいるのよ」
母はそう言って神社を指差した。
「その神様はね、自分が辛い思いをしたのに、病気を治してくれたりする、凄く立派な神様なの。どんなに時代が流れても、そういうのって素敵よね」
幼い誠は素直に頷いた。
コンクリートの堤防から見下ろす磯場には、石造りの少女像が見えた。故郷の島に伝わる戦国時代の姫君で、鶴姫というらしい。
「お姫様とあの神様は仲がいいの?」
誠が何の気無しに尋ねると、母は「そうかもしれないわね」と微笑んだ。
だがその社も、程なく大型の台風で壊れてしまった。
海辺の道も土砂崩れで通行止めになり、田舎の島には直す予算もなかった。
けれどその神は怒る事も無く、人々は次第に社を忘れていく。
(……何を考えてる、神なんていない。自分で強くなるしかないんだ)
誠がそこまで考えた時、彼方から轟くような咆哮が聞こえた。
やがて一台のバスが目に入った。青と白に塗装されたそのバスは、前輪を瓦礫に乗り上げ、大きく傾いて停止している。
バスのすぐ横には、一体の人型重機が尻餅をつき、手にした銃で射撃していた。
誠は通信回線を開き、同時に外部拡声器で呼びかけた。
「こちら鳴瀬隊、これより友軍とバスを援護します」
折れた送電柱がそこかしこに倒れかかり、外れ落ちた円筒形の変圧器が、空き缶のように転がっていく。少し古めかしい例えをすれば、西部劇の回転草というところか。
「!」
不意に画面上にコールサインが入ると、指揮車の池谷中佐が映し出された。
「それでは作戦を確認する。先に送った通り、半島東側の退避ルートが、敵の強襲のため遮断され、避難中の住民・推定200人以上が孤立している。上空は帯電粒子が強く、航空機も飛行・偵察が出来ない。取り急ぎ鳴瀬隊が先行して捜索に当たり、発見次第、避難民の保護と付近の制圧にあたって欲しい。先行部隊が場を確保した後、輸送車両が合流。避難民を乗せて退避してくれ」
画面には、輸送部隊の指揮官の顔が表示された。
誠と同じぐらいの歳の、賢そうな顔の少年である。
「送迎と護衛を担当する音羽隊です。よろしくお願いします」
「先発隊の鳴瀬です、よろしく」
「そろそろ通信妨害粒子が濃くなるだろう。私と通信が効きにくくなるため、現場の判断で行動して構わない。本来であれば、とても作戦遂行のための戦力には足りないが……それでも諸君等の健闘を祈る……!」
中佐の言葉と共に、画面上の通信ウインドウは閉じられた。
餓霊の放つ帯電した妨害粒子により、指揮車に備わる強力な通信システムでさえ、長距離の会話は不可能なのだ。
誠は隊員達に声をかけた。
「聞いた通りだ、質問は?」
「特に無いわ」
カノンを含め、一同はモニターで頷いた。
誠はそこで機体を加速させる。
「……前方交差点に破断線あり、各自飛び越えろ」
誠の機体は走りながら身をかがめ、瞬時に跳躍。軽々と道路の割れ目を飛び越えていく。
人型重機の操作には何段階かあり、通常の第一段階……走行などの単純運動は、機体のOSがその殆どを処理してくれる。パイロットは進路や速度の設定だけでよく、路面の凹凸に対する姿勢制御も、機体が自動でやってくれた。
次に第二段階となる戦闘行為……餓霊との射撃戦や格闘戦に入った場合は、全てが全自動というわけにいかない。
敵の体からは、レーダーやロックオン兵器の認識を阻む帯電粒子が放出されているため、人の目で見て判断せねばならないからだ。
これをセミオート操作といい、ある程度の操作はパイロットが行うが、格闘や射撃における細かい運動制御は、やはりОSが微調整してくれた。
しかしもっと接近し、コンマ一秒を争う戦いとなると、前述の操作では間に合わなくなる。そこでパイロットの考えをそのまま反映させるべく、機体と意識をシンクロさせるのだ。
これが第三段階の接続操作で、機体はパイロットの思う通りの動きが出来る。
ただしパイロットには多大な神経負荷がかかるため、接続操作はとっさの数秒程度発動したら、すぐに解除するのが通例だった。
東岸への迂回路に入った途端、戦いの気配が濃くなった。倒れた建物に刻まれた爪痕、血のように撒き散らされたオイル痕等が、目に入るようになったのだ。
ただそんな凄惨な光景とは裏腹に、雲間からは明るい光が差し込んでいた。まるで天から何かが下りて来た光のトンネルのようだ。
でも誠は、神仏にすがるほど純粋ではない。
信じれば天の国が降りてくるとよく言うが、現実はそうではなかった。ただ海原が満ちるがごとく、地獄が上がってきただけだ。
「……っ!? さっきから何なんだよ……!」
再び強い頭痛がして、目の前に火花が走った。
また何かの映像が、誠の頭に浮かんでくる。これは多分、5歳ぐらいの記憶だろうか。
故郷の島の西岸にある宮浦港。
そこから続く、石灯籠の並ぶ海沿いの道を、誠は母に連れられ歩いた。
昔、ここでハリウッド映画の撮影があったのよ、などと言う母は上機嫌だったが、黒い毛虫が道を沢山横切っており、誠の興味は毛虫の方に惹き付けられた。
やがて曲がりくねった道の彼方に、オレンジと緑に彩られた建物が見えて来る。
「あれはすごく古いお社で、阿奈波神社っていうの。遠い昔に、とても苦労をした女神様がいるのよ」
母はそう言って神社を指差した。
「その神様はね、自分が辛い思いをしたのに、病気を治してくれたりする、凄く立派な神様なの。どんなに時代が流れても、そういうのって素敵よね」
幼い誠は素直に頷いた。
コンクリートの堤防から見下ろす磯場には、石造りの少女像が見えた。故郷の島に伝わる戦国時代の姫君で、鶴姫というらしい。
「お姫様とあの神様は仲がいいの?」
誠が何の気無しに尋ねると、母は「そうかもしれないわね」と微笑んだ。
だがその社も、程なく大型の台風で壊れてしまった。
海辺の道も土砂崩れで通行止めになり、田舎の島には直す予算もなかった。
けれどその神は怒る事も無く、人々は次第に社を忘れていく。
(……何を考えてる、神なんていない。自分で強くなるしかないんだ)
誠がそこまで考えた時、彼方から轟くような咆哮が聞こえた。
やがて一台のバスが目に入った。青と白に塗装されたそのバスは、前輪を瓦礫に乗り上げ、大きく傾いて停止している。
バスのすぐ横には、一体の人型重機が尻餅をつき、手にした銃で射撃していた。
誠は通信回線を開き、同時に外部拡声器で呼びかけた。
「こちら鳴瀬隊、これより友軍とバスを援護します」
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