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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編
元自衛官のおじさん
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「どうしたの黒鷹?」
鶴は誠の様子に気付き、不思議そうにこちらを見ている。
「いや……うん。何て言えばいいんだろ」
誠は鶴をちらりと見て、再び目を伏せた。
自分も幼い頃、父の職業が故に責められ、自責の念に駆られていたが、天草も同じように1人で背負い込んでいたのだ。
考えてみれば当たり前だが、自分の知らない所で、こんなふうに苦しんでいる人がいるのである。
「……今まで必死だったから、他の船団の事、考えた事も無かったけどさ。見えないだけで、みんなこんなに困ってたんだなって……」
誠は再び、ぎゅっと手を握り締めた。
ずっと狭い世界に閉じ篭もり、雪菜を守る事だけを考えていた。
けれど外に目を向ければ、同じように苦しんでいる人が大勢いたのである。
「……俺達は、ヒメ子やコマに助けて貰って、やっと四国を取り戻してさ。それで無意識に安心してたけど……まだ全然終わってないんだよな。だからこの船団の事も、何とか出来たらって思うし……」
誠はそこで顔を上げ、力をこめて言い放つ。
「というか、何がなんでも絶対勝とう! 絶対ここを乗り切って、みんなも、あの天草さんも守らないと!」
壮太が手を伸ばし、誠の背をぽんと叩いた。
「ありがとよ。この壮太様も頑張るからよ!」
「そうね、あたしも頑張る!」
湯香里が壮太の肩に手を置いて言った。
「あ、あああ、あたしも頑張ります!」
八千穂もモアイ像を抱えて頷く。
「私も頑張りマース!」
「勿論俺も、ダディの意志を貫くさ!」
キャシーとヘンダーソンも続くと、晶は少し照れくさそうに言った。
「…………ま、俺は腐れ縁だし。放っておいたら、壮太が迷惑かけそうだしな」
「言ってらあ」
壮太はそう言って笑ったが、そこで鶴が勢い良く立ち上がった。
「えらいっっっ!!!!!!!」
『うわっ、びっくりした!?』
あまりの気迫に、一同はたまらずひっくり返った。
宗像さんも倒れたため、コマは回転してマットレスにめり込み、おしりをこちらに見せている。
鶴は拳を握り締め、一同を見渡して言った。
「何だかデジャヴな景色だけど、みんなの気持ち、しかと受け取ったわ! ちょっと最初はてこずったけど、私が何とかしてみせるから!」
コマはマットレスから頭を抜きながら尋ねる。
「でも鶴、何とかするったって、具体的にどうするのさ」
「知らないわ。知らないけど、まずは行動してみましょう。適当に動けば、手がかりがあるかもしれないし」
「そりゃ君は運だけはいいけど、そう都合よく……」
コマがそこまで言いかけた時。
近くのエレベーターが開き、数人のおじさん達が降りてきた。
全員が青い作業服を着て、台車に乗せた箱型の物を運び出している。
「何だかいい人の気配がするわ」
鶴はずんずん彼らに近づくと、気さくに声をかけてしまう。
「こんにちは、私よ。何かあったの?」
「えっ、鎧!? い、いや、それがフロアの暖房が壊れててね。応急処置で、別の属性添加機を繋げるんだよ」
作業服のおじさん達は、戸惑いながらも説明してくれた。
誠達も駆け寄ると、台車に乗っていた箱は、発電機のような外観だった。
一般に『可搬』と呼ばれる、持ち運び用の属性添加機の一種である。
誠は彼らの身のこなしが、妙にてきぱきしているのが気になったが、どうやら作業はうまくいかないようである。
「……くそっ、困ったな。さっきまで動いてたのに、どうなってるんだ」
「一応、ヨンマルの基盤も交換したんですけどね」
誠が意識を集中すると、添加機の周囲に磁場の模様が見えてきた……が、磁場はかなり歪みやノイズが見て取れる。
誠は遠慮がちに口を挟んだ。
「……あのそれ、差し出がましいですけど、多分故障してますよ。磁場が乱れてるし、結構ノイズがあるんで」
「……やっぱりそうか。出る前にチェックしたら、機嫌が悪いなりに動いてたんだが……嫌になるよ。いくら部品を交換しても、粗悪品ばっかりだから」
