上 下
34 / 90
第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編

唐津くんちに行こう1

しおりを挟む
 無事に検問を切り抜けたコマは、懸命に市街を駆け抜けていた。

 鶴はたてがみから顔を出して辺りを見回す。

「しめしめ、うまく通り抜けたわね」

「けっこう危なかったと思うよ? てか鶴、僕もちょっと大きくなるよ。歩幅が小さくて疲れるんだ」

 コマはそう言って物陰に隠れると、ぶるぶると身震いした。

 するとたちまちコマの体を光が包み、普段の子犬ぐらいのサイズに戻ったのだ。

「うん、これならガンガン進めるぞ。一気にスピードアップだ」

 コマは再び走り出した。

 轟音と共に、頭上を巨大な機械が通り過ぎていく。

 歩道橋を何百倍も大きくしたようなその姿は、自走式の属性添加型エレメンタル超巨大懸架装置ゴライアス・クレーンである。

 恐らくは組み立て済みの建物を、運んで据えつけるための設備だろう。

 鶴は手をかざしてクレーンを見送ると、何度目かの感嘆の声を上げた。

「それにしても、ほんとに凄い城下町ね。日本中の大きな館が、ここに集まってるみたい」

「僕もさすがに迷いそうだよ。大まかに海の匂いを目指してるけどさ」

 コマの言葉に誠も頷いた。

「増設しまくりでごちゃごちゃしてたもんな。ヒメ子、神器の地図は使えないのか?」

 鶴は珍しくすまなさそうに首を振った。

「ごめんね黒鷹。九州こっちに来て間もないから、道とかはまだ分からないの。敵が近づいたら分かるぐらいよ」

「いいさ、だったら事務所か案内所を探そう。でかい建物の1階に行けば、大抵あると思うし」

 誠は確信を持ってそう答えた。

 第5船団でもそうだったが、大きめの避難区では、ある程度の区画ごとに行政の出張所があるものだ。

 手紙や荷物の受け取り、移転などの各種手続きを行う事務所には、大抵地図も備わっている。

 鶴はキョロキョロしていたが、ふいに向こうの建物を指差した。

「それじゃ、あそこにしましょう。なんかめでたい感じがするわ」

 鶴の指差す方を見ると、巨大な建物の入り口に、赤い鯛の立体模型が飾られていた。

「そっか、この鯛、唐津からつくんちだ」

 誠の言葉に、鶴は目を丸くして驚いた。

「まあ、唐津くんなの? こんな大きいのに?」

「違う! 唐津くんちって、佐賀県の、唐津神社のお祭りだよ。台車に派手な飾りを乗せて練り歩くんだ。鯛とか獅子とか色んな飾りつけがあって……とにかく、ここが佐賀の人の避難区って事だろ」

「じゃあ平和になったら、コマの台車も作ってもらいましょうか」

「何でだよ」

 誠のツッコミをよそに、コマは建物へと侵入した。

 開け放たれたガラス戸を過ぎると、入り口の左右には、無骨なスライド式の非常用隔壁扉ガードドアが控えている。

 映画で見た銀行の地下金庫ぐらい頑丈そうで、これなら少しは持ちこたえられそうだった。

 ロビー内は装飾に乏しかったが、広さは体育館ほどもあるだろう。

 半分以上は手続きを待つ人々のための椅子スペースになっていたが、残りはカウンターテーブルで仕切られ、沢山の職員が一心に事務作業に取り組んでいた。

 カウンターには案内板が貼り付けられ、『伊万里いまり嬉野うれしの方面の方は24番受付へ』といった内容が書いてあった。

 食料や衛生用品の支給情報もしっかりしていたし、職員もメガネ率が高く、皆誠実に働いているようだ。

 彼らが動く度に、メガネがきらきらと輝きを放っている。

「みんなとっても優秀そうね」

 鶴が感心すると、コマも珍しく同意した。

「ラッキーだね鶴、いい所に入ったよ。佐賀のひゅうかもんって言って、あっちの人は一見とっつきにくそうだけど、真面目でしっかりしてるらしいよ」

「まあ! そういう人は、鶴ちゃん大歓迎だわ」

「君が楽をできるからだろ。ええと、僕らは手続きじゃないから、案内係に聞けばいいのか」

 コマは横手の案内係のテーブルへと向かった。

 コマは遠慮なくテーブルに飛び乗り、前足を上げて声をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡
キャラ文芸
後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

処理中です...