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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編
阿蘇のお山も嬉しそう
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結界が崩壊したと同時に、人間達は行動していた。
「みんな、今よっ!」
鶴の号令と共に、志布志隊が黒き社に突入するのだ。
カノン達も援護し、炎に包まれた拝殿まであと少しだ。
だがそこで魔族達の鎧が、猛烈な勢いで突進してきた。
「もう間に合わんぞ、人間ども! 御前様は間もなくこの世にご顕現なされる!」
鎧は赤い刀を振るい、拝殿に寄せ付けまいと威嚇したのだが。
「いいえ、まだ間に合うわ!」
頭上を飛び越えるのは、象ほどに巨大化したコマと、その背に乗る鶴である。
「行かせるか、小娘!」
鎧が追いすがろうとするが、そこに志布志隊が立ち塞がる。
他の魔族の鎧も同様に、味方が必死に足止めしていた。
その時、湧き上がる炎が拝殿の屋根を吹き飛ばした。
燃え上がる魔法陣に座する女が……そして彼女を覆う、巨大なオレンジ色の体が見える。
不可視の波動が一同を叩き、人間側も、いや魔族の鎧や餓霊ですらも、押されたように後ずさった。
人ならぬ古の邪神の力であり、猛烈な霊圧である。
「鶴、行くぞ! 魔封じの勾玉だ!」
「任せてコマ!」
再び波動がコマを襲うが、コマは高くジャンプしてそれをかわした。
そして青い光が、鶴の周囲から無数に飛び出す。光の中には、それぞれ勾玉らしきものが見えた。
勾玉は踊るように舞い飛ぶと、邪神の周りを取り囲んだ。
「ぎ、ぎいいいいい!!!!!」
女は途端に叫び声を上げた。
「ご、御前様っ!!!」
鎧の一体が、女をかばうように飛び込んだが、勾玉の輝きは強まるばかりだ。
立ちのぼる炎が勢いを弱め、女と鎧は、少しずつ地の底へと沈んでいった。
「岩凪姫の勾玉か……! おのれ、いつもいつも我らから奪いおって……!」
邪神は恨みに燃える目で、鶴とコマを見据えた。
白い手を伸ばし、牙の生えた口で叫ぶ。
「あな口惜しや、高天原の神人よ……!!! その顔覚えたぞ、次は冥府に引きずりこんでやる……!!!」
我が呪い、あなどるなかれ……!
そう言い残した言葉が最後だった。
赤い光が爆発したように輝くと、黒き社が崩れていくのだ。
周囲の餓霊はもがき、蒸発するように消えていく。
やがて光が完全におさまった時。真っ青に澄み切った空が、阿蘇上空に広がっていた。
「……か、勝った……! 勝ったぜこんちくしょうっ!」
壮太の声を皮切りに、皆が一斉に歓声を上げる。
第5船団、第6船団……いずれの船団からの兵も、共に喜びに駆られていた。
コマは元の大きさに縮むと、拝殿の跡を歩き回った。
「阿蘇の龍穴は閉じたし、熊襲御前の気配も消えたね。随分力を使ったから、しばらく出て来れないはずさ」
コマはそこで鶴の様子に気が付いた。
「鶴、その左手は?」
鶴の左の手首あたりに、赤い手形のようなものが付いていたのだ。
彼女が2、3度手を振ると、手形はその色を薄めていった。
「平気よコマ。ちょっとだけ呪いをもらったみたい」
「……ま、相手が相手だからね。上出来のうちだよ」
コマはそう言って鶴の肩に飛び乗ったが、そこで遠くに立ちのぼる煙に気が付いた。
「何だろう。誰かの狼煙かな?」
コマは鶴の肩に2本足で立ち、彼方の煙を見つめる。
「もしかしたら、逃げ遅れの人がいるのかもしれないよ?」
「このみんや、もっちゃん達に報せておくわ。迎えに行ってもらいましょう」
鶴はそう言って、狼煙とは反対側に目をやった。
「こっちも煙がモクモクよ。阿蘇のお山も嬉しそうね」
