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第一章その1 ~始めよう日本奪還~ 少年たちの苦難編

聖者様はストライキ中 2

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 画面からは勇ましい音楽が流れ始め、鶴は身を乗り出した。

「何それ、面白そう。見世物でも始まるの?」

「違う! 違うがとにかく、今度の舞台は未来だっ。成り上がるのも戦うのも、昔とは比べ物にならぬほど難しいぞ。南蛮風に言えば、人生の高難易度版ハードモードだ」

 そこで映像は切りかわり、異形の化け物どもが映し出された。足元に鶴とコマが映っているので、その大きさ具合がよく分かる。

「これが日の本を襲っている人喰いの化け物、通称『餓霊がりょう』だ。魔界の魂……悪しき亡者が肉体を得たと思えばいいが……身の丈は並のものでも巨木並み、大きい奴は山ほどに達するだろう。こやつらに陸は殆ど支配され、人々は日々、死の恐怖に怯えているのだ」

「ムム、それは可哀想ね。この怪物に焙烙ほうろく(※水軍が用いた手投げ爆弾)とかぶつけたら、やっつけられないの?」

「そう簡単にはいかぬ」

 女神はさらに映像を切りかえた。画面には、怪物達の体から魔法のような光が出ている様子が映る。

「奴らは魔法……今風に言えば、体内で作り出した『電磁式でんじしき』で、周囲の物理・化学現象を操ってしまう。弾丸を弾いたり、ミサイルの燃焼を弱めるバリアまで作り出す。ええい寝るなっ! 難しい言葉が出るとすぐこれだ。とにかく奴らは魔法を使うから、普通の武器が通じぬのだ」

 鶴は眠気眼ねむけまなこを擦りながら、手をあげて意見する。

「はいナギっぺ、それじゃやっつけられないと思います」

「そう、そこで人々は、奴らの魔法を研究し、自らも武器を強くしたのだ」

 画面は未来の銃や剣の映像に切り替わった。一見ごく普通の武器だったが、持ち手に近い部分が隆起し、何かの機器が付けられている。

 鶴は珍しい物が好きなので、「これはいいものだわ、1つもらえないかしら」などと言ってはしきりに頷いている。

「よしよし、興味があるならちゃんと聞けよ。このように、銃や剣の付け根が膨らんでいるだろう。ここに『属性添加機ぞくせいてんかき』が付けられている。これで電磁式……要するに魔法を作り出し、弾丸の貫通力を高めたり、剣の切断力を増したりする。だから寝るなと言っておろうがっ! とにかく、ただの鉄砲の弾に魔法をかけたら、どんなものでも撃ち抜けるし、普通の剣が光り出したら、とんでもなく切れ味が増すっ! これを属性添加技術といって、人間達の切り札なのだ。武器+魔法、これが基本だし、魔法をかけてない武器では怪物どもに通じない」

「なるほど、これは分かりやすいわ」

「だが敵の兵力は圧倒的だ。だから鶴よ、私やお前が行って、人々に加勢するのだ。そして悪党どもを討ち倒し、日の本の国を立て直すのだ」

「任せといて。私そういうの得意だから」

 鶴はぐぐ、と拳を握り、燃える瞳で決意を固めている。

 女神は満足そうに頷くと、身をかがめ、鶴の耳元に口を寄せた。

「…………それからもう一つ。これは言い辛い事なのだが……」

 女神は何か囁いたが、鶴は力強く頷いた。

「構わないわ。その分早く日本を取り戻して、沢山楽しめばいいのよ!」

 そんな女神と鶴をよそに、コマはせっせと作業を進めている。鬼達に大量の書類を貰い、ハンコを押しまくって、現世に戻る手続きをするのだ。

「それじゃ鬼助おにすけ、出所手続きはこれでいいね。今は鶴の機嫌がいいから、このまま現世に転移するよ」

「へい! やった、これであっしらも安心出来ます!」

 鬼達は希望を取り戻し、涙を流して喜び合った。

 やがてやる気に満ち溢れた鶴は、まばゆい光に包まれた。

「それじゃ行ってくるわ。元気でねコマ、それにナギっぺ!」

「いやちょっと、僕も一緒に行くんだけどね」

 コマは慌てて鶴に駆け寄り、女神は2人に言葉をかける。

「頑張れよ。現世の文字や言葉は分かるようにしてあるし、困ったら神器を出して使いなさい。妹が監修したものだから、きっと助けになるだろう」

 女神はそこで、小さな何かを投げて寄越した。

 鶴が両手でキャッチすると、澄んだ音色が響き渡る。それは小さな鈴だったのだ。

「これ……」

「持っていきなさい。あの日止まったその音色を、再び現世で鳴らすのだ」

「……うん。ありがとうナギっぺ」

 女神の言葉に、鶴は少し潤んだ目で頷いた。

 周囲では、いつの間にか集まってきた牛やキツネ、龍にサルなど、小さな神使しんしが声援を送っていた。

「姫様、モウレツに格好いいです!」

「流石は姫様、輝いとるでえ!」

「それはそうよ、だって私よ?」

 ドヤ顔の鶴に呆れながら、女神は締め括りの言葉をかけた。

「まったく、元気になるとすぐこれだが、とにかく今は行って来い! 人の世をむしばむ悪党どもに、正義の鉄槌を下してやれ…………って、もういない!?」

 女神の慌てる声が聞こえたが、鶴とコマは現世へと転移していた。周囲の光が少しずつ薄れると、2人は高い空に浮かんでいたのだ。

「わあ……!」

 巻き上がる潮風が頬を撫で、からかうようにくすぐっていく。

 眼下には、色鮮やかな瀬戸内海が広がっていた。緑溢れる無数の島と、青く輝く美しい水面みなも。潮流は白銀の糸目模様のようだ。

 けれど懐かしいだけでなく、鶴達の見慣れぬ物も沢山あった。

 行き交う船は小島ほどのサイズで、一体何千人が乗れるのかも分からない。

 浜辺に築かれた幾つもの町は、光を受けてきらきらと輝いていた。よほど滑らかに磨いているのか、それとも宝石のような素材なのか。

 島と島の間には、崩れ落ちた巨大な橋の残骸も見えた。あんな大きな橋を、誰がどうやって架けたのだろう?

 鶴は興奮気味にコマに言った。

「凄いわコマ、なんて進んだ時代なのかしら。きっと大冒険が始まるわよ?」

「それはいいけど、まずは黒鷹を探さなきゃ。思ったより現世の邪気が濃いから、変な所に出たみたいだよ」

「それもそうね」

 鶴は懸命に目を凝らした。懐かしい思い人の気を探そうとするが、そう簡単には見つからない。

「うーん、さっぱり勝手がわからないわ」

「まだ君も現世に慣れてないもんね」

 その時鶴は、一際大きな船……現代風に言えば、空母ほどもある一隻に目を留めた。

「ねえコマ、とりあえず一番大きな安宅船あたけぶねがあるし、黒鷹もあそこじゃないかしら」

「そう都合よくはいかないと思うけど、じっとしても仕方ないね。とりあえず行ってみようか」

「よーし、そうと決まれば善は急げよ!」

「ちょっと鶴、速いよ!?」

 2人は流れ星のごとく、猛スピードで落下していった。



※※↑八幡神社の正式な神使はハトですが、作品の都合上ガンパチくんに頑張ってもらいます。

※※↓こちらは一番最後に描いた4コマ風挿し絵。描いた時期によって、だいぶ絵柄が変わっていますね。

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