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第二章その4 ~信じてほしいの!~ ガンコ才女の説得編
お尋ねは勝利の方程式
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「何だいそりゃ。それじゃあんたら、お尋ね者ってわけかい?」
一同の説明を聞き、宗像さんは可笑しそうに笑った。
体育館より広いぐらいのフロアには、太いコンクリートの角柱が幾つも並び、床にはダークグリーンのマットレスが敷き詰められていた。
誠達は靴を脱いで車座に座っているのだったが、宗像さんの問いに、鶴は何でもない事のように答えた。
「平気よめぐちゃん。四国でも初っ端でお尋ねられたし、そこから敵を追い払えたんだもの。だからお尋ねイコール、即・勝利と言っても過言ではないわ」
「どうみても過言だよ鶴」
コマが呆れ顔で言うが、宗像さんはコマの鬣を撫でながら言った。
「それで、あたしに瞳ちゃんの……天草さんの事を聞きたいってわけか」
「…………もし、可能ならですけど。強要は出来ませんので……」
何か言い辛そうな雰囲気を感じ、誠はそう付け足したが、宗像さんは首を振った。
「いいさ……うん、きっとそういう時期なんだよ。話したげる」
宗像さんはコマを持ち上げ、自らの膝の上に乗せると、少しずつ語り始めた。
「……あたしも全部知ってるわけじゃないけど、あそこのご家族は仲が良くてさ。昔はよく、一家でグルメイベントに来てたんだよ。親父さんは留守がちだったから、戻ったら家族サービスしてたんだろうね」
「確か、うまいもんじゃわいサミットね。復興したら、鶴ちゃんも食べに行くわ」
俄然身を乗り出す鶴に、宗像さんは苦笑した。
「……それで、あの子が小学校を出るぐらいの時さ。親父さんが高千穂研の建設に携わって。何年か経って、一般公開のイベントの時、あの子も式典に招かれたんだ。チケットはそりゃ物凄い倍率でねえ」
宗像さんは、そこで一度言葉を切った。
しばらく言葉に詰まる彼女に、誠は恐る恐る声をかけた。
「……黄金のチケットですよね。父さんも研究員だったんですけど、職員の家族枠でも貴重だったみたいで。じゃんけんに負けて、僕に必死で謝ってました」
「その方が良かったんだよ。親父さんに感謝しな」
誠の言葉に、宗像さんは少しだけ微笑みを浮かべた。
「……その後はみんなも知ってる通りさ。研究所の奥からバケモノが溢れ出して。後ろでどんどん喰われていって、振り返る余裕もないのさ。きっと地獄ってのは、ああいう事なんだと思ったね」
「……めぐちゃんもその場にいたのね」
鶴が珍しく気を遣った様子で言うと、宗像さんは頷いた。
「何だかんだ顔が広かったからね。それで、何をどうやって逃げたかも分からないけど、息の続く限り走って、走って。一番正面のでかいゲートまで来たんだけど、そこが最後まで開かなかったんだ。逃げてきた人が大勢泣き叫んで、開けて、開けて、ってねえ。『嘆きの門』って言って、今でも九州じゃ忌み言葉なんだけど……そこに瞳ちゃんもいたんだよ」
「嘆きの門……」
誠も思わず繰り返していた。もしかしたら、父もそこで命を落としたかも知れないからだ。
壮太が神妙な顔で尋ねる。
「……それで、おばちゃんはどうやって助かったんだ?」
「最終的に建屋の一つが倒れたから、そこからみんな逃げ出したのさ。それでも大勢亡くなって……あの子の親父さんも犠牲になったんだけど……安全管理の責任者だから、彼が門を開けない決断をしたんじゃないかって噂になってさ」
「そんな噂、信憑性に乏しいでしょうに」
晶の言葉に、宗像さんは頷いた。
「あたしもデマだと思ってるけど、それでもあの子は気に病んだんだ。自分の父親のせいで、大勢犠牲になったんだって。当時13、4ぐらいだし、一番多感な時期だからね」
「あたしも、それは聞いた事あるかも……」
湯香里も躊躇いながら口を挟んだ。
「ご家族の遺品の中で、お父さんの物だけはみんな捨てちゃったんだって。お父さんの会社から届いた写真も、思い出の品も、何もかもつきかえして廃棄させたって……」
「湯香里ちゃんの言う通りだね。自衛軍に入ってからは、努力して高名なパイロットになって……こっちに戻ってきた後も、船団長の右腕として必死に働いてさ。私利私欲も無い、世のため人のために、死に物狂いで頑張ってるのさ」
「……偉いわ。立派な武将なのね」
鶴はそう素直に感心している。瞳は少し潤んでいるようだ。
誠は無意識にその横顔に見とれていたが、ふとある事に気が付いた。
(あれ……? ヒメ子って、こんなに人の話聞いてたっけ……?)
つい先日まで、適当に話半分で突っ走っては、女神に怒られていたはずなのに。
宗像さんは気持ちを落ち着かせるように、コマの毛を指で梳かしながら続けた。
「他の人は、鉄血の才女とか簡単に言うけど……あたしからすりゃ、あんな子がよく頑張ってると思うよ。なんもかんも一人で背負って、悲鳴を上げてるんじゃないかってね」
「…………………………」
一同は、しばし言葉を失っていた。
誠も何も言えなかったが、無意識に手を握り締めていた。
何だろう。言葉に出来ない熱い何かが、胸の中を駆け巡っている。
一同の説明を聞き、宗像さんは可笑しそうに笑った。
体育館より広いぐらいのフロアには、太いコンクリートの角柱が幾つも並び、床にはダークグリーンのマットレスが敷き詰められていた。
誠達は靴を脱いで車座に座っているのだったが、宗像さんの問いに、鶴は何でもない事のように答えた。
「平気よめぐちゃん。四国でも初っ端でお尋ねられたし、そこから敵を追い払えたんだもの。だからお尋ねイコール、即・勝利と言っても過言ではないわ」
「どうみても過言だよ鶴」
コマが呆れ顔で言うが、宗像さんはコマの鬣を撫でながら言った。
「それで、あたしに瞳ちゃんの……天草さんの事を聞きたいってわけか」
「…………もし、可能ならですけど。強要は出来ませんので……」
何か言い辛そうな雰囲気を感じ、誠はそう付け足したが、宗像さんは首を振った。
「いいさ……うん、きっとそういう時期なんだよ。話したげる」
宗像さんはコマを持ち上げ、自らの膝の上に乗せると、少しずつ語り始めた。
「……あたしも全部知ってるわけじゃないけど、あそこのご家族は仲が良くてさ。昔はよく、一家でグルメイベントに来てたんだよ。親父さんは留守がちだったから、戻ったら家族サービスしてたんだろうね」
「確か、うまいもんじゃわいサミットね。復興したら、鶴ちゃんも食べに行くわ」
俄然身を乗り出す鶴に、宗像さんは苦笑した。
「……それで、あの子が小学校を出るぐらいの時さ。親父さんが高千穂研の建設に携わって。何年か経って、一般公開のイベントの時、あの子も式典に招かれたんだ。チケットはそりゃ物凄い倍率でねえ」
宗像さんは、そこで一度言葉を切った。
しばらく言葉に詰まる彼女に、誠は恐る恐る声をかけた。
「……黄金のチケットですよね。父さんも研究員だったんですけど、職員の家族枠でも貴重だったみたいで。じゃんけんに負けて、僕に必死で謝ってました」
「その方が良かったんだよ。親父さんに感謝しな」
誠の言葉に、宗像さんは少しだけ微笑みを浮かべた。
「……その後はみんなも知ってる通りさ。研究所の奥からバケモノが溢れ出して。後ろでどんどん喰われていって、振り返る余裕もないのさ。きっと地獄ってのは、ああいう事なんだと思ったね」
「……めぐちゃんもその場にいたのね」
鶴が珍しく気を遣った様子で言うと、宗像さんは頷いた。
「何だかんだ顔が広かったからね。それで、何をどうやって逃げたかも分からないけど、息の続く限り走って、走って。一番正面のでかいゲートまで来たんだけど、そこが最後まで開かなかったんだ。逃げてきた人が大勢泣き叫んで、開けて、開けて、ってねえ。『嘆きの門』って言って、今でも九州じゃ忌み言葉なんだけど……そこに瞳ちゃんもいたんだよ」
「嘆きの門……」
誠も思わず繰り返していた。もしかしたら、父もそこで命を落としたかも知れないからだ。
壮太が神妙な顔で尋ねる。
「……それで、おばちゃんはどうやって助かったんだ?」
「最終的に建屋の一つが倒れたから、そこからみんな逃げ出したのさ。それでも大勢亡くなって……あの子の親父さんも犠牲になったんだけど……安全管理の責任者だから、彼が門を開けない決断をしたんじゃないかって噂になってさ」
「そんな噂、信憑性に乏しいでしょうに」
晶の言葉に、宗像さんは頷いた。
「あたしもデマだと思ってるけど、それでもあの子は気に病んだんだ。自分の父親のせいで、大勢犠牲になったんだって。当時13、4ぐらいだし、一番多感な時期だからね」
「あたしも、それは聞いた事あるかも……」
湯香里も躊躇いながら口を挟んだ。
「ご家族の遺品の中で、お父さんの物だけはみんな捨てちゃったんだって。お父さんの会社から届いた写真も、思い出の品も、何もかもつきかえして廃棄させたって……」
「湯香里ちゃんの言う通りだね。自衛軍に入ってからは、努力して高名なパイロットになって……こっちに戻ってきた後も、船団長の右腕として必死に働いてさ。私利私欲も無い、世のため人のために、死に物狂いで頑張ってるのさ」
「……偉いわ。立派な武将なのね」
鶴はそう素直に感心している。瞳は少し潤んでいるようだ。
誠は無意識にその横顔に見とれていたが、ふとある事に気が付いた。
(あれ……? ヒメ子って、こんなに人の話聞いてたっけ……?)
つい先日まで、適当に話半分で突っ走っては、女神に怒られていたはずなのに。
宗像さんは気持ちを落ち着かせるように、コマの毛を指で梳かしながら続けた。
「他の人は、鉄血の才女とか簡単に言うけど……あたしからすりゃ、あんな子がよく頑張ってると思うよ。なんもかんも一人で背負って、悲鳴を上げてるんじゃないかってね」
「…………………………」
一同は、しばし言葉を失っていた。
誠も何も言えなかったが、無意識に手を握り締めていた。
何だろう。言葉に出来ない熱い何かが、胸の中を駆け巡っている。
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