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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編
じきにこの世に這い出てくるぞ
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「どうかしらナギっぺ、この鶴ちゃんの大活躍は。見事同盟を成し遂げたわよ」
鶴は調印式の控え室にて、女神・岩凪姫に連絡を取った。
失敗した時は出来るだけ報告を先延ばしするのに、成功した今は待ち切れなかったのだろう。
調子に乗って怒られるのではないか、と誠は心配したが、画面に映った女神は、思ったよりずっと穏やかな表情だった。
鶴は満面の笑みで、ここぞとばかりにアピールしている。
「それじゃあ、ここに数百ページに渡る報告書があるから、粛々と読むわね。まず第1章よ。昔々、まだナギっぺが、私を不真面目だと決め付けていた頃。そんな偏見にも負けず、鶴ちゃんはひたすら真面目にがんばっていたわ」
鶴の報告は延々と続く。
横で聞く誠にとって、どうにも話を盛っている所が多すぎるのだが、女神は特に否定しなかった。
「……いや、まあ今回は、本当に良くやったと私も思う。この短期間で、よくぞ第6船団の人々を守り、共闘を取り付けた。前にも言った通り、鎮西は私と妹の故郷だし、改めて礼を言おう」
「まあ! ナギっぺもようやく、私の素晴らしさが分かってきたのね!」
鶴は調子に乗りまくり、尚も手柄を誇張するが、女神はたまりかねて話を変えた。
「ちょっと待て、それはおいおい聞くとして、その後の敵の様子はどうだ」
「そこを何とか、今聞いて欲しいのよ。追加の報告書もたんとあるから。第2章は、不真面目な狛犬の妨害。第3章は、マンゴーについて……」
報告書を台車に乗せ、次々鶴が運んで来るので、コマが慌ててフォローに入った。
「そ、それは後で僕も聞くから、先に地図をね?」
「もう、しょうがない狛犬ねえ」
コマにも促され、鶴はしぶしぶ半透明の地図を映し出した。
南部や東西に広がっていた敵軍はほぼ撤退しており、餓霊を示す赤い光点は、九州の中央部に集中している。
敵軍を包むようにそびえる高地は、この国随一の力を持つ火山の冠であり、日本人なら誰もが名を知る外輪山。
すなわち、阿蘇の大カルデラであった。
「邪気が減ったから、かなり遠くまで見えるね。いや、鶴がパワーアップしたのが大きいのかな」
コマが素直に喜ぶが、岩凪姫は訝しげだった。
「おかしいぞ。いくら鹿児島攻めに失敗したからと言って、なぜ東西の戦力まで阿蘇に引きこもったのだ? これでは容易く人に攻められるではないか」
「もう少し拡大してみるわ」
鶴は地図を拡大していく。
拡大すると、敵軍はさすがの大兵力である。とてつもない量の餓霊が押し寄せ、幾重にも陣をしいているのだ。
中央の火口には特に異常はない……が、そこで一同は、不可思議なものに気が付いた。
外輪山の中に位置する、黒く染まったエリアである。
それは一言で言えば、漆黒の社。
小さな町一つほどのエリアに立つ、巨大な神社建築であった。
ごつごつした質感がうかがえる事から、素材は岩か溶岩だろうか。
そして中央の拝殿らしき建物の中で、赤い光が蠢いていた。
まるで巨大な光の繭が、成長を続けているかのようだ。
そこで岩凪姫が呟いた。
「…………まさか……こんな手を使うとはな……!」
「あれは一体……?」
誠の問いに、岩凪姫は険しい表情で答えた。
「子供の喧嘩に親が出る、だ。火口のエネルギーを引いて、強力な反魂の術を使っている。連中の祖霊神が受肉しかけているのだろう」
「おやがみ?」
「そう、魂の大部分を封じられていながら、分霊だけで、かりそめの巨体を動かそうとしている。しくじれば魂が砕けるかもしれんのに、よほど子孫が可愛いと見える」
誠の視線に気付き、岩凪姫はそこで語気を弱めた。
「……少し喋りすぎたな。あまり詳しくは言えぬが、とにかくケタ外れに強いと思っておけ。あの術が完成すれば、じきにこの世に這い出てくるぞ」
「這い出たら、どうなります」
「負ける」
岩凪姫は率直に言った。
「肉体を得たあヤツには、いかなお前達でもどうにもならん。恐らく短時間しか動けぬはずだが、小1時間もあれば、九州全土は焼け野原になるだろう。今までの戦いは、これで全てひっくり返る」
岩凪姫はそこで強い視線で誠達を見据えた。
「2人とも、消耗しているのは分かるが、今を逃してはならぬ。一刻も早くあの社にたどり着き、この魔封じの勾玉でヤツの具現化を阻止するのだ」
女神が差し出した首飾りには、無数の勾玉が繋がれていた。
それは光に包まれると、鶴の前に瞬間移動したのだ。
事の重大さをかみ締め、誠はもう一度地図を見つめた。
