新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

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第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編

ヴィーナスの誕生 in 指宿温泉

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(うああっ、何でいきなりこんな事になってるんだ!?)

 誠は必死に天草氏の追跡から逃げていた。

(掴まったら迷子センターに連れてかれる! そしたら何言っても迷子の妄言だし、戦いにも間に合わなくなるぞ!)

 懸命に駆ける誠だったが、いきなり幼い体になったので、どうにもうまく走れないのだ。

「くそっ、歩幅が違うから走りにくいっ!」

 誠は今にも襟首を掴まれそうな恐怖を感じたが、不意にこちらを追いかける足音が止まった。

 振り返ると、天草は壁に手をつき、苦しそうに座り込んでいたのだ。

「あ、天草さん、大丈夫ですか!?」

 誠は慌てて駆け寄り、再び派手にすっ転んだ。

 誰かがこぼしたのか、パイプからの漏れなのか……ともかく水溜りで滑ったのだ。

 誠はびしょ濡れになって立ち上がろうとするが、その手を天草が掴んでいた。

 彼女は苦しげな様子だったが、何とか気丈に微笑んでいる。

「……優しいのね、君は。でも捕まえたわ」

 彼女の表情は、雪菜のそれによく似ている。世のため人のために、命がけで戦っている女性の顔だ。

 自らの不調を隠して微笑む彼女を見ると、誠はもう逃げる気がしなくなった。

 この人を死なせるわけにはいかないし、何とかしてこの人の力になりたいのだ。

「お名前は? どこから来たの?」

「鳴瀬……鳴瀬誠ですっ……!」

 誠は覚悟を決めて答えた。

 真っ直ぐに天草の目を見つめ、思い切って真実を伝える。

 例え見た目は幼子でも、思いを込めれば通じるはずだ。

 鶴も小豆島で言っていたはず。

 大事なのは、希望を見い出す目力めぢからだと。

「天草さん、お久しぶりです。あなたに会いに来たんです!」

 誠の全力の目力を受け止め、天草は不思議そうに呟いた。

「鳴瀬って……あの横須賀にいた?」

 そうです、と叫びそうになる誠より早く、彼女は次の言葉を発する。

「あの横須賀の鳴瀬くん…………の、兄弟なの?」

 誠は思わずすっ転んで、必死に彼女に抗議した。

「ちっ違います、本人です! 鳴瀬誠その人なんです!」

 天草はおかしそうに微笑んで、誠の頭を撫でた。

「まさか。もう何年も経ってるし、あの時より縮むわけないじゃない」

「ううっ……!」

 誠は絶句した。

(まずい。何か俺だって分かる証拠はないか……!?)

 焦る誠をよそに、彼女はゆっくりと立ち上がった。

「どうしてお兄さんのふりするのか知らないけど、背伸びする年頃なのかな」

「あ、あわわわ……」

 混乱の極みに陥る誠だったが、そこで通りすがりの女性仕官が声をかけてきた。

 先ほどの秘書官らしき人物とは別の女性である。

「天草司令、どうされたんですか」

「えっと、迷子みたいなの。船で遊んでたのかしらね」

「私が案内しましょうか?」

「……ううん、何とかするわ。その方が気晴らしになるし」

 誠は内心グロッキー状態だったが、天草の口から、更に驚愕の言葉が発射された。

「ねえ、お風呂あいてる?」

「今は時間的にあいていると思いますよ。それでは何かあればお呼び下さい」

 女性仕官は一礼して立ち去って行った。

 誠は固まったまま、ぎこちなく呟いた。

「………………………………お風呂?」



「ほら、暴れないの。そのままじゃ風邪ひいちゃうでしょ」

 天草は誠の手を引き、衛生区画へ向かっていく。

 散歩を嫌がる犬のように抵抗する誠だったが、さすがに幼い体では、大人の女性に力で勝てるわけがない。

 誠は風呂場を示す暖簾のれんの中へ連行された。

 暖簾のれんには、『ネオ指宿いぶすき温泉』の筆文字が踊っていた。余白には若い兵が洒落っ気で書いたのか、『郡山もよろしく!』『湯布院も忘れちゃ困るよ♪』といったメッセージが書かれている。

 九州をディフォルメした可愛らしいイラストも描かれており、その九州から腕が生えて力こぶが盛り上がっていた。

「うわちょっと、ほほほんとにやめてえっ!」

 どうしていいか分からない誠だったが、天草はさっさとこちらの服を脱がせてしまう。

 脱がされた衣服は、そのまま高速洗濯乾燥機に放り込まれた。

「ぼ、ぼぼぼぼっ、ボクもう大人です!」

「子供はみんなそう言うわよね」

 天草は完全に世話好きのお姉さんと化してしまい、一切こちらの話を聞こうとしない。

 焦る誠をよそに、さっさと自分も服を脱いだ。雪菜には少し及ばないものの、色々とグラマーな我儘ボディだ。

「だっ駄目ですそんなっ、困ります!」

 誠は目を逸らし、手をぶんぶん振って慌てるが、それも無駄な抵抗だった。

「さあ、暴れないで、こっちに来て」

 天草は誠を風呂場に連行し、温かいシャワーを浴びせたのだ。


 ……ああ、それは何という時間だったのだろう……!!!

 風呂場には天草と誠しかおらず、それだけで十分な破壊力だった。

 およそ言葉にしてはいけない、どんな名画も敵わないような光景だったし、今までで一番けしからん何かだった。

 誠は頭を洗われながら、心の中で謝った。

(ううっ、雪菜さん、ごめんなさい……!)

 天草は誠の内心も知らず、機嫌よく誠の頭を洗っている。

 洗いながら、ふと何かの歌を口ずさみかけたが、彼女はそこで手を止めた。

「…………嫌だな。こんな所まで似てる……」

 天草はそう呟いて、黙って誠の頭を洗い続けた。
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