おじさんはそう言って悔しそうに視線を落とした。
誠は更に尋ねてみる。
「なんで第6船団は、ここまで不良品がはびこってしまったんですか?」
「発端は、テロで次々と製造拠点を壊された事だ。企業は警備の厳しい種子島などに工場を移したんだが、その費用がかさんだせいか、物資の質が低下してね」
おじさんはそこで声のトーンを落とした。
「…………大きな声じゃ言えないが、企業が意図的に劣化品を納めている、というウワサもある。ただ仮にそうだとしても、安い値段で提供してもらってる以上、政府も強くは言えないのさ」
「これは…………早急に何とかしなきゃ、戦いにもなりませんね」
誠が呟くと、鶴が唐突に声を上げた。
「そうよ黒鷹、これを正せばいいのよ! 古今東西、何か手柄を立てれば話を聞いて貰えるものだわ!」
「ちょっと待ってよ鶴」
そこでコマが鶴の肩に飛び乗ってきた。
「確かにそうかも知れないけど、九州はまだ邪気がいっぱいあるんだよ。餓霊みたいな強い気ならともかく、普通の人の悪意ぐらいじゃ、弱すぎて分からないし。虱潰しに探すのかい?」
「ムムム、それもそうね……」
鶴が腕組みして思案するのをよそに、誠はもう一度作業員に話しかけた。
「……あの、失礼ですけど、あなた達は元自衛官じゃないですか?」
「よく分かったね。いかにも自分達は元自衛官です。少し前までは、後継の自衛軍に所属していたけれど」
おじさんは直立不動の姿勢をとって答えた。
「今は人手不足ですよね。どうして退役になったんですか」
「もちろん、自分達は残りたかったよ。でもこういった現場の事を進言して、お偉いさんに嫌われたのさ」
彼は少し自嘲気味に言った。
「我々だけじゃない、役所だって大勢辞めさせられたんだ。どの船団も、お金や物を出してる企業が強いからね。うるさく言う者は、残らずクビになったわけで…………まあ、そういう事で失礼するよ……」
彼らはそう言って機器を片付け、立ち去ろうとするが、誠は尚も食い下がった。
「あ、あのっ、第5船団の、池谷さんや夏木さんを知ってますか?」
「夏木って、信吾の事か。池谷は徹だよな。知ってるけど、あいつらの知り合いかい?」
「実は……」
誠は事情をかいつまんで説明した。
彼らは今、第5船団の中心となって、日本を守るための戦いに尽力してくれている事を。
「そうか……それは…………良かったじゃないか。あいつらはいい奴だし、晴れ舞台が似合うよ……」
おじさんは口ではそう言うものの、内心は動揺しているようだ。
元自衛官として、自分も人々を守るために戦いたい、という思いでいっぱいなのだろう。
それでも彼は強がった。
「……いや、別に未練はないさ。後方支援だって、大事な仕事なんだ」
「それは僕も思います。けど宮崎の撤退戦でも、武器が作動せずに、大勢が危ない目にあったんです。放っておいたら、もっと大きな犠牲が出ます」
誠はそこで頭を下げた。
「もうすぐ敵がこの鹿児島に押し寄せるし、このままじゃみんなおしまいです! お願いです、物資の製造業者を教えて下さい!」
「そうよ、私からもお願い!」
鶴も誠の隣に並び、両手を拝むように合わせた。
「俺からも頼むぜ、おっちゃん達!」
「私もデース!」
九州の隊員達も、鶴の肩に乗ったコマも、皆がおじさん達に嘆願した。
どのぐらい時間が経っただろう。
「………………顔を、上げてくれないか」
やがておじさんが呟いた。
恐る恐る顔を上げると、彼は黙って誠達を見つめていた。
それから帽子に手をやり、深々とかぶり直した。
「……そう言えば、急にトイレに行きたくなったな」
彼の言葉に、他のおじさん達も口々に同意した。
「自分も行きます」
「自分も行きたいです」
「……そうか、奇遇だな。荷物は全部ここに置いて行こう。誰もイタズラしないと思うから」
おじさん達は頷くと、その場を歩き去っていく。
彼らの残した台車には、端末のタブレットが残されていた。
「この端末……!」
誠が操作すると、そこには様々な情報が入っていたのだ。
搬入すべき物品とその搬入場所、作業員の名簿。
そして何より、軍需物資の製造業者の一覧である。
「やった! ざっと300件ぐらいかな。住所と名前、全部書いてあるぞ!」
誠の言葉に、一同は飛び上がって喜んだ。
「とにかくこれでめどが立ったわ、さっそく作戦会議よ!」
