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第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編

女神様は心配だ

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 コマが奮闘していたのと同じ頃。

 大量の書類に頭を悩ませながら、女神・岩凪姫は仕事に没頭していた。

 場所はどこかの社務所らしき広間である。

 大きな机には書類が満載されており、コマとは違う、眼帯アイパッチを付けたワイルドそうな狛犬が、せっせと作業を手伝っていた。

 いや、狛犬だけではない。キツネに猿に龍に牛……小さく可愛らしい神使しんし達が集まって、書類に目を通しては、幾つかの箱に仕分けしている。龍だけは他の神使の何倍も大きくて体が太く、いわゆる筋肉リュウリュウだった。

 資料には人々の生まれ・育ち・してきた善行や悪行などが書かれているのだ。

「ううっ、これじゃ終わらんぞ。なあ牛太郎うしたろう

 大量の書類にうんざりしたのだろう。眼帯アイパッチを付けた狛犬が弱音を吐いて、傍らの牛に声をかけた。

「こんなとき天神様が来てくださったら、億人力おくにんりきなんじゃけどな」

「殆どの神様は手が離せませんので、私達がモウレツに頑張るしかないのです」

 牛は努力家のようだが、天然の毛があるらしい。横からキツネが「ここ間違っとるで」と訂正していた。

 女神も書類に目を通すのだったが、こちらも眉間にしわを寄せている。

「……うーむ、いつ見ても問題だらけだな。あちらを立てればこちらが立たず。鶴達に会わせようにも、その間に別の所が手薄になるし……」

「大体、気合のある奴が少な過ぎるんですぜ」

 アイパッチを付けた狛犬が、テーブルにちょこんと座って同意すると、菅笠すげがさを被り、旅装束を着た猿も後を続けた。

「いや、まったくその通り。こんなご時勢じゃ、大抵の人はしょぼくれちまってますからねえ。厄介事は見ザル聞かザルでさあ」

「うむ。うまくいくよう仕向けるにも、当人がへこんでいてはどうにもならぬからな」

 女神は椅子の背もたれに身を預け、宙を見上げた。

「その点あの子は、元気だけは人一倍なのだが……」

 女神はそこで動きを止めた。再び眉間に皺が寄り、口元がひきつる。

「いや、元気過ぎるのが心配……心配だな。ちょっと連絡してみるか」

 女神は傍らにあるモニターのスイッチを入れた。

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