32 / 90
第二章その3 ~肥後もっこすを探せ!~ 鹿児島ニンジャ旅編
九州最後の砦・鹿児島城塞避難区
しおりを挟む
「凄いな九州は……スケールが全然違うや」
彼方にそびえ立つ壁は、高さ50メートルを超えるだろうか。
まるで巨大なダムのようだ……と誠が考えていると、轟音と共に壁が動き始め、内部から無数の砲や兵装が顔を出していく。
壁の隙間から見える市街も、まさしく威容の一言であった。
避難者が増えるにつれて、増設を重ねて来たのだろう。高さも広さも半端ではない建物が積み重なり、一つの巨大な街になっているのだ。
小規模な避難区が多かった四国では、ついぞ見た事のないサイズ感である。
鶴も手をかざし、興味深そうに眺めている。
「まるで巨大なからくり城ね。かくれんぼしたら、一体何日かかるのかしら」
驚く一同を気遣い、晶が説明してくれた。
「お気に召したかな。鹿児島避難区と言っても、どんどん増築されててね。正式には旧鹿児島市だけでなく、ここから南の薩摩半島全域を指すんだ」
誠は予想以上のスケールに驚いた。
「半島全域!? そりゃすごい、かなりの人が入れそうだ」
「おっしゃる通りさ、鳴瀬氏。ただまあ、お偉いさんの居住地とか、重要企業の工場は、種子島などの島嶼部にあるんだ。そうしなきゃ戦闘継続できないって事だが…………要するに、そこに行くにはコネか金がいるって事さ」
晶の後を壮太が続けた。
「ひでえ話でよ、賄賂で避難順位の繰上げもしてるらしいぜ。小さいガキんちょとか、怪我人を差し置いて逃げてるらしいからな」
「まあ、ますますけしからんわ!」
ヒートアップする鶴をよそに、車はのろのろと進んでいく。
「……っと、そろそろ顔を引っ込めた方がいいわよ。問題はあの壁の検問なのよね」
湯香里がボリュームを下げ気味に囁いた。
「あの壁を越える前に、IDと顔写真を確認するの。大勢避難するから、チェックして避難所の割り振りをするんだけど。要はテロとかが起きないようにするのよね」
「テロってまさか、こんな状況で?」
誠は思わず湯香里の顔を見た。
「そうよ、言ってなかったっけ。避難区を狙う爆破テロみたいなのがあるのよ。今は殆ど無いんだけど、一時期は工場とかが狙われててね」
湯香里はそう言って肩をすくめた。
「ほんとはこんなキッチリ検問してたら、避難が間に合わないかもだけど、テロがある以上しょうがないのよね……おっと!」
湯香里はウトウト船を漕ぐ八千穂を支えながらそう言った。
キャシーとヘンダーソンは、既に軍用マットレスの上で横になっている。
寝相の悪いキャシーの足が当たり、メガネを斜めにしながらも、晶は真面目な顔で後を続ける。
「流石にここは身分証が無いと通してくれんし、強行突破なんかしたら大騒ぎになるだろう。車内は温度感知で調べられるし、申請した人数以上が隠れてたらすぐ分かるはずさ」
「ふむふむ、なるほどね。なかなかしっかりした守りだけど、だったら瞬間移動で行けばいいわ」
鶴の提案に、肩に乗るコマが慌てて止めた。
「待って鶴、それは最後の手段にしようよ。1回飛んで来てるんだし、いざって時に霊力が足りなくなっちゃう。まずは普通に通れる方法を探そうよ」
「うーん、それもそうね。何か省エネで使えそうな神器はないかしら」
鶴は虚空の穴に手を入れてかき回すと、おもむろに何かを取り出した。
丸みを帯びたトンカチのようなそれは、誠も見た事のあるデザインである。
「まあ、打ち出の小槌だわ」
「う、打ち出の小槌?」
鶴の言葉に、誠は思わず声が出た。声を出し、それから一人で納得する。
「そうか、一寸法師だ。小さくなれば通れるかも知れない」
「ち、小さくなれるものなの……???」
湯香里を含め、皆が半信半疑だったが、鶴は自信満々で頷いた。
「勿論よ。みんな、悪いけどお役人が来たら、気を引いてくれないかしら。その間に私達が通るから」
「わ、分かったわ。キャシーもヘンダーソンも、そろそろ起きて。八千穂もほらっ」
