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第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編

考えたらいけない戦い2

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「こいつが火車……九州の上級餓霊か」

 炎を纏う巨体と対峙し、誠は感嘆の声を漏らした。

 画面に映る少年達が、誠を心配して呼びかけてくる。

「ヘイ、サムライボーイ、一人で火車の相手は危険だ。俺達も手を貸すさ……!」

「ヘンダーソンは下がってろ、バス庇って被弾しただろ。ここは隊長として壮太様が……!」

 恐らくみんないい人なのだろう、我先に加勢しようとしてくれるが、誠は首を横に振った。

「こっちは大丈夫、とにかく怪我人の救助を」

 誠の言葉に、現地の面々は目を丸くした。

「だ、大丈夫って、お前……!?」

 活発そうな少年が言いかけた途端、誠は機体を前に走らせた。

 火車は腕を掲げ、刃を斜め上から振り降ろしてくる。

 意識を集中すると、火車の動きが急激にスローに感じられたため、誠は相手の腕を観察した。

(武将級と違って、完全に人の手みたいになってる。こっちの方がハイレベルな餓霊なのか?)

 四国で戦った武将級餓霊の腕は、先端が太刀のように尖っていて、手先そのものが武器になっていた。

 だがこの火車の場合、手には数本の指があり、体とは独立した刀らしき物を持っているのだ。

 誠はぎりぎりまで観察し、直前で機体をしゃがませて攻撃をかわした。

 当たると思って振り抜いた火車は体勢を崩したが、無数の足で路面を踏み締め、何とか踏みとどまったようだ。

「あっ、今度はまずいわ!」

 誠の機体の画面上で、着物姿の少女が叫んだ。

「4本同時に斬ってくるの! 防御出来ないから逃げて!」

 少女の言葉通り、火車は4本の腕に握った刃を、左右から横薙ぎに振り降ろしてくる。

 刃はそれぞれ高さを変えており、丁度不ぞろいなハサミで挟むかのようだ。

(上段も下段もカバーしてる……こっちが避けても当たるようにか。人型重機の電磁シールドだと、片側しか防御出来ないって知ってるのかも。となると知能も高めなのか……)

 スローモーションで迫る刃をじろじろ観察する誠だったが、そろそろ攻撃が近付いてきた。

 誠は左から迫る一本を、こちらの強化刀で跳ね上げてみる。

 跳ね上げた刃が別の刃に当たり、どちらも誠の機体から離れる。

 同様に、右から2本の刃が迫るので、アサルトガンを刃に1発ずつ叩き込んで動きを止めた。

 刃は硬い音を立てて弾を弾き、びりびりと震えながら軋んでいる。

「え、ええええええっ!!?」

「それ当てるのかよっ!!?」

 画面上で一同が叫んでいるが、動揺は火車も同じようだった。

 今まで幾多の重機を屠ってきたであろう4段斬りを軽くいなされ、火車はじりじりと後ずさりした。

 誠は火車の周囲の磁場を観察し、相手の考えを読み取る。

(かなり動揺してる……でも逃げるつもりはない。動いて撹乱する気だな)

