35 / 90
第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
唐津くんちに行こう2
しおりを挟む
「こんにちは、お姉さん」
「……あら」
案内係の女性は、コマを見るなりそう呟いた。
表情には出さないが、内心ではかなり驚いているようだ。
しばらく無言が続き、コマはとうとうしびれを切らした。
「ねえお姉さん、僕は狛犬のコマ。神様のご命令で、みんなを守るために来たんだけど、この避難区の地図はある? 港まで全部分かるようなのがいいんだ」
女性を目をしばたかせ、何度もメガネの位置を直していたが、先程と変わらないテンションで答えた。
「……かしこまりました。増築が多いため、紙の地図はございませんが、あちらに案内板がございます。操作法はお分かりですか?」
「ありがとう、なんとかやってみるよ」
コマは再び前足を上げて挨拶すると、ぴょんとテーブルから飛び降りた。
星空のように瞬く、職員達のメガネ光を浴びてフロアを進むと、横手の壁に案内板があった。
案内板には、地上50センチ程の高さに四角いスイッチが並んでいる。
コマがジャンプしてスイッチを押すと、光の立体地図が浮かび上がり、一同の目線まで下がって来てくれた。
子供や車椅子の人が操作できるよう、対人感知装置が付いているのだろう。
立体地図の端には、『本日10時更新済み最新情報』と表示されている。
誠は手を伸ばし、地図を拡大しながら考えた。
「こりゃ予想以上に複雑だな。作業員はナビとか持ってるからいいんだろうけど……」
地図上には、幾多の通路が網の目のように広がっている。
良く見ると、ビルの上をビルが跨ったり、建物の中層をぶち抜いて道路が通ったりしているので、土地勘のない人がうろつくと、たちどころに迷子になってしまいそうだ。
「ええと、現在地はここだろ。細かい道は見分けがつきにくいから、大通りを目指すのが一番かな。ここを出て、ずっと真っ直ぐ……こっちの通路に合流して、学校跡地……の、体育館の横を抜ければ大通りだ。そこを進めば、港エリアに出るはずだ」
「よしきた、さっそく行ってみよう」
コマは再び走り出すが、一度止まって、案内係のお姉さんに手を振った。
「お姉さん、ありがとう!」
「……いえ。御機嫌よう」
案内係の女性は、メガネを光らせながら答えた。最初より、一ミリぐらいは口角が上がったような気がした。
建物を出てガンガン進むと、やがて古びた体育館が見えてきた。
そのまま脇を通り抜けようとしたのだが、コマはそこで足を止めた。
通路には沢山の兵が行き交い、簡易の検問まで据えられていたからだ。
「港が近いからかな、警備が厳しいね。どうしようか」
「だったら中を通りましょう。その方が近道になるわ」
鶴が体育館の中を指差した。
コマは上がり口から体育館に入ると、人々の合間を縫って先へ進んだ。
館内は畳2畳ぐらいごとに間仕切りが立てられ、人々が腰掛けたり横になったりしていた。
やがて料理係が鍋やアルミの皿を運んできた。
どうやら食事が配られるようだが、誰もそれを心待ちにしている様子はない。
鶴は少し悲しそうに呟いた。
「まあ、折角のご飯なのに、元気が無いのね」
「いつ敵が押し寄せて来るかも知れないし、それどころじゃないんだろ」
誠も被災者達を見ながら答えた。
「頑張って早く安心して貰わないとな。ヒメ子も疲れてるだろうけど……って、いない!?」
誠が前を見ると、いつの間にかコマの背から鶴の姿が消えていたのだ。
「あっ、いたよ黒鷹! 斜め前、長机の上!」
コマが前足で指す方を見ると、鶴はいつの間にか長机の上に乗っている。
どこから取り出したのか、鍋にハシゴをかけて中身を覗き、「おいしそう」と呟いている。
誠は小声で呼びかけた。
「……こらヒメ子っ! 何やってんだよ、早く戻れっ!」
「……あっ黒鷹、人が来たよ!」
コマの言葉どおり、料理係らしき太った人物が、のしのし鶴に近付いて行く。
鶴は気配を察し、さっと鍋の陰に隠れた。
「おや、何か動いた気が……」
料理係はネズミか何かと思ったのか、鍋や皿の陰を確かめ始めた。
鶴は少し離れた場所から出て来たが、ハシゴをしまい忘れていたのに気付き、再び鍋に近寄っていく。
「……いやヒメ子、ハシゴなんてもういいだろ! あっ、やばいっ!」
だが料理係が目を向けた瞬間、鶴は太刀を抜いてポーズを取った。
