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第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編
幸村は九州がお好き
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一同を乗せた輸送車は、鹿児島へとひた走った。
運転席後ろに位置する搭乗者待機部屋には、前方に作戦確認用のモニターがあり、両脇には布製ベンチが並んでいる。
後ろの壁には『ファイト九州!』と筆文字が書かれ、その周りに沢山の寄せ書きがあった。
鶴はさっそく筆を取り出し、『鶴姫参上』と書いていたし、コマもちゃっかり便乗して、『優秀なる狛犬のコマ』と記していた。
一同は輪になって床に座り、弁当型過熱式携帯糧食を食べながら自己紹介を行った。
「第5船団、高縄半島避難区所属の鳴瀬誠少尉です。その、勝手に侵入して申し訳ないというか……」
誠が言いにくい事を口にしかけると、鶴が笑顔で遮った。
「大丈夫よ黒鷹、人助けをしたから、そこはうまい事うやむやになるわ。はいコマの分、どんどん食べなさい」
コマにレーションを分けながら、鶴はさっさと自己紹介を引き継いだ。
「私は三島大祝家に生まれた大祝鶴姫、日本を守りに来た聖者なの。なかなかどうして高貴なんだけど、気さくな性格だから、鶴ちゃんって呼んでいいわ」
「僕は鶴の相棒かつお目付け役で、狛犬のコマ。よろしくね」
得意げに胸を張る鶴と、前足を上げて挨拶するコマを交互に見つめ、九州の面々は半信半疑で頷いている。
誠の隣には、日に焼けた小柄な少年が座っていた。
短髪で男らしい顔立ちであり、この601班の隊長なのだが、誠はなぜか仲良くなれそうな気がして仕方がなかった。
「俺は隊長の志布志壮太。典型的な薩摩隼人で、控えめに言って男の中の男だな。みんなを代表して礼を言うぜ!」
「あ、いや、どういたしまして」
誠は彼の差し出した手を握る。
活発そうな印象通りに力が強く、手には硬い竹刀ダコが感じられた。
壮太は上機嫌で話を続ける。
「それにしても、あんな簡単に火車をぶちのめすなんてなあ。そっちの姫は凄すぎてよく分かんねえけど、お前の操縦だって滅茶苦茶だぜ? 九州男児じゃないのに、こんなヤツがいるなんて信じらんないぜ」
「こら壮太、男は九州だけじゃないでしょ」
着物姿の少女がツッコミを入れたが、壮太はまだ粘り続ける。
「もしかして、実は九州男児なんじゃないか? どっちかの親がそうとか」
「い、いや、母さんは生粋の瀬戸内産だし、父さんは長野出身なんで……」
誠がたじろぎながら答えると、壮太は手を叩いて喜んだ。
「やっぱりな、長野なら真田の里だろ? 鹿児島にも真田幸村の墓があるし、だったら九州男児みたいなもんだぜ」
「何よその理屈……」
少女は額を押さえ、他の隊員達も苦笑していた。
鹿児島にある件の墓が、真田幸村のものだと証明されたわけではないが…………幸村が大阪から落ち延び、徳川と対立する島津氏に身を寄せたのなら、確かに理屈は通っている。
この第6船団の隊員達を見るに、幸村も楽しい余生だったんじゃないかな、と誠は思った。レーションに入っている蒸したサツマイモも、甘くてとても幸せな味だ。
壮太はそこで何かを思い出したらしく、腕組みして宙を見上げる。
「そういやあ、第5船団にも俺の従兄弟がいるはずだけど、元気にしてるかなあ? 歳は同じで、宮島武志っていうんだけど」
「あ、なるほど! それで仲良くなれそうな気がしたんだ」
誠はようやく合点がいった。
顔はあまり似ていないが、元気の塊みたいな所と、仲間思いの熱い気性はそっくりである。
「宮島はうちの隊で、滅茶苦茶頼りになるよ。ちょっとそそっかしいけど、明るくてムードメーカーだしさ」
誠がそこまで言うと、別の少年が口を挟んだ。
「いや、心中お察しする。壮太の親戚がいるなら、さぞかし大変なんだろうさ」
少年はいかにも賢そうな顔立ちであるが、言葉とは裏腹に、態度にはあまり刺々しさが感じられない。
「俺は副官の嬉野晶。毎度毎度、勢いだけの壮太の尻拭いばかりしている」
「なんだとてめえっ」
「動かぬ事実だろうが」
そこで先ほどの着物姿の少女が割って入った。
「はいはいそこまで。ちなみに私は国東湯香里、以後よろしくね」
少女は壮太と晶の肩に手を置き、強引に2人の間に座り込んだ。
いかにも愛想のいい明るい表情であり、少し癖のある長い髪を後ろで結んでいる。
だが何より誠の目を引くのは、彼女が纏う撫子色の着物だった。
「ああ、この格好、凄くいいでしょ? 戦闘の貢献ポイントで作ったんだ。レプリカ布だけど、うちの旅館で仲居さんが着てたヤツを再現してるの」
湯香里は照れ臭そうに微笑み、にっと歯を見せながら続ける。
「いよいよこっちも正念場だし、決戦の時ぐらい、好きな格好でいたいからね。ほんとは日田下駄っていう、杉の木目が浮き出た下駄も履きたいんだけど、それやると操縦しにくいから我慢してるの」