鶴の号令で、一同は宗像さんの所に駆け戻る。
台車の上の半紙には、墨黒々と『ありがとう』の文字が躍っていた。
鶴は誠の様子に気付き、不思議そうにこちらを見ている。
「いや……うん。何て言えばいいんだろ」
誠は鶴をちらりと見て、再び目を伏せた。
自分も幼い頃、父の職業が故に責められ、自責の念に駆られていたが、天草も同じように1人で背負い込んでいたのだ。
考えてみれば当たり前だが、自分の知らない所で、こんなふうに苦しんでいる人がいるのである。
「……今まで必死だったから、他の船団の事、考えた事も無かったけどさ。見えないだけで、みんなこんなに困ってたんだなって……」
誠は再び、ぎゅっと手を握り締めた。
ずっと狭い世界に閉じ篭もり、雪菜を守る事だけを考えていた。
けれど外に目を向ければ、同じように苦しんでいる人が大勢いたのである。
「……俺達は、ヒメ子やコマに助けて貰って、やっと四国を取り戻してさ。それで無意識に安心してたけど……まだ全然終わってないんだよな。だからこの船団の事も、何とか出来たらって思うし……」
誠はそこで顔を上げ、力をこめて言い放つ。
「というか、何がなんでも絶対勝とう! 絶対ここを乗り切って、みんなも、あの天草さんも守らないと!」
壮太が手を伸ばし、誠の背をぽんと叩いた。
「ありがとよ。この壮太様も頑張るからよ!」
「そうね、あたしも頑張る!」
湯香里が壮太の肩に手を置いて言った。
「あ、あああ、あたしも頑張ります!」
八千穂もモアイ像を抱えて頷く。
「私も頑張りマース!」
「勿論俺も、ダディの意志を貫くさ!」
キャシーとヘンダーソンも続くと、晶は少し照れくさそうに言った。
「…………ま、俺は腐れ縁だし。放っておいたら、壮太が迷惑かけそうだしな」
「言ってらあ」
壮太はそう言って笑ったが、そこで鶴が勢い良く立ち上がった。
「えらいっっっ!!!!!!!」
『うわっ、びっくりした!?』
あまりの気迫に、一同はたまらずひっくり返った。
宗像さんも倒れたため、コマは回転してマットレスにめり込み、おしりをこちらに見せている。
鶴は拳を握り締め、一同を見渡して言った。
「何だかデジャヴな景色だけど、みんなの気持ち、しかと受け取ったわ! ちょっと最初はてこずったけど、私が何とかしてみせるから!」
コマはマットレスから頭を抜きながら尋ねる。
「でも鶴、何とかするったって、具体的にどうするのさ」
「知らないわ。知らないけど、まずは行動してみましょう。適当に動けば、手がかりがあるかもしれないし」
「そりゃ君は運だけはいいけど、そう都合よく……」
コマがそこまで言いかけた時。
近くのエレベーターが開き、数人のおじさん達が降りてきた。
全員が青い作業服を着て、台車に乗せた箱型の物を運び出している。
「何だかいい人の気配がするわ」
鶴はずんずん彼らに近づくと、気さくに声をかけてしまう。
「こんにちは、私よ。何かあったの?」
「えっ、鎧!? い、いや、それがフロアの暖房が壊れててね。応急処置で、別の属性添加機を繋げるんだよ」
作業服のおじさん達は、戸惑いながらも説明してくれた。
誠達も駆け寄ると、台車に乗っていた箱は、発電機のような外観だった。
一般に『可搬』と呼ばれる、持ち運び用の属性添加機の一種である。
誠は彼らの身のこなしが、妙にてきぱきしているのが気になったが、どうやら作業はうまくいかないようである。
「……くそっ、困ったな。さっきまで動いてたのに、どうなってるんだ」
「一応、ヨンマルの基盤も交換したんですけどね」
誠が意識を集中すると、添加機の周囲に磁場の模様が見えてきた……が、磁場はかなり歪みやノイズが見て取れる。
誠は遠慮がちに口を挟んだ。
「……あのそれ、差し出がましいですけど、多分故障してますよ。磁場が乱れてるし、結構ノイズがあるんで」
「……やっぱりそうか。出る前にチェックしたら、機嫌が悪いなりに動いてたんだが……嫌になるよ。いくら部品を交換しても、粗悪品ばっかりだから」
おじさんはそう言って悔しそうに視線を落とした。
誠は更に尋ねてみる。
「なんで第6船団は、ここまで不良品がはびこってしまったんですか?」
「発端は、テロで次々と製造拠点を壊された事だ。企業は警備の厳しい種子島などに工場を移したんだが、その費用がかさんだせいか、物資の質が低下してね」
おじさんはそこで声のトーンを落とした。
「…………大きな声じゃ言えないが、企業が意図的に劣化品を納めている、というウワサもある。ただ仮にそうだとしても、安い値段で提供してもらってる以上、政府も強くは言えないのさ」
「これは…………早急に何とかしなきゃ、戦いにもなりませんね」
誠が呟くと、鶴が唐突に声を上げた。
「そうよ黒鷹、これを正せばいいのよ! 古今東西、何か手柄を立てれば話を聞いて貰えるものだわ!」
「ちょっと待ってよ鶴」
そこでコマが鶴の肩に飛び乗ってきた。
「確かにそうかも知れないけど、九州はまだ邪気がいっぱいあるんだよ。餓霊みたいな強い気ならともかく、普通の人の悪意ぐらいじゃ、弱すぎて分からないし。虱潰しに探すのかい?」
「ムムム、それもそうね……」
鶴が腕組みして思案するのをよそに、誠はもう一度作業員に話しかけた。
「……あの、失礼ですけど、あなた達は元自衛官じゃないですか?」
「よく分かったね。いかにも自分達は元自衛官です。少し前までは、後継の自衛軍に所属していたけれど」
おじさんは直立不動の姿勢をとって答えた。
「今は人手不足ですよね。どうして退役になったんですか」
「もちろん、自分達は残りたかったよ。でもこういった現場の事を進言して、お偉いさんに嫌われたのさ」
彼は少し自嘲気味に言った。
「我々だけじゃない、役所だって大勢辞めさせられたんだ。どの船団も、お金や物を出してる企業が強いからね。うるさく言う者は、残らずクビになったわけで…………まあ、そういう事で失礼するよ……」
彼らはそう言って機器を片付け、立ち去ろうとするが、誠は尚も食い下がった。
「あ、あのっ、第5船団の、池谷さんや夏木さんを知ってますか?」
「夏木って、信吾の事か。池谷は徹だよな。知ってるけど、あいつらの知り合いかい?」
「実は……」
誠は事情をかいつまんで説明した。
彼らは今、第5船団の中心となって、日本を守るための戦いに尽力してくれている事を。
「そうか……それは…………良かったじゃないか。あいつらはいい奴だし、晴れ舞台が似合うよ……」
おじさんは口ではそう言うものの、内心は動揺しているようだ。
元自衛官として、自分も人々を守るために戦いたい、という思いでいっぱいなのだろう。
それでも彼は強がった。
「……いや、別に未練はないさ。後方支援だって、大事な仕事なんだ」
「それは僕も思います。けど宮崎の撤退戦でも、武器が作動せずに、大勢が危ない目にあったんです。放っておいたら、もっと大きな犠牲が出ます」
誠はそこで頭を下げた。
「もうすぐ敵がこの鹿児島に押し寄せるし、このままじゃみんなおしまいです! お願いです、物資の製造業者を教えて下さい!」
「そうよ、私からもお願い!」
鶴も誠の隣に並び、両手を拝むように合わせた。
「俺からも頼むぜ、おっちゃん達!」
「私もデース!」
九州の隊員達も、鶴の肩に乗ったコマも、皆がおじさん達に嘆願した。
どのぐらい時間が経っただろう。
「………………顔を、上げてくれないか」
やがておじさんが呟いた。
恐る恐る顔を上げると、彼は黙って誠達を見つめていた。
それから帽子に手をやり、深々とかぶり直した。
「……そう言えば、急にトイレに行きたくなったな」
彼の言葉に、他のおじさん達も口々に同意した。
「自分も行きます」
「自分も行きたいです」
「……そうか、奇遇だな。荷物は全部ここに置いて行こう。誰もイタズラしないと思うから」
おじさん達は頷くと、その場を歩き去っていく。
彼らの残した台車には、端末のタブレットが残されていた。
「この端末……!」
誠が操作すると、そこには様々な情報が入っていたのだ。
搬入すべき物品とその搬入場所、作業員の名簿。
そして何より、軍需物資の製造業者の一覧である。
「やった! ざっと300件ぐらいかな。住所と名前、全部書いてあるぞ!」
誠の言葉に、一同は飛び上がって喜んだ。
「とにかくこれでめどが立ったわ、さっそく作戦会議よ!」
鶴の号令で、一同は宗像さんの所に駆け戻る。
台車の上の半紙には、墨黒々と『ありがとう』の文字が躍っていた。
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