そこでふと気が付いたのだ。
(あれ……? この形、なんか高千穂研に……)
何となく、黒い社の敷地の形が、昔見た高千穂研究所の見取り図に似ているような気がしたのだ。
鶴は調印式の控え室にて、女神・岩凪姫に連絡を取った。
失敗した時は出来るだけ報告を先延ばしするのに、成功した今は待ち切れなかったのだろう。
調子に乗って怒られるのではないか、と誠は心配したが、画面に映った女神は、思ったよりずっと穏やかな表情だった。
鶴は満面の笑みで、ここぞとばかりにアピールしている。
「それじゃあ、ここに数百ページに渡る報告書があるから、粛々と読むわね。まず第1章よ。昔々、まだナギっぺが、私を不真面目だと決め付けていた頃。そんな偏見にも負けず、鶴ちゃんはひたすら真面目にがんばっていたわ」
鶴の報告は延々と続く。
横で聞く誠にとって、どうにも話を盛っている所が多すぎるのだが、女神は特に否定しなかった。
「……いや、まあ今回は、本当に良くやったと私も思う。この短期間で、よくぞ第6船団の人々を守り、共闘を取り付けた。前にも言った通り、鎮西は私と妹の故郷だし、改めて礼を言おう」
「まあ! ナギっぺもようやく、私の素晴らしさが分かってきたのね!」
鶴は調子に乗りまくり、尚も手柄を誇張するが、女神はたまりかねて話を変えた。
「ちょっと待て、それはおいおい聞くとして、その後の敵の様子はどうだ」
「そこを何とか、今聞いて欲しいのよ。追加の報告書もたんとあるから。第2章は、不真面目な狛犬の妨害。第3章は、マンゴーについて……」
報告書を台車に乗せ、次々鶴が運んで来るので、コマが慌ててフォローに入った。
「そ、それは後で僕も聞くから、先に地図をね?」
「もう、しょうがない狛犬ねえ」
コマにも促され、鶴はしぶしぶ半透明の地図を映し出した。
南部や東西に広がっていた敵軍はほぼ撤退しており、餓霊を示す赤い光点は、九州の中央部に集中している。
敵軍を包むようにそびえる高地は、この国随一の力を持つ火山の冠であり、日本人なら誰もが名を知る外輪山。
すなわち、阿蘇の大カルデラであった。
「邪気が減ったから、かなり遠くまで見えるね。いや、鶴がパワーアップしたのが大きいのかな」
コマが素直に喜ぶが、岩凪姫は訝しげだった。
「おかしいぞ。いくら鹿児島攻めに失敗したからと言って、なぜ東西の戦力まで阿蘇に引きこもったのだ? これでは容易く人に攻められるではないか」
「もう少し拡大してみるわ」
鶴は地図を拡大していく。
拡大すると、敵軍はさすがの大兵力である。とてつもない量の餓霊が押し寄せ、幾重にも陣をしいているのだ。
中央の火口には特に異常はない……が、そこで一同は、不可思議なものに気が付いた。
外輪山の中に位置する、黒く染まったエリアである。
それは一言で言えば、漆黒の社。
小さな町一つほどのエリアに立つ、巨大な神社建築であった。
ごつごつした質感がうかがえる事から、素材は岩か溶岩だろうか。
そして中央の拝殿らしき建物の中で、赤い光が蠢いていた。
まるで巨大な光の繭が、成長を続けているかのようだ。
そこで岩凪姫が呟いた。
「…………まさか……こんな手を使うとはな……!」
「あれは一体……?」
誠の問いに、岩凪姫は険しい表情で答えた。
「子供の喧嘩に親が出る、だ。火口のエネルギーを引いて、強力な反魂の術を使っている。連中の祖霊神が受肉しかけているのだろう」
「おやがみ?」
「そう、魂の大部分を封じられていながら、分霊だけで、かりそめの巨体を動かそうとしている。しくじれば魂が砕けるかもしれんのに、よほど子孫が可愛いと見える」
誠の視線に気付き、岩凪姫はそこで語気を弱めた。
「……少し喋りすぎたな。あまり詳しくは言えぬが、とにかくケタ外れに強いと思っておけ。あの術が完成すれば、じきにこの世に這い出てくるぞ」
「這い出たら、どうなります」
「負ける」
岩凪姫は率直に言った。
「肉体を得たあヤツには、いかなお前達でもどうにもならん。恐らく短時間しか動けぬはずだが、小1時間もあれば、九州全土は焼け野原になるだろう。今までの戦いは、これで全てひっくり返る」
岩凪姫はそこで強い視線で誠達を見据えた。
「2人とも、消耗しているのは分かるが、今を逃してはならぬ。一刻も早くあの社にたどり着き、この魔封じの勾玉でヤツの具現化を阻止するのだ」
女神が差し出した首飾りには、無数の勾玉が繋がれていた。
それは光に包まれると、鶴の前に瞬間移動したのだ。
事の重大さをかみ締め、誠はもう一度地図を見つめた。
そこでふと気が付いたのだ。
(あれ……? この形、なんか高千穂研に……)
何となく、黒い社の敷地の形が、昔見た高千穂研究所の見取り図に似ているような気がしたのだ。
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