そびえ立つ阿蘇の頂は、今は静かに煙を立ち昇らせている。
惨劇の始まりから10年。
始まりの地・九州は、こうして人々の手に取り戻されたのだった。
「みんな、今よっ!」
鶴の号令と共に、志布志隊が黒き社に突入するのだ。
カノン達も援護し、炎に包まれた拝殿まであと少しだ。
だがそこで魔族達の鎧が、猛烈な勢いで突進してきた。
「もう間に合わんぞ、人間ども! 御前様は間もなくこの世にご顕現なされる!」
鎧は赤い刀を振るい、拝殿に寄せ付けまいと威嚇したのだが。
「いいえ、まだ間に合うわ!」
頭上を飛び越えるのは、象ほどに巨大化したコマと、その背に乗る鶴である。
「行かせるか、小娘!」
鎧が追いすがろうとするが、そこに志布志隊が立ち塞がる。
他の魔族の鎧も同様に、味方が必死に足止めしていた。
その時、湧き上がる炎が拝殿の屋根を吹き飛ばした。
燃え上がる魔法陣に座する女が……そして彼女を覆う、巨大なオレンジ色の体が見える。
不可視の波動が一同を叩き、人間側も、いや魔族の鎧や餓霊ですらも、押されたように後ずさった。
人ならぬ古の邪神の力であり、猛烈な霊圧である。
「鶴、行くぞ! 魔封じの勾玉だ!」
「任せてコマ!」
再び波動がコマを襲うが、コマは高くジャンプしてそれをかわした。
そして青い光が、鶴の周囲から無数に飛び出す。光の中には、それぞれ勾玉らしきものが見えた。
勾玉は踊るように舞い飛ぶと、邪神の周りを取り囲んだ。
「ぎ、ぎいいいいい!!!!!」
女は途端に叫び声を上げた。
「ご、御前様っ!!!」
鎧の一体が、女をかばうように飛び込んだが、勾玉の輝きは強まるばかりだ。
立ちのぼる炎が勢いを弱め、女と鎧は、少しずつ地の底へと沈んでいった。
「岩凪姫の勾玉か……! おのれ、いつもいつも我らから奪いおって……!」
邪神は恨みに燃える目で、鶴とコマを見据えた。
白い手を伸ばし、牙の生えた口で叫ぶ。
「あな口惜しや、高天原の神人よ……!!! その顔覚えたぞ、次は冥府に引きずりこんでやる……!!!」
我が呪い、あなどるなかれ……!
そう言い残した言葉が最後だった。
赤い光が爆発したように輝くと、黒き社が崩れていくのだ。
周囲の餓霊はもがき、蒸発するように消えていく。
やがて光が完全におさまった時。真っ青に澄み切った空が、阿蘇上空に広がっていた。
「……か、勝った……! 勝ったぜこんちくしょうっ!」
壮太の声を皮切りに、皆が一斉に歓声を上げる。
第5船団、第6船団……いずれの船団からの兵も、共に喜びに駆られていた。
コマは元の大きさに縮むと、拝殿の跡を歩き回った。
「阿蘇の龍穴は閉じたし、熊襲御前の気配も消えたね。随分力を使ったから、しばらく出て来れないはずさ」
コマはそこで鶴の様子に気が付いた。
「鶴、その左手は?」
鶴の左の手首あたりに、赤い手形のようなものが付いていたのだ。
彼女が2、3度手を振ると、手形はその色を薄めていった。
「平気よコマ。ちょっとだけ呪いをもらったみたい」
「……ま、相手が相手だからね。上出来のうちだよ」
コマはそう言って鶴の肩に飛び乗ったが、そこで遠くに立ちのぼる煙に気が付いた。
「何だろう。誰かの狼煙かな?」
コマは鶴の肩に2本足で立ち、彼方の煙を見つめる。
「もしかしたら、逃げ遅れの人がいるのかもしれないよ?」
「このみんや、もっちゃん達に報せておくわ。迎えに行ってもらいましょう」
鶴はそう言って、狼煙とは反対側に目をやった。
「こっちも煙がモクモクよ。阿蘇のお山も嬉しそうね」
そびえ立つ阿蘇の頂は、今は静かに煙を立ち昇らせている。
惨劇の始まりから10年。
始まりの地・九州は、こうして人々の手に取り戻されたのだった。
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