湯香里は慌てて一同を起こしにかかった。
彼方にそびえ立つ壁は、高さ50メートルを超えるだろうか。
まるで巨大なダムのようだ……と誠が考えていると、轟音と共に壁が動き始め、内部から無数の砲や兵装が顔を出していく。
壁の隙間から見える市街も、まさしく威容の一言であった。
避難者が増えるにつれて、増設を重ねて来たのだろう。高さも広さも半端ではない建物が積み重なり、一つの巨大な街になっているのだ。
小規模な避難区が多かった四国では、ついぞ見た事のないサイズ感である。
鶴も手をかざし、興味深そうに眺めている。
「まるで巨大なからくり城ね。かくれんぼしたら、一体何日かかるのかしら」
驚く一同を気遣い、晶が説明してくれた。
「お気に召したかな。鹿児島避難区と言っても、どんどん増築されててね。正式には旧鹿児島市だけでなく、ここから南の薩摩半島全域を指すんだ」
誠は予想以上のスケールに驚いた。
「半島全域!? そりゃすごい、かなりの人が入れそうだ」
「おっしゃる通りさ、鳴瀬氏。ただまあ、お偉いさんの居住地とか、重要企業の工場は、種子島などの島嶼部にあるんだ。そうしなきゃ戦闘継続できないって事だが…………要するに、そこに行くにはコネか金がいるって事さ」
晶の後を壮太が続けた。
「ひでえ話でよ、賄賂で避難順位の繰上げもしてるらしいぜ。小さいガキんちょとか、怪我人を差し置いて逃げてるらしいからな」
「まあ、ますますけしからんわ!」
ヒートアップする鶴をよそに、車はのろのろと進んでいく。
「……っと、そろそろ顔を引っ込めた方がいいわよ。問題はあの壁の検問なのよね」
湯香里がボリュームを下げ気味に囁いた。
「あの壁を越える前に、IDと顔写真を確認するの。大勢避難するから、チェックして避難所の割り振りをするんだけど。要はテロとかが起きないようにするのよね」
「テロってまさか、こんな状況で?」
誠は思わず湯香里の顔を見た。
「そうよ、言ってなかったっけ。避難区を狙う爆破テロみたいなのがあるのよ。今は殆ど無いんだけど、一時期は工場とかが狙われててね」
湯香里はそう言って肩をすくめた。
「ほんとはこんなキッチリ検問してたら、避難が間に合わないかもだけど、テロがある以上しょうがないのよね……おっと!」
湯香里はウトウト船を漕ぐ八千穂を支えながらそう言った。
キャシーとヘンダーソンは、既に軍用マットレスの上で横になっている。
寝相の悪いキャシーの足が当たり、メガネを斜めにしながらも、晶は真面目な顔で後を続ける。
「流石にここは身分証が無いと通してくれんし、強行突破なんかしたら大騒ぎになるだろう。車内は温度感知で調べられるし、申請した人数以上が隠れてたらすぐ分かるはずさ」
「ふむふむ、なるほどね。なかなかしっかりした守りだけど、だったら瞬間移動で行けばいいわ」
鶴の提案に、肩に乗るコマが慌てて止めた。
「待って鶴、それは最後の手段にしようよ。1回飛んで来てるんだし、いざって時に霊力が足りなくなっちゃう。まずは普通に通れる方法を探そうよ」
「うーん、それもそうね。何か省エネで使えそうな神器はないかしら」
鶴は虚空の穴に手を入れてかき回すと、おもむろに何かを取り出した。
丸みを帯びたトンカチのようなそれは、誠も見た事のあるデザインである。
「まあ、打ち出の小槌だわ」
「う、打ち出の小槌?」
鶴の言葉に、誠は思わず声が出た。声を出し、それから一人で納得する。
「そうか、一寸法師だ。小さくなれば通れるかも知れない」
「ち、小さくなれるものなの……???」
湯香里を含め、皆が半信半疑だったが、鶴は自信満々で頷いた。
「勿論よ。みんな、悪いけどお役人が来たら、気を引いてくれないかしら。その間に私達が通るから」
「わ、分かったわ。キャシーもヘンダーソンも、そろそろ起きて。八千穂もほらっ」
湯香里は慌てて一同を起こしにかかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる