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プロローグ ~そして日本は砕け散った~

少年の危機にレーザーを発射する姫君

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 最初に浮き足立ったのは、九州の人々だった。政府肝いりで建設され、式典中だった高千穂竜芽細胞研究所たかちほけんからの中継が途絶えたからだ。

 事故やサイバー攻撃など、様々な憶測おくそくが乱れ飛んだが、やがてネットに妙なメッセージが溢れた。

『ヤバイやばいマジでやばい』

『何だあれ? でかいゾンビ!?』

 余程慌てていたのか、書き込みは脈絡に欠けていたが、突如その表現は一変する。『喰われる』という言葉が、幾千万も乱れ飛んだのだ。

 そして報道が始まった。

 被害は九州だけでなく、日本全土に及んでいる。関門かんもん海峡を越え、各地の道路を伝って、恐るべき速さで広がっていくのだ。

 押し寄せる救助要請に、消防は瞬く間にパンクした。

『救助の要請が多発し、すぐに向かう事は出来ません。出来る限り安全を確保して下さい』

『安全なんて、どうすりゃいいんだよ!? あいつらすぐ外にいるんだよ!』

 消防への怒号は悲鳴に変わり、悲鳴はすぐに途絶えていった。

 …………そしてこの国はあっけなく崩壊したのだ。

 地上は亡者どもの跋扈ばっこするゴーストタウンと化し、荒れ果てた山野は災害を頻発させた。

 けれどそんな折。今年17歳になった少年が、ある日不思議な夢を見た。赤い溶岩マグマが湧き上がる岩場に、長身の女性が立つ夢だ。

 女性の全身から白い光が立ち昇っており、少年は直感で彼女が日本神話の女神だと理解していた。

 女神は少年にこう告げるのだ。

「今よりしばしの後、この国を守る神の使い……つまり聖者が、お前の元にやって来る。その者を助け、共に戦い、悪鬼羅刹あっきらせつからもとを取り戻すのだ」

 女神は声に力を込め、高らかに訴えかける。

「さあ始めよう。この未曾有みぞうの危機を乗り切り、国守る物語を。きっと未来の子供らは、お前達を伝説の世代として尊敬し、その勇気に感謝するだろう……!」

 ふいに女神から強い風が吹きつけ、少年は顔を背けた。

 耳を叩く突風は、やがて甲高い笛のに変わっていく。

 少年が顔を上げると、既に女神も岩場も消えており、彼は漆黒の宙に立ち尽くしていた。ただ彼方から無数の光と映像が、彼を目掛けて近付いて来る。

 笛の音は太鼓を引き連れ、辺りに力強い旋律が響き始めた。

(何だ、一体何が始まるんだ……!?)

 そして少年は目にした。迫り来る映像の中に、鎧姿の姫君を。彼女と共に怪物を切り伏せ、人々を守る自分の姿を。

 花火に祭りに伝統行事――懐かしい日本の情景が乱れ飛び、扇子や富士山まで現れた。

 派手な神輿みこしが駆け巡り、カラフルな錦鯉が飛び上がると、光の飛沫ひまつが桜花となって乱れ飛ぶ。

(……誰かふざけてるのか? 観光用のプロモーションビデオのつもりなのかよ)

 彼は内心毒づいたのだが…………次の瞬間、少年の背後から地響きが起こった。
 
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 あの亡者達の足音だろうか? いや、違う。

 振り返ると、象ほどもある獣にまたがり、ハチマキを締めた鎧姿の少女が、こちらに突進していたのだ。

 少女は声を限りに叫んでいる。

黒鷹くろたか、私よ、黒鷹ああああああっ!!!!!」

「い、いやいや、いやいやいやいや……」

 少年は後ずさった。事情は全く分からないが、少女と巨獣は猛烈な勢いで近付いて来るのだ。

「黒鷹って、俺の事か!? いやちょっと、危ない、危ないから!」

「黒鷹ああああああああっ!!! 私よ、つるよ、助けに来たわああああ!!!」

 鶴と名乗る少女は、まるで聞く耳を持たなかった。

 彼女の体が光に包まれたかと思うと、強力なレーザーが発射されたのだ。1本1本が丸太のようなその光は、機関銃マシンガンのごとく降り注いでくる。

「何で、鎧で、レーザー!? うわああああっっっ!!!」

 激しい光に身を焼かれたその少年、名を鳴瀬誠なるせまことという。

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