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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編
天草の追憶
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気づいた時には、天草は暗闇に横たわっていた。
周囲に人の気配は無い。あの少年や黒スーツの女性は、別の場所に落ちたのだろうか。
夢現のような意識の中で、何か甲高い声が聞こえた。
小鳥のようなこの鳴き声は……
「……?」
天草がうっすらと目を開けると、あのアマビエがさえずっていた。
はぐれて姿が見えなかったのに、自分を探し回ってくれたのだろう。
「来てくれたんだ……」
天草は微笑んで、そこで頭痛にさいなまれた。
「痛っ……!」
頭の芯を駆け巡るかのような、不思議な痛み。
心の一番奥にぶち当たったそれは、ある記憶を呼び覚ました。
これは多分、小学生ごろの記憶だろう。
場所は懐かしい我が家の居間だった。
「お父さんが作ってくれたのよ? 人気で手に入らないから、職場の3Dプリンターでね」
母はそう言って、小さな袋を差し出した。綺麗なリボンで縛られ、ラッピングされた状態である。
幼い天草は、わくわくしながら袋を開ける。
中身は小さなキーホルダーだった。金具の先に、黄色を主体としたカラフルな人形が付いている。
つぶらな瞳、つややかな長い髪。
鳥のような嘴と、元気良くはばたいた両の翼。
下半身は人魚のようだが、鳥みたいな足もある。
疫病退散のご利益があると噂された、あのアマビエのキーホルダーである。
「嬉しい、お父さんありがとう!」
天草は嬉しさでぴょんぴょん跳ねた。
人気の商品は手に入らなかったが、これは世界で一つの特注品である。
それも大好きな父が作ってくれたのだ。嬉しくないわけがない。
だがそこで、母が怪訝そうにでキーホルダーを見た。
「あら? でもあなた、この子羽がついてるじゃない」
「えっ、駄目なのか? じゃあこの絵は……」
真面目そうな父は……ああ、いつぶりだろうか……はっきりと顔の分かる父は、戸惑いながら手元の絵とキーホルダーを見比べる。
3Dの製図をする際に参考にした絵には、アマビエの姿が描かれていたが…………そこには羽など無かったのだ。
ただ長い髪の毛が垂れているだけだ。
「これって羽じゃなかったのか?」
「海の妖怪でしょ。羽なんて無いし、そこも髪よ。あなた、鳥なんだって先入観で作ったでしょう」
「こりゃ参ったな……」
苦笑する母の隣で、父は苦笑いして頭をかいた。
「うーん。何事も、ちゃんと確かめないといけないな……」
でも自分はお構いなしに喜んでいた。
普通のアマビエより、むしろこっちの方が可愛かったからだ。
羽も元気よさげだし、羽ばたくポーズがとても気に入った。
喜ぶ天草に対し、母は面白そうに言う。
「まあ、瞳は鳥さん好きだもんね。ちっちゃい時、鹿児島の出水で鶴を見た時も、すごく喜んでたし」
母は目線を上げて、壁際の写真を眺めた。
そこに写るのは、夕暮れの空に舞う無数の大きな鶴と、それに手を伸ばす幼い天草。
写真が苦手な父が撮った、一番の自信作であった。
「まあ、ひいちゃんが喜んでるから、これはこれでいいとしよう」
父は調子よくそう解釈し、それからアマビエキーホルダーに手を合わせた。
「どうかアマビエさま。ひいちゃんを病気から守って下さい」
母も、そして自分もつられてお祈りしていたっけ。
だがあの事件があって以来、自分はそれを引き出しに投げ入れた。
捨ててしまえばよかったのだが、無意識に捨てられなかった。
あの黄金のチケットと一緒に収め、机にカギをかけたのだ。
戦いの日々の中、いつの間にか忘れてしまっていたけれど、あの頃の自分にとって一番の宝物だったのだ。
周囲に人の気配は無い。あの少年や黒スーツの女性は、別の場所に落ちたのだろうか。
夢現のような意識の中で、何か甲高い声が聞こえた。
小鳥のようなこの鳴き声は……
「……?」
天草がうっすらと目を開けると、あのアマビエがさえずっていた。
はぐれて姿が見えなかったのに、自分を探し回ってくれたのだろう。
「来てくれたんだ……」
天草は微笑んで、そこで頭痛にさいなまれた。
「痛っ……!」
頭の芯を駆け巡るかのような、不思議な痛み。
心の一番奥にぶち当たったそれは、ある記憶を呼び覚ました。
これは多分、小学生ごろの記憶だろう。
場所は懐かしい我が家の居間だった。
「お父さんが作ってくれたのよ? 人気で手に入らないから、職場の3Dプリンターでね」
母はそう言って、小さな袋を差し出した。綺麗なリボンで縛られ、ラッピングされた状態である。
幼い天草は、わくわくしながら袋を開ける。
中身は小さなキーホルダーだった。金具の先に、黄色を主体としたカラフルな人形が付いている。
つぶらな瞳、つややかな長い髪。
鳥のような嘴と、元気良くはばたいた両の翼。
下半身は人魚のようだが、鳥みたいな足もある。
疫病退散のご利益があると噂された、あのアマビエのキーホルダーである。
「嬉しい、お父さんありがとう!」
天草は嬉しさでぴょんぴょん跳ねた。
人気の商品は手に入らなかったが、これは世界で一つの特注品である。
それも大好きな父が作ってくれたのだ。嬉しくないわけがない。
だがそこで、母が怪訝そうにでキーホルダーを見た。
「あら? でもあなた、この子羽がついてるじゃない」
「えっ、駄目なのか? じゃあこの絵は……」
真面目そうな父は……ああ、いつぶりだろうか……はっきりと顔の分かる父は、戸惑いながら手元の絵とキーホルダーを見比べる。
3Dの製図をする際に参考にした絵には、アマビエの姿が描かれていたが…………そこには羽など無かったのだ。
ただ長い髪の毛が垂れているだけだ。
「これって羽じゃなかったのか?」
「海の妖怪でしょ。羽なんて無いし、そこも髪よ。あなた、鳥なんだって先入観で作ったでしょう」
「こりゃ参ったな……」
苦笑する母の隣で、父は苦笑いして頭をかいた。
「うーん。何事も、ちゃんと確かめないといけないな……」
でも自分はお構いなしに喜んでいた。
普通のアマビエより、むしろこっちの方が可愛かったからだ。
羽も元気よさげだし、羽ばたくポーズがとても気に入った。
喜ぶ天草に対し、母は面白そうに言う。
「まあ、瞳は鳥さん好きだもんね。ちっちゃい時、鹿児島の出水で鶴を見た時も、すごく喜んでたし」
母は目線を上げて、壁際の写真を眺めた。
そこに写るのは、夕暮れの空に舞う無数の大きな鶴と、それに手を伸ばす幼い天草。
写真が苦手な父が撮った、一番の自信作であった。
「まあ、ひいちゃんが喜んでるから、これはこれでいいとしよう」
父は調子よくそう解釈し、それからアマビエキーホルダーに手を合わせた。
「どうかアマビエさま。ひいちゃんを病気から守って下さい」
母も、そして自分もつられてお祈りしていたっけ。
だがあの事件があって以来、自分はそれを引き出しに投げ入れた。
捨ててしまえばよかったのだが、無意識に捨てられなかった。
あの黄金のチケットと一緒に収め、机にカギをかけたのだ。
戦いの日々の中、いつの間にか忘れてしまっていたけれど、あの頃の自分にとって一番の宝物だったのだ。
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