偶然にも、西部劇のガンマンを描いた鍋があったため、その鍋の模様のふりをしたのだ。
「派手な鍋だな……」
料理係は呟くと、入り口の方に戻っていった。
「何やってんだよヒメ子、見つかると思っただろ!」
「ごめんちゃい、おいしそうだったからついね」
鶴はコマの背に着地するが、あまり反省の色が無い。
何とか体育館を抜け、大通りに沿って走ると、ようやく彼方に停泊している船が見え始めた。
「あっ! この景色、潜水艇で予習した所だわ! という事はあの船よ!」
鶴の指差す先を見ると、港の奥に、空母のようなシーグレーの船体が停泊している。
運良くグリーンの大きな車両が、船体に開いたハッチ……搬入口から中に入る所である。
「あの車に隠れよう。いよいよ指揮官と対決だよ!」
コマは小走りで加速すると、ジャンプして車に飛び乗った。
「……あら」
案内係の女性は、コマを見るなりそう呟いた。
表情には出さないが、内心ではかなり驚いているようだ。
しばらく無言が続き、コマはとうとうしびれを切らした。
「ねえお姉さん、僕は狛犬のコマ。神様のご命令で、みんなを守るために来たんだけど、この避難区の地図はある? 港まで全部分かるようなのがいいんだ」
女性を目をしばたかせ、何度もメガネの位置を直していたが、先程と変わらないテンションで答えた。
「……かしこまりました。増築が多いため、紙の地図はございませんが、あちらに案内板がございます。操作法はお分かりですか?」
「ありがとう、なんとかやってみるよ」
コマは再び前足を上げて挨拶すると、ぴょんとテーブルから飛び降りた。
星空のように瞬く、職員達のメガネ光を浴びてフロアを進むと、横手の壁に案内板があった。
案内板には、地上50センチ程の高さに四角いスイッチが並んでいる。
コマがジャンプしてスイッチを押すと、光の立体地図が浮かび上がり、一同の目線まで下がって来てくれた。
子供や車椅子の人が操作できるよう、対人感知装置が付いているのだろう。
立体地図の端には、『本日10時更新済み最新情報』と表示されている。
誠は手を伸ばし、地図を拡大しながら考えた。
「こりゃ予想以上に複雑だな。作業員はナビとか持ってるからいいんだろうけど……」
地図上には、幾多の通路が網の目のように広がっている。
良く見ると、ビルの上をビルが跨ったり、建物の中層をぶち抜いて道路が通ったりしているので、土地勘のない人がうろつくと、たちどころに迷子になってしまいそうだ。
「ええと、現在地はここだろ。細かい道は見分けがつきにくいから、大通りを目指すのが一番かな。ここを出て、ずっと真っ直ぐ……こっちの通路に合流して、学校跡地……の、体育館の横を抜ければ大通りだ。そこを進めば、港エリアに出るはずだ」
「よしきた、さっそく行ってみよう」
コマは再び走り出すが、一度止まって、案内係のお姉さんに手を振った。
「お姉さん、ありがとう!」
「……いえ。御機嫌よう」
案内係の女性は、メガネを光らせながら答えた。最初より、一ミリぐらいは口角が上がったような気がした。
建物を出てガンガン進むと、やがて古びた体育館が見えてきた。
そのまま脇を通り抜けようとしたのだが、コマはそこで足を止めた。
通路には沢山の兵が行き交い、簡易の検問まで据えられていたからだ。
「港が近いからかな、警備が厳しいね。どうしようか」
「だったら中を通りましょう。その方が近道になるわ」
鶴が体育館の中を指差した。
コマは上がり口から体育館に入ると、人々の合間を縫って先へ進んだ。
館内は畳2畳ぐらいごとに間仕切りが立てられ、人々が腰掛けたり横になったりしていた。
やがて料理係が鍋やアルミの皿を運んできた。
どうやら食事が配られるようだが、誰もそれを心待ちにしている様子はない。
鶴は少し悲しそうに呟いた。
「まあ、折角のご飯なのに、元気が無いのね」
「いつ敵が押し寄せて来るかも知れないし、それどころじゃないんだろ」
誠も被災者達を見ながら答えた。
「頑張って早く安心して貰わないとな。ヒメ子も疲れてるだろうけど……って、いない!?」
誠が前を見ると、いつの間にかコマの背から鶴の姿が消えていたのだ。
「あっ、いたよ黒鷹! 斜め前、長机の上!」
コマが前足で指す方を見ると、鶴はいつの間にか長机の上に乗っている。
どこから取り出したのか、鍋にハシゴをかけて中身を覗き、「おいしそう」と呟いている。
誠は小声で呼びかけた。
「……こらヒメ子っ! 何やってんだよ、早く戻れっ!」