彼女はそう言って、晴れ着を見せびらかすように手を広げる。
着物の袖が壮太の顔と晶のメガネを直撃したが、彼らは文句を言わなかった。
運転席後ろに位置する搭乗者待機部屋には、前方に作戦確認用のモニターがあり、両脇には布製ベンチが並んでいる。
後ろの壁には『ファイト九州!』と筆文字が書かれ、その周りに沢山の寄せ書きがあった。
鶴はさっそく筆を取り出し、『鶴姫参上』と書いていたし、コマもちゃっかり便乗して、『優秀なる狛犬のコマ』と記していた。
一同は輪になって床に座り、弁当型過熱式携帯糧食を食べながら自己紹介を行った。
「第5船団、高縄半島避難区所属の鳴瀬誠少尉です。その、勝手に侵入して申し訳ないというか……」
誠が言いにくい事を口にしかけると、鶴が笑顔で遮った。
「大丈夫よ黒鷹、人助けをしたから、そこはうまい事うやむやになるわ。はいコマの分、どんどん食べなさい」
コマにレーションを分けながら、鶴はさっさと自己紹介を引き継いだ。
「私は三島大祝家に生まれた大祝鶴姫、日本を守りに来た聖者なの。なかなかどうして高貴なんだけど、気さくな性格だから、鶴ちゃんって呼んでいいわ」
「僕は鶴の相棒かつお目付け役で、狛犬のコマ。よろしくね」
得意げに胸を張る鶴と、前足を上げて挨拶するコマを交互に見つめ、九州の面々は半信半疑で頷いている。
誠の隣には、日に焼けた小柄な少年が座っていた。
短髪で男らしい顔立ちであり、この601班の隊長なのだが、誠はなぜか仲良くなれそうな気がして仕方がなかった。
「俺は隊長の志布志壮太。典型的な薩摩隼人で、控えめに言って男の中の男だな。みんなを代表して礼を言うぜ!」
「あ、いや、どういたしまして」
誠は彼の差し出した手を握る。
活発そうな印象通りに力が強く、手には硬い竹刀ダコが感じられた。
壮太は上機嫌で話を続ける。
「それにしても、あんな簡単に火車をぶちのめすなんてなあ。そっちの姫は凄すぎてよく分かんねえけど、お前の操縦だって滅茶苦茶だぜ? 九州男児じゃないのに、こんなヤツがいるなんて信じらんないぜ」
「こら壮太、男は九州だけじゃないでしょ」
着物姿の少女がツッコミを入れたが、壮太はまだ粘り続ける。
「もしかして、実は九州男児なんじゃないか? どっちかの親がそうとか」
「い、いや、母さんは生粋の瀬戸内産だし、父さんは長野出身なんで……」
誠がたじろぎながら答えると、壮太は手を叩いて喜んだ。
「やっぱりな、長野なら真田の里だろ? 鹿児島にも真田幸村の墓があるし、だったら九州男児みたいなもんだぜ」
「何よその理屈……」
少女は額を押さえ、他の隊員達も苦笑していた。
鹿児島にある件の墓が、真田幸村のものだと証明されたわけではないが…………幸村が大阪から落ち延び、徳川と対立する島津氏に身を寄せたのなら、確かに理屈は通っている。
この第6船団の隊員達を見るに、幸村も楽しい余生だったんじゃないかな、と誠は思った。レーションに入っている蒸したサツマイモも、甘くてとても幸せな味だ。
壮太はそこで何かを思い出したらしく、腕組みして宙を見上げる。
「そういやあ、第5船団にも俺の従兄弟がいるはずだけど、元気にしてるかなあ? 歳は同じで、宮島武志っていうんだけど」
「あ、なるほど! それで仲良くなれそうな気がしたんだ」
誠はようやく合点がいった。
顔はあまり似ていないが、元気の塊みたいな所と、仲間思いの熱い気性はそっくりである。
「宮島はうちの隊で、滅茶苦茶頼りになるよ。ちょっとそそっかしいけど、明るくてムードメーカーだしさ」
誠がそこまで言うと、別の少年が口を挟んだ。
「いや、心中お察しする。壮太の親戚がいるなら、さぞかし大変なんだろうさ」
少年はいかにも賢そうな顔立ちであるが、言葉とは裏腹に、態度にはあまり刺々しさが感じられない。
「俺は副官の嬉野晶。毎度毎度、勢いだけの壮太の尻拭いばかりしている」
「なんだとてめえっ」
「動かぬ事実だろうが」
そこで先ほどの着物姿の少女が割って入った。
「はいはいそこまで。ちなみに私は国東湯香里、以後よろしくね」
少女は壮太と晶の肩に手を置き、強引に2人の間に座り込んだ。
いかにも愛想のいい明るい表情であり、少し癖のある長い髪を後ろで結んでいる。
だが何より誠の目を引くのは、彼女が纏う撫子色の着物だった。
「ああ、この格好、凄くいいでしょ? 戦闘の貢献ポイントで作ったんだ。レプリカ布だけど、うちの旅館で仲居さんが着てたヤツを再現してるの」
湯香里は照れ臭そうに微笑み、にっと歯を見せながら続ける。
「いよいよこっちも正念場だし、決戦の時ぐらい、好きな格好でいたいからね。ほんとは日田下駄っていう、杉の木目が浮き出た下駄も履きたいんだけど、それやると操縦しにくいから我慢してるの」
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