上 下
83 / 90
第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編

父が私を見捨てたんじゃない

しおりを挟む
(そうか……やっと思い出した……!)

 天草はそこで意識がはっきりしてきた。

 身を起こそうと力を入れるが、はりつけにされたように動けない。

 目を凝らすと、右足の上に、コンクリートの大きな瓦礫がれきが乗っかっていた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 再び激しい振動が襲ってくる。

 ぱらぱらと破片が降り注ぎ、はっきりと命の危険を告げていた。

 早くここから出なければ…………でもどうする?

 とても一人で動かせるような物じゃないのだ。

 ……だが、その時だった。

 カサカサと、頭上で何かが動く音がした。

 天草が目を凝らすと、頭上の瓦礫の隙間を、白く四角いものが行き過ぎていく。ちらりとしか姿が見えなかったが、まぎれも無く手紙用の封筒である。

「手紙……」

 天草ははっとした。

 あの鶴がよこした、手足の生えた手紙達。それも一通だけどんくさくて、こちらを見つけられずに走り回っていたっけ。

 次の瞬間、天草は反射的に叫んでいた。

「ま、待って! お願い、助けてくれない!?」

 手紙はすぐに戻ってきた。動きを止め、穴の下をのぞき込んでいる。

「ここよ、お願い、動けないの……!」

 手紙は手を口?のあたりにもって行き、ピーと指笛を鳴らした。

 たちまちぱたぱたと足音が響くと、沢山の小さなものが集まってくる。

 モアイ、弥五郎やごろうどんの人形、ヤシの木のぬいぐるみ……それに無数の?マークだ。

 あの港で、子供達の周囲で舞っていた彼らは、さらわれる子供を助けようとして巻き込まれたのだろう。

 彼らはわらわらと飛び降りると、協力して瓦礫を持ち上げ始めた。

 それを見ているうちに、天草は我知らず涙が溢れるのを感じた。

(バカだ、私は大バカだ……! みんなこんなに助けようとしてくれてたのに……)

 瓦礫をのけてくれると、手紙は天草の顔の近くに歩み寄った。頭の部分を開けて、中身を読めと差し出してくる。

 天草が手に取ると、およそ読めないような達筆たっぴつだったが、思念が流れ込んでくる。

『最後にこれだけは伝えたいの。みんなで日本を復興させて、めちゃんこ幸せになりましょう。きっとこのお手紙が通じると信じています』

 今なら分かる。あの鶴という子の真心が。

 急ぎ起き上がろうとしたが、物凄い痛みに飛び上がりそうになった。

 圧迫されていたから気付かなかったが、瓦礫で足が折れていたのだ。

 だがそこで、アマビエが羽ばたいた。

 天草の足のところまで飛んでいくと、彼はまばゆい光に包まれる。

 一秒……二秒。

 目もくらむばかりの輝きだったが、やがて光は薄れていく。

 痛みはもう無い。

 恐る恐る触ってみると、足は元に戻っていたのだ。

 動くようになった足の横に、あのアマビエのキーホルダーが落ちていた。

 霊力を使い果たして、元の姿に戻っていたのだ。

「………………っ」

 天草はそっとキーホルダーを手に取った。

 アマビエは何も言わなかった。

 古びてうす汚れてしまった彼は、元気良く翼を広げたまま、天草の方を見つめている。

「今までありがとう……ごめんね……!!!」

 天草はキーホルダーを胸に抱き、ありったけの念で感謝を告げる。

 ポケットに彼をおさめ、素早く立ち上がった。

 ケガは完全に治っている。

 それどころか、うっすらと不思議な光が体を包んでいた。

 これなら動く。走れる。

 天草は周囲の皆にも感謝を告げると、一心に駆け出した。

 薄闇の通路をひた走って、コントロールルームを目指す。

 不意に誠少年の言葉を思い出した。

『確かめたんですか?』

『それは本当に、お父さんのした事なんですか?』


 …………そうだ、ようやく気が付いた。

(父が私を見捨てたんじゃない。私が、父を見捨てたんだ……!!!)

 あの日封じ込め、押し殺していた本当の気持ちが、次から次へと噴き出してくる。

(どうして信じてあげなかったの? どうして確かめなかったの?)

(……分かってる、怖かったからだ。他の人が父を憎んで、それが自分に向くのがたまらなく怖かったんだ……!)

(だから父の遺品を捨てて、率先して憎んでるふりをしたんだ……!)

 怖くて怖くてたまらなくて、ただただ我が身を守るために。全てをあの人に押し付け、頑なに憎もうとしていたのだ。

 あんなに可愛がってくれてたのに、一番信じていた娘に裏切られたのだ。

 どんなに悲しかっただろう。どんなに悔しかっただろう。

(ごめんお父さん。ごめんね、ごめんね、ごめん、ごめん、ごめんっ……!!!)

 10年前に言えなかった言葉を、心の中で数限りなく繰り返す。

『ちゃんと確かめないといけないな』

 あの日父はそう言った。

 そして今日、あの少年が同じ言葉を口にした。

 彼はずっと戦っていたのだ。私は……逃げてしまっていたのに……!

 簡素な鉄の階段をのぼると、整備用の通路は終わりを告げる。

 目の前に長方形の扉が見えた。ここを抜ければ、制御室だ……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VTuberとヴァンパイア~猟奇で陽気なヴァンパイア~

タナん
キャラ文芸
陰キャJKの橘 柊花は夜歩いていると、少女が男に馬乗りになってボコボコにしている現場に遭遇してしまう。 拳を血で染めた少女の目は赤く、笑う口元には長い牙が生えている。つまりヴァンパイアだ。 ヴァンパイアの少女の名は一ノ瀬 夢織。 危うく、ヴァンパイアガールの夢織に襲われそうになる柊花だが、直前にヴァンパイアガール夢織が人気VTuberの巴 アシュリーのファンだということに気付く。 実はVTuber 巴アシュリーだった柊花とヴァンパイアガール夢織。 人間とヴァンパイアの奇妙な友情が始まった。 ※たいあっぷ様にて公開しているものになります。 毎週金曜0時更新 全体約5万文字のうち7割くらい完成しています。 たいあっぷ様のコンテストに応募していますので応援して下さる方は下記URLから続きが読みたいボタンをお願いします! https://tieupnovels.com/tieups/1495

本日は性転ナリ。

ある
キャラ文芸
 如月瑠衣(きさらぎ るい)は、ごく普通の男子高校生として代わり映えの無いつまらない毎日を送っていた。  しかし、ある日を境に、それが自分に与えられた"嘘で作られた、幸せで平穏な日々"だったのだと思い知らされる事となる。  幼馴染の"高梨莉結(たかなし りゆ)に手を借りつつも、"元に戻る事の出来るその日"まで、女としての生活を送る事となった瑠衣だが、それは想像以上に難しいものだった……。  そして瑠衣自身、そして周りの人々に次々と起こる様々な問題。  瑠衣は、葛藤しながらも自分を信じてそれらに立ち向かっていくのであった。  これは"性転"してしまった瑠衣が、周りの人々との出会いによって"本当の自分"を見つけていくストーリー。    興味を持って頂けたら是非一話だけでも読んで下さい。つまらないと思った方は、良ければその理由などもコメントして頂けたら、出来る限りの改善をしていきたいと思います。  未熟者が書いた素人小説ですが、創造をカタチにしていく勉強の真っ最中なので、是非温かい目で見守ってください。  古い話から常時改稿していますが、途中から読み進めるのが嫌になるような文体になるかもしれません。  それは、この「本日は性転ナリ。」が、携帯小説を始めてから、初めて完結まで続けられた作品なので、未改稿部分はルールや小説執筆の常識等も知らないままに思い付く事を書き殴ったからです。笑  今でも"改稿"と言える程の事は出来ていないかも知れませんが、以前と比べて確実に読み易く直せていると思いますので、是非改稿後の方も読んでいただけると幸いです。  この小説を執筆するにあたって、読者の方々に大変励まされております。この物語が続いているのはその方々が居るからです。  本当にありがとうございます。

自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方
ミステリー
刺激の少ない大学生活に、一人のインテリ女子が訪れる。 彼女は自称「未来人」。 ほぼ確実に詐欺の標的にされていると直感した俺は、いっそ彼女の妄想に付き合って、化けの皮を剥ぐ作戦を思いつく。 そんな彼女は、会話の所々に今この時を「戦前」と呼んでいる事に気付く。 これは、それ自体が彼女の作戦なのか、そもそも俺に接触してくる彼女の狙いは一体何か。

虚無との愛欲の果てに産まれしものは

ツヨシ
キャラ文芸
二十ヶ月近く妊娠していた女が産んだのは、怪物だった。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

神様の仰せのままに

幽零
キャラ文芸
かつて「妖刀狩り」として活動していた男が、神を自称する少女に出会う。 穢を祓え、神様の仰せのままに。

Sonora 【ソノラ】

キャラ文芸
フランスのパリ8区。 凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。 ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。 そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。 心を癒す、胎動の始まり。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

処理中です...