「……あっ黒鷹、人が来たよ!」
コマの言葉どおり、料理係らしき太った人物が、のしのし鶴に近付いて行く。
鶴は気配を察し、さっと鍋の陰に隠れた。
「おや、何か動いた気が……」
料理係はネズミか何かと思ったのか、鍋や皿の陰を確かめ始めた。
鶴は少し離れた場所から出て来たが、ハシゴをしまい忘れていたのに気付き、再び鍋に近寄っていく。
「……いやヒメ子、ハシゴなんてもういいだろ! あっ、やばいっ!」
だが料理係が目を向けた瞬間、鶴は太刀を抜いてポーズを取った。
偶然にも、西部劇のガンマンを描いた鍋があったため、その鍋の模様のふりをしたのだ。
「派手な鍋だな……」
料理係は呟くと、入り口の方に戻っていった。
「何やってんだよヒメ子、見つかると思っただろ!」
「ごめんちゃい、おいしそうだったからついね」
鶴はコマの背に着地するが、あまり反省の色が無い。
何とか体育館を抜け、大通りに沿って走ると、ようやく彼方に停泊している船が見え始めた。
「あっ! この景色、潜水艇で予習した所だわ! という事はあの船よ!」
鶴の指差す先を見ると、港の奥に、空母のようなシーグレーの船体が停泊している。
運良くグリーンの大きな車両が、船体に開いたハッチ……搬入口から中に入る所である。
「あの車に隠れよう。いよいよ指揮官と対決だよ!」
コマは小走りで加速すると、ジャンプして車に飛び乗った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
女装と復讐は街の華
木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。
- 作者:木乃伊 -
この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。
- あらすじ -
お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。
そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、
その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。
※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。
ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。
※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。
舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。
※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。
よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
キャラ文芸
”ネット特定班”×復讐劇!
世の中には『大人の事情』で制裁されないことがある――そんな理不尽な事を裏で制裁している業者がある。
家事代行・エアコン工事・草むしりその他諸々引き受けます。
表向きは便利屋、裏では復讐代行を請け負っている『よろず屋ななつ星』
高校入学早々体育の授業で神原千夏が喘息の発作が引き金で死亡した。
学校側は事態を隠蔽する姿勢に対し、神原光政・澪子が真実の解明と、校長及び体育教師への制裁をよろず屋ななつ星に依頼する。
依頼を受けたすずらんは藤ノ宮女子高校に関して調べていくが・・・・・・。
十数年前に起きた女子中学生飛び降り事件につながる人物が絡んでいた――。
私の夫は猫に好かれる。
蒼キるり
キャラ文芸
夫を愛してやまない吉川美衣は、夫がすぐに猫を拾って来ることを悩んでいる。
それは猫のエサ代がかかることが悩みだからではない。
単純に自分への愛情が減ることを心配しているからである!
「私というものがありながら浮気なの!?」
「僕は美衣ちゃんが一番だよ!」
猫に異様なまでに好かれる天然タイプな夫と、昔から猫の言葉がわかる妻の、どたばた日常生活。
夫婦喧嘩は猫も食わないにゃあ。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる