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第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
唐津くんちに行こう1
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無事に検問を切り抜けたコマは、懸命に市街を駆け抜けていた。
鶴は鬣から顔を出して辺りを見回す。
「しめしめ、うまく通り抜けたわね」
「けっこう危なかったと思うよ? てか鶴、僕もちょっと大きくなるよ。歩幅が小さくて疲れるんだ」
コマはそう言って物陰に隠れると、ぶるぶると身震いした。
するとたちまちコマの体を光が包み、普段の子犬ぐらいのサイズに戻ったのだ。
「うん、これならガンガン進めるぞ。一気にスピードアップだ」
コマは再び走り出した。
轟音と共に、頭上を巨大な機械が通り過ぎていく。
歩道橋を何百倍も大きくしたようなその姿は、自走式の属性添加型超巨大懸架装置である。
恐らくは組み立て済みの建物を、運んで据えつけるための設備だろう。
鶴は手をかざしてクレーンを見送ると、何度目かの感嘆の声を上げた。
「それにしても、ほんとに凄い城下町ね。日本中の大きな館が、ここに集まってるみたい」
「僕もさすがに迷いそうだよ。大まかに海の匂いを目指してるけどさ」
コマの言葉に誠も頷いた。
「増設しまくりでごちゃごちゃしてたもんな。ヒメ子、神器の地図は使えないのか?」
鶴は珍しくすまなさそうに首を振った。
「ごめんね黒鷹。九州に来て間もないから、道とかはまだ分からないの。敵が近づいたら分かるぐらいよ」
「いいさ、だったら事務所か案内所を探そう。でかい建物の1階に行けば、大抵あると思うし」
誠は確信を持ってそう答えた。
第5船団でもそうだったが、大きめの避難区では、ある程度の区画ごとに行政の出張所があるものだ。
手紙や荷物の受け取り、移転などの各種手続きを行う事務所には、大抵地図も備わっている。
鶴はキョロキョロしていたが、ふいに向こうの建物を指差した。
「それじゃ、あそこにしましょう。なんかめでたい感じがするわ」
鶴の指差す方を見ると、巨大な建物の入り口に、赤い鯛の立体模型が飾られていた。
「そっか、この鯛、唐津くんちだ」
誠の言葉に、鶴は目を丸くして驚いた。
「まあ、唐津くん家なの? こんな大きいのに?」
「違う! 唐津くんちって、佐賀県の、唐津神社のお祭りだよ。台車に派手な飾りを乗せて練り歩くんだ。鯛とか獅子とか色んな飾りつけがあって……とにかく、ここが佐賀の人の避難区って事だろ」
「じゃあ平和になったら、コマの台車も作ってもらいましょうか」
「何でだよ」
誠のツッコミをよそに、コマは建物へと侵入した。
開け放たれたガラス戸を過ぎると、入り口の左右には、無骨なスライド式の非常用隔壁扉が控えている。
映画で見た銀行の地下金庫ぐらい頑丈そうで、これなら少しは持ちこたえられそうだった。
ロビー内は装飾に乏しかったが、広さは体育館ほどもあるだろう。
半分以上は手続きを待つ人々のための椅子スペースになっていたが、残りはカウンターテーブルで仕切られ、沢山の職員が一心に事務作業に取り組んでいた。
カウンターには案内板が貼り付けられ、『伊万里・嬉野方面の方は24番受付へ』といった内容が書いてあった。
食料や衛生用品の支給情報もしっかりしていたし、職員もメガネ率が高く、皆誠実に働いているようだ。
彼らが動く度に、メガネがきらきらと輝きを放っている。
「みんなとっても優秀そうね」
鶴が感心すると、コマも珍しく同意した。
「ラッキーだね鶴、いい所に入ったよ。佐賀のひゅうかもんって言って、あっちの人は一見とっつきにくそうだけど、真面目でしっかりしてるらしいよ」
「まあ! そういう人は、鶴ちゃん大歓迎だわ」
「君が楽をできるからだろ。ええと、僕らは手続きじゃないから、案内係に聞けばいいのか」
コマは横手の案内係のテーブルへと向かった。
コマは遠慮なくテーブルに飛び乗り、前足を上げて声をかけた。
鶴は鬣から顔を出して辺りを見回す。
「しめしめ、うまく通り抜けたわね」
「けっこう危なかったと思うよ? てか鶴、僕もちょっと大きくなるよ。歩幅が小さくて疲れるんだ」
コマはそう言って物陰に隠れると、ぶるぶると身震いした。
するとたちまちコマの体を光が包み、普段の子犬ぐらいのサイズに戻ったのだ。
「うん、これならガンガン進めるぞ。一気にスピードアップだ」
コマは再び走り出した。
轟音と共に、頭上を巨大な機械が通り過ぎていく。
歩道橋を何百倍も大きくしたようなその姿は、自走式の属性添加型超巨大懸架装置である。
恐らくは組み立て済みの建物を、運んで据えつけるための設備だろう。
鶴は手をかざしてクレーンを見送ると、何度目かの感嘆の声を上げた。
「それにしても、ほんとに凄い城下町ね。日本中の大きな館が、ここに集まってるみたい」
「僕もさすがに迷いそうだよ。大まかに海の匂いを目指してるけどさ」
コマの言葉に誠も頷いた。
「増設しまくりでごちゃごちゃしてたもんな。ヒメ子、神器の地図は使えないのか?」
鶴は珍しくすまなさそうに首を振った。
「ごめんね黒鷹。九州に来て間もないから、道とかはまだ分からないの。敵が近づいたら分かるぐらいよ」
「いいさ、だったら事務所か案内所を探そう。でかい建物の1階に行けば、大抵あると思うし」
誠は確信を持ってそう答えた。
第5船団でもそうだったが、大きめの避難区では、ある程度の区画ごとに行政の出張所があるものだ。
手紙や荷物の受け取り、移転などの各種手続きを行う事務所には、大抵地図も備わっている。
鶴はキョロキョロしていたが、ふいに向こうの建物を指差した。
「それじゃ、あそこにしましょう。なんかめでたい感じがするわ」
鶴の指差す方を見ると、巨大な建物の入り口に、赤い鯛の立体模型が飾られていた。
「そっか、この鯛、唐津くんちだ」
誠の言葉に、鶴は目を丸くして驚いた。
「まあ、唐津くん家なの? こんな大きいのに?」
「違う! 唐津くんちって、佐賀県の、唐津神社のお祭りだよ。台車に派手な飾りを乗せて練り歩くんだ。鯛とか獅子とか色んな飾りつけがあって……とにかく、ここが佐賀の人の避難区って事だろ」
「じゃあ平和になったら、コマの台車も作ってもらいましょうか」
「何でだよ」
誠のツッコミをよそに、コマは建物へと侵入した。
開け放たれたガラス戸を過ぎると、入り口の左右には、無骨なスライド式の非常用隔壁扉が控えている。
映画で見た銀行の地下金庫ぐらい頑丈そうで、これなら少しは持ちこたえられそうだった。
ロビー内は装飾に乏しかったが、広さは体育館ほどもあるだろう。
半分以上は手続きを待つ人々のための椅子スペースになっていたが、残りはカウンターテーブルで仕切られ、沢山の職員が一心に事務作業に取り組んでいた。
カウンターには案内板が貼り付けられ、『伊万里・嬉野方面の方は24番受付へ』といった内容が書いてあった。
食料や衛生用品の支給情報もしっかりしていたし、職員もメガネ率が高く、皆誠実に働いているようだ。
彼らが動く度に、メガネがきらきらと輝きを放っている。
「みんなとっても優秀そうね」
鶴が感心すると、コマも珍しく同意した。
「ラッキーだね鶴、いい所に入ったよ。佐賀のひゅうかもんって言って、あっちの人は一見とっつきにくそうだけど、真面目でしっかりしてるらしいよ」
「まあ! そういう人は、鶴ちゃん大歓迎だわ」
「君が楽をできるからだろ。ええと、僕らは手続きじゃないから、案内係に聞けばいいのか」
コマは横手の案内係のテーブルへと向かった。
コマは遠慮なくテーブルに飛び乗り、前足を上げて声をかけた。
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