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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編
灰かぶりのゴーストタウン
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誠達は、放棄された市街をひた進んだ。
灰がうっすらと辺りを覆い、微かな風で時折宙に舞っている。
壮太が静かに呟いた。
「…………桜島の火山灰だな。このへん、前は賑やかだったんだけどさ」
「壮太……?」
湯香里が気を遣って声をかけると、彼は口元だけで笑みを浮かべた。
「……これ、雨が降ると大変なんだぜ? 糊みたいになっちまうから、急いで車洗ってさ。灰で傷が付いちまって……親父半泣きだったんだ」
道端に乗り捨てられた乗用車は、灰が雨で固まる→新しく積もるのを繰り返し、表面は斑にデコボコしていた。
さながら珊瑚礁が成長するように、灰は少しずつ町を覆い、人々が生きた証を消し去ろうとしているのだ。
「……火の山から降る雪か。なんだかセンチメンタルな気分だな」
ヘンダーソンが呟くと、とりなすように鶴が言った。
「大丈夫、きっと復興出来るわよ。この鶴ちゃんが九州のおいしいものを食べてないのに、滅びるなんて許さないわ」
コマも鶴の後を続けた。
「それにこの新しい灰、邪気を弱めてもくれてるよ。多分、桜島の霊気が関係してると思うんだ」
「なるほど、それでヒメ子の魔法が使いやすくなったのか」
誠もそこで思い当たった。
「天草さんも急に態度が柔らかくなったし、もしかしたら、色んなものが応援してくれてるのかもな」
「そう、そうなの黒鷹、私はそれを言いたかったのよ」
鶴は調子よく言うと、ずんずん歩みを進めていく。
「あ、ちょっと、そこを右だぜ!」
壮太もつられて早足になり、志布志隊の面々もほっとした様子だったが、ともかく一同は目的の場所に辿り着いた。
「見つけたわ。あの館ね」
鶴が指差す先にあるのは、少し古風な雑居ビルだった。
壁は赤いレンガ調で、隆起した柱部分だけが白い。
窓は少なく、壁から突き出た看板支柱には、青銅製の看板が吊るされていた。
看板の英字は大げさに誇張されていたが、それは書体がお洒落過ぎて読みにくい……と言うより、そもそも読ませる気がないように誠には思えた。
「……確かに変だな。窓も少ないし、柱もやたら太くて多い」
誠が呟くと、コマが誠の肩に飛び乗ってきた。
「多分、この柱の並びは結界だよ。それで邪気を隠してるし、人ばらいの呪詛にもなってるんだ」
コマの言葉に、晶がメガネを光らせながら言った。
「成程。となると中に何がいるか、分かったもんじゃないな……」
一同は押し黙った。
勢いのままにここまで来てしまったのだが、あの中に人ならぬ相手が待ち受けているのだ。
誠は一同の気持ちを代弁し、傍らの鶴に語りかけた。
「ヒメ子、まずは報告した方が良くないか?」
「報告って、ナギっぺに?」
鶴は首を横に振った。
「いらないわ。ナギっぺは体も頑丈だけど、とにかく頭がカチコチに硬いんだから。うるさく言われたら、私が活躍しにくくなるわよ」
鶴は機嫌よくそう言うが、傍らに神器のタブレット画面が現れ、浮かび上がった事に気付いていない。
「いつもいつもお説教ばかりで、私を見くびっているんだから。今日という今日は、この鶴ちゃんの活躍でド肝を抜いてくれるわよ」
神器のタブレットは大型テレビ程に巨大化して、女神・岩凪姫を映し出した。
女神は頬杖をつき、ジト目でこちらを見据えている。
誠は冷や汗を流しながら囁いた。
「……い、いやヒメ子、そのへんにした方が……」
「そうなのそうなの、いつもそう言って、私の自主性を否定しているのよ。そういう所が、ナギっぺの至らない所なの。もっとこう、女神としての自覚を持って、この鶴ちゃんを信じて任せる器があってこそなんだけど、まだナギっぺには早すぎるわね。それまで私がフォローするしか……ひっ、ナギっぺ!?」
鶴はそこで、女神を目にして飛び上がった。
それから誠の陰に隠れ、恐る恐る女神に尋ねる。
「な、ナギっぺ、いつから見てたの……?」
「ずっとだ。それよりそろそろ応援が着く頃だろう」
