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第二章その5 ~絶対守るわ!~ 熱血の鹿児島防衛編

シラス台地の名奉行

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 鹿児島防衛戦からわずか1日。

 凄まじい速度で話が進み、いよいよ第5・第6船団の同盟調印式が行われた。

「ああ、いよいよ同盟が結ばれるのね。鶴ちゃんの長い苦労が報われたわ……」

 鶴はハンケチを取り出して感極まっているが、肩に乗る狛犬のコマは、ジト目で鶴にツッコミをいれた。

「よく言うよ、出たとこ勝負の運頼みだったし、あっと言う間だったじゃないか。ほんとに勢いだけで道を切り開くんだから……」

 そうこうするうちに、第6船団の旗艦・きりしまの艦長室キャビンには、赤いテーブルクロスが掛けられた長テーブルを挟んで、両船団の代表者が着席した。

 第6船団の出席者は、船団長の島津をはじめとした政務スタッフ、そして天草を筆頭に軍務関係の人員。

 対して第5船団の出席者は、船団長の佐々木や政府関係者であったが、鶴もちゃっかり佐々木の隣に座っていた。

 誠、それに志布志隊の面々は、壁際に整列して会議の様子を見守っているのである。

 様々な儀礼的な会話が続いたが、そこで島津が語調を変えた。

「……では佐々木よ。前置きはこのぐらいにして、そろそろ本音で話そうか」

 島津は腕組みをし、ぎろりと佐々木の方を睨む。

「うじうじした探りあいは好かん。ズバリ何が望みだ。ここに書かれた綺麗事だけで、九州奪還に力を貸すわけではあるまい」

 島津は調印書面を手で示した。

 事前に両船団が目通ししていた書面には、

『今後の餓霊との戦闘激化をかんがみ、両船団が資源・戦力・人員・技術等のあらゆる面で包括ほうかつ的に協力し合う事』

という内容が、極めて分かりにくく、かつ、まわりくどく記されている。

 あまり具体的な決め事には踏み込んでいないのだったが、それ故に拡大解釈や乱用を招き、今後のしこりとなる事も予想される…………島津はそうにらみ、最初に釘を刺したのだ。

「敵の本拠地を落とすには、当然そちらにも相応の損害が出るだろう。後から条件を増やすより、今この場で言ってもらおうか」

 見た目だけは九州男児の濃縮還元たる島津は、こういう時は男らしく、堂々たる態度で佐々木に問う。

 室内にいる第6船団の衛兵達は、「さすがは島津さんだ」「かっこいい」などとささやいているが、彼の性格を知る誠達は、あえて夢を壊さないように黙っていた。

 島津の肩に椿油のビンが立ち、腕組みしている事にもツッコミは入れなかった。

「…………まあ、実を言えば、こちらの要求はあるのです」

 そこで佐々木が口を開いた。

 テーブルにひじを乗せ、手の指を組み合わせた佐々木は、真っ直ぐに島津の顔を見据える。

「当方の第5船団も、先日の四国攻めに抗した消耗が少なからずあります。その中であなた方に戦力を貸し出し、共闘する事…………それなりに勇気のいる決断だと思っていただきたいし、当然、タダではありません」

 島津は表情を険しくしたし、隣に座る天草も、その他第6船団の面々も、一様に身を硬くした。

 一体いかなる無理難題をふっかけられるのかと思ったのだ。

 だがそこで、佐々木は隣の鶴を見やった。

「…………ただし。私からではなく、この姫君からのオーダーですがね」

「姫君から……?」

 島津は不思議そうに鶴に目をやる。

「そうよ。オッホン、それではいくわね」

 鶴は満足げに頷くと、どこからか紙包みを取り出す。

 包みをあけ、じゃばらに折りたたんだ手紙を開くと、鶴はうやうやしく読み上げ始めた。

此度こたびの鎮西奪還の共闘により、第6船団はこれらの品を供ずるものとす」

 鶴はそこで言葉を止めた。

 一体、何を望むのか……?

 全員が固唾かたずをのんで見守る中、鶴はようやく口火を切った。

「…………まずは博多……とんこつラーメン」

「…………………えっ……???」

 思わず第6船団側がざわついたが、鶴は気にせず先を続けた。

「とんかつ、佐世保バーガー、からしれんこん、もつ鍋、ちゃんぽん、しっぽく料理……」

「ちょっ、ちょっちょっ、ちょっと待ってくれ……」

 島津は混乱して止めに入ったが、鶴はマシンガンのように読み上げ続ける。

 たまらずコマが前足で鶴の口を塞いだ。

「鶴、頼むからいっぺん止めてよ」

「むぐぐ、何をするのコマ、まだ100分の1も読み上げてないわ」

「みんなもうグロッキーだよっ」

 コマと言い争う鶴だったが、そこで佐々木が止めに入った。

「まあまあ、鶴ちゃんさん。あちらも混乱しておられるので、ちゃんと説明してあげてください」

 苦笑する佐々木に促され、鶴は島津達に向き直った。

 びし、と人差し指を立て、得意げに語り始める。

「いいこと? この鶴ちゃんに隠そうったって、そうはいかないわ。この鎮西ちんぜいには、おいしいものがいっぱいあるって調べはついてるのよ?」

 鶴は証拠のメモをずいと差し出す。まるで遠山とおやまきんさんのごときドヤ顔だった。

「復興したら、うんとご馳走してもらわなきゃ。何のために日の本を取り返すのか分からないわ」

「いやいや鶴、そんなために現世に来たんじゃないだろ」

「何を言うのコマ。ナギっぺだって、こっちのお酒とかお土産にすれば怒らないわよ」

「それは……そうだろうけどさ!」

 もめる鶴達を横目で見ながら、佐々木が締めの言葉を発する。

「……名奉行めいぶぎょう・鶴姫様のお裁きです。ここは鹿児島、我々は既にお白砂シラスの上ですから。お言葉に従いましょう」

 誰もツッコミを入れなかったが、シラス台地とかけたシャレなのだろう。

 神使達が小道具を持って駆けつけ、鶴の後ろは、奉行所のお白砂しらすのように飾り立てられる。

 なぜか誠が縛り上げられ、罪人よろしく連れて行かれそうになったが、なんとか壮太達が止めてくれた。

「……………………」

 しばし目を丸くしていた第6船団の一同だったが、たまらず島津が笑い出した。

 他の一同も、そして天草さえも、遠慮がちに笑い出す。

 やがて島津が鶴に言った。

「しかし、よろしいのか? こっちのうまいものを食べてしまったら、もう他のものは食えなくなると思うが」

「おや、言ってくれますなあ島津さん。第5船団にもおいしいものは沢山ありますが。返り討ちになっても知りませんぞ?」

 佐々木が笑って立ち上がり、手を差し出す。

「戦いに勝ったら、またグルメサミットでも開きましょうか。決着はそこで、きっちりつけましょう」

 島津も立ち上がり、佐々木の手を握り返した。

 これにより、長らく対立を続けていた第5・第6両船団は軍事同盟を締結ていけつ

 協力して西日本の餓霊戦力に対抗する事になったのだ。

 見守っていた一同も歓声を上げ、調印式とは思えぬ盛り上がりで締めくくられたのだった。
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