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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

徒歩なのに逃げる

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「まったく、毎度毎度忙しいのお!」

「黙って走れ、剛角!」

 山あいを縫うアスファルトの道路を、鬼達は走り続けていた。

 傍らには熊襲の一族も併走していて、ちょっとしたマラソン大会のようだ。

 剛角は焔に嫌味を言った。

「お前ら、えらそーな事言うとったくせに、なんじゃこのていたらくは。走って逃げるとか意味が分からん」

「しょーがないだろ鬼ども、阿蘇の龍穴が閉じて、ここら一帯浄化されてるんだ。もうちょい離れなきゃ、転移の術もできないんだよ」

 焔はそう反論するが、そこでふと足を止めた。

 道端の林の中に、数人の子供を見つけたのである。

 子供は一同に気付くと、怯えて後ずさった。

「あの百足、どっかで振り落としたんか? 雑な術じゃな」

 紫蓮がジト目で言うと、焔が弁解する。

「それもしゃーない、神使が乗ってたんだ。中で暴れりゃ術も乱れるだろ……」

 焔が困ったように頭をかいているので、燐火が気を利かせて声をかけた。

「……どうするの焔? 夜祖様なら、連れて帰れと言うんでしょうけど」

「御前様もお怒りだからなあ。連れ帰ったら、ぐちゃぐちゃに喰い殺されるぜ?」

 焔はそこで子供から目をそらした。

「……どーせ勝ち負けに関係ないんだ。見なかった事にしとくか、燐火ちゃん」

「…………確かにね。無駄に死ぬ事もないだろうし」

 焔の言葉に、燐火も肩をすくめた。

 子供に向き直り、燐火は火口の方を指差す。

「お行きなさい。あっちよ、分かる?」

 だが子供は震えているだけだ。

 焔はしばらく黙っていたが、片手を差し出し、何事か唱え始める。

 やがてアスファルトの路面に、赤い幾何学模様が生まれると、もうもうと煙を立ち昇らせ始めた。

狼煙のろし代わりだ、これで気付くさ」

 焔はそこで、鬼の2人の様子に気が付く。

 鬼達は金棒や斧を使って、アスファルトにごりごり文字を書いているのだ。

「よしっ、これで完成じゃ。紫蓮、行くぞ!」

「よしきた!」

 紫蓮は懐をまさぐると、子供に飴の袋を投げて渡した。

「それでも食って待っとけ、迎えが来るからの」

 でかでかと刻まれた、『次は決着つけるぞ!』の文字を残し、魔族達は山道をひた走った…………が、そこで焔が口を開いた。

「今思いついたんだけどさ燐火ちゃん。徒歩とほって『かち』とも読むじゃんか」

「だから何よ」

 燐火は怪訝そうである。

「負けたのに、徒歩かちで逃げるって面白くね?」

「……くっだらない」

 燐火は眉をひそめた。

「……今ので決めた。あんたがうんとヘマしたって報告するわ」

「嘘だろやめて、燐火ちゃん!?」

「ワハハハ、バカな連中じゃのお」

 もめる熊襲達を眺め、剛角はニヤついていたが、そこで再び足を止めた。

「どうした剛角? 置いていくぞ」

 足踏みしながら紫蓮が尋ねると、剛角は不思議そうに辺りを見回す。

「いや、気のせいかのお。さっきから、姫さんが来てるような気がするんじゃが」

「そんなわけないじゃろ」

 紫蓮がそう言うと、空の彼方に何かが輝く。

 陽光を反射するそれは、間違いなく数機の人型重機であった。

「アホか剛角っ、姫さんどころか敵じゃろうが!」

「やばいっ、お前ら逃げろ!」

 一同は飛び上がり、道を外れて林の中へ駆け込むのだった。
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