「応援?」
誠が尋ねるのとほぼ同時に、一台の車が近付いて来る。
色は純白。
廃墟と化した町並みには不釣合いな清潔さである。
灰がうっすらと辺りを覆い、微かな風で時折宙に舞っている。
壮太が静かに呟いた。
「…………桜島の火山灰だな。このへん、前は賑やかだったんだけどさ」
「壮太……?」
湯香里が気を遣って声をかけると、彼は口元だけで笑みを浮かべた。
「……これ、雨が降ると大変なんだぜ? 糊みたいになっちまうから、急いで車洗ってさ。灰で傷が付いちまって……親父半泣きだったんだ」
道端に乗り捨てられた乗用車は、灰が雨で固まる→新しく積もるのを繰り返し、表面は斑にデコボコしていた。
さながら珊瑚礁が成長するように、灰は少しずつ町を覆い、人々が生きた証を消し去ろうとしているのだ。
「……火の山から降る雪か。なんだかセンチメンタルな気分だな」
ヘンダーソンが呟くと、とりなすように鶴が言った。
「大丈夫、きっと復興出来るわよ。この鶴ちゃんが九州のおいしいものを食べてないのに、滅びるなんて許さないわ」
コマも鶴の後を続けた。
「それにこの新しい灰、邪気を弱めてもくれてるよ。多分、桜島の霊気が関係してると思うんだ」
「なるほど、それでヒメ子の魔法が使いやすくなったのか」
誠もそこで思い当たった。
「天草さんも急に態度が柔らかくなったし、もしかしたら、色んなものが応援してくれてるのかもな」
「そう、そうなの黒鷹、私はそれを言いたかったのよ」
鶴は調子よく言うと、ずんずん歩みを進めていく。
「あ、ちょっと、そこを右だぜ!」
壮太もつられて早足になり、志布志隊の面々もほっとした様子だったが、ともかく一同は目的の場所に辿り着いた。
「見つけたわ。あの館ね」
鶴が指差す先にあるのは、少し古風な雑居ビルだった。
壁は赤いレンガ調で、隆起した柱部分だけが白い。
窓は少なく、壁から突き出た看板支柱には、青銅製の看板が吊るされていた。
看板の英字は大げさに誇張されていたが、それは書体がお洒落過ぎて読みにくい……と言うより、そもそも読ませる気がないように誠には思えた。
「……確かに変だな。窓も少ないし、柱もやたら太くて多い」
誠が呟くと、コマが誠の肩に飛び乗ってきた。
「多分、この柱の並びは結界だよ。それで邪気を隠してるし、人ばらいの呪詛にもなってるんだ」
コマの言葉に、晶がメガネを光らせながら言った。
「成程。となると中に何がいるか、分かったもんじゃないな……」
一同は押し黙った。
勢いのままにここまで来てしまったのだが、あの中に人ならぬ相手が待ち受けているのだ。
誠は一同の気持ちを代弁し、傍らの鶴に語りかけた。
「ヒメ子、まずは報告した方が良くないか?」
「報告って、ナギっぺに?」
鶴は首を横に振った。
「いらないわ。ナギっぺは体も頑丈だけど、とにかく頭がカチコチに硬いんだから。うるさく言われたら、私が活躍しにくくなるわよ」
鶴は機嫌よくそう言うが、傍らに神器のタブレット画面が現れ、浮かび上がった事に気付いていない。
「いつもいつもお説教ばかりで、私を見くびっているんだから。今日という今日は、この鶴ちゃんの活躍でド肝を抜いてくれるわよ」
神器のタブレットは大型テレビ程に巨大化して、女神・岩凪姫を映し出した。
女神は頬杖をつき、ジト目でこちらを見据えている。
誠は冷や汗を流しながら囁いた。
「……い、いやヒメ子、そのへんにした方が……」
「そうなのそうなの、いつもそう言って、私の自主性を否定しているのよ。そういう所が、ナギっぺの至らない所なの。もっとこう、女神としての自覚を持って、この鶴ちゃんを信じて任せる器があってこそなんだけど、まだナギっぺには早すぎるわね。それまで私がフォローするしか……ひっ、ナギっぺ!?」
鶴はそこで、女神を目にして飛び上がった。
それから誠の陰に隠れ、恐る恐る女神に尋ねる。
「な、ナギっぺ、いつから見てたの……?」
「ずっとだ。それよりそろそろ応援が着く頃だろう」
「応援?」
誠が尋ねるのとほぼ同時に、一台の車が近付いて来る。
色は純白。
廃墟と化した町並みには不釣合いな清潔さである。
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