 誠はアサルトガンの設定を変更し、連射モードから単発モードに切り替える。

 1発1発の威力を高めた仕様により、攻撃力は跳ね上がるが、画面端に青い文字で『最大継続射撃数―6』と表示された。

「……6発か。たぶん、抜ける」

 誠はアサルトガンを火車に向けた。

 火車の周囲の電磁場が揺らぎ、向かって右に避けようとする映像ビジョンが、誠の頭に描き出される。

 誠は相手の動きに先回りして第1撃を発射。

 光弾が火車に炸裂し、赤い幾何学模様が輝いた。

 火車がそのまま進むので、誠は続いて第2射、第3射を当てていく。

 火車は焦って方向を変えたが、誠はそれも読んで攻撃を当て続ける。

「……4発……5発、やっぱり乱れた……!」

 5発目を当てると、火車の体を覆う赤い光の防御魔法は、ほとんど形を成さない程に乱れてしまった。

 次の1発で防御を射抜いて、火車本体に攻撃を命中させられる。

 だが誠が最後の1発を撃とうとした時、画面に警告表示が浮かび上がった。

電磁過負荷オーバーロード? いや、純粋に故障か」

 アサルトガンの属性添加機が故障したらしく、銃身から白い煙が立ちのぼっていた。

 誠が銃を足元に落とすと、画面で活発そうな少年が叫んだ。

「投げるぞ、俺のを使ってくれ!」

 人々を救助しながら、ちゃんとこちらも見てくれていたのだ。

 誠は飛んできたアサルトガンを受け取めるが、火車はその隙に誠と距離を取った。

 火車はやがて反転して停止。丁度誠に、自らの下半身たるバスの側面を向ける形である。



「……エネルギーを貯めてる。被災者ごと狙う気か……!」

 誠は火車の行動の意味を理解した。

 今の位置取りは、誠の後ろに横転した車両がある。九州の隊員達が懸命に救助を試みているが、まだ中には負傷者がいるのだ。

 火車はそれを分かった上で、大火力の攻撃で被災者ごと誠を狙おうとしている。

 やがてバス部分の窓から、牙の生えた無数の口が競り出て来た。

 口にはそれぞれ魔法陣のように、赤い幾何学模様が発生していく。

(弾を一気にバラ撒く気だ。エネルギー量からして、シールドじゃ防げないな)

 誠がそう考えていると、九州の隊員達が口々に叫んだ。

「危ねえぞっ、早く逃げろっ!」

 誠が避ければ自分達に当たる、それでもこちらを気にかけているのだ。

 攻撃が発射されても、彼らはきっと逃げないだろう。怪我人を残したまま回避なんて絶対しない。

 それを全部分かった上で、目の前の火車は攻撃を仕掛けているのだ。

 火車は運転席部分の巨大な口を、そして人型の頭に備わる口をも歪め、確かにこちらを嘲笑っていた。

 画面で叫ぶ少年達の声を聞きながら、誠は小さく呟いた。

「…………九州こっち餓霊てきは知らないから、慎重にやりたかったけど」

 我知らず強い力で操作レバーを握り、眼前の火車を睨み付ける。

「流石にちょっと、腹が立つな……!!!」

 誠は銃の属性添加機を稼働させ、連射モードに設定した。

 刹那、無数の炎弾が殺到するが、誠が意識を集中すると、それは急速にスローモーションになっていく。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、こちらの放った弾丸が、迫る火球をことごとく破裂させていた。

 秒間数十発を放つアサルトガンの連射である。当てる事さえ出来るなら、餓霊の火弾に撃ち負けるわけがない。

「うそ…………じょ、冗談でしょ……???」

「ジーザス、あれを撃ち落としたのか……???」

 一瞬、その場の空気が固まる。

 火車は炎弾に全エネルギーを集中させたのだろう。体を覆う電磁場は、著しく弱くなっていた。

 火車は逃げようと方向転換するが、それを許す誠ではない。

 大地を蹴って跳躍すると、火車の人型の上半身を、横一文字に斬って捨てた。

 地響きをあげて落下した火車の半身は、何か言いたげに口を動かしたが……やがて力尽き、どろどろと溶け崩れていった。

 バスに宿った下半身も同様であり、車内から青紫の液体が流れ出ていく。

 次の瞬間、物凄い大声が誠の耳に飛び込んでくる。

「うわあああっ、お前すげえな、何者だよ!?」

「単機で火車を倒すとか、絶対頭おかしいわよ!?」

「壮太以上のバカはいないと思ってたが、大したもんだ!」

「東洋の神秘デース!」

「きっとサムライかニンジャだ、そうだろ!?」

 いっぺんに言われてたじろぐ誠だったが、いつの間に気付いたのか、後ろの補助席の少女が誠を掴み、興奮して揺さぶってくる。

「でででも実際っ、ほほほんとにほんとに、凄いんですっ!!!」

「うぐっ、ちょ、ちょっとみんな落ち着いて……!」

 激しい振動に苦しみながら、誠はなんとか一同に告げる。

「か、火車は、火車はもう一体いるから……!」

 誠の言葉に、一同がはっとして動きを止めた。

 誠は咳き込みながら、なんとか機体を振り返らせる。

「ヒメ子もこっちに来たばっかで本調子じゃないんだ。さすがに苦戦してるから……」

 だが振り返った誠の目には、危険な光景が映し出されていた。

 コマが前足で踏んづけているのは、他ならぬもう一体の火車である。

 人型の上半身を踏まれた火車は動く事が出来ず、その眼前に立つ鶴が、ばんばんビンタをお見舞いしていた。

 物凄い霊力を込めた大威力のビンタに、火車は悲鳴を上げて苦しんでいる。

 あっ、これも考えたらいけないやつだ、と思い、誠は慌てて皆に言った。

「……み、みんな、あれは見なかった事に」

「お、おう……そうだな」

 九州の隊員達も、ドン引きした様子で頷いた。

 鶴はひとしきり火車をボコボコにした後、とどめをさして戻ってきた。

「ふう、満足よ。たっぷりお仕置きしてからやっつけてやったわ」

「相変わらずひどいな……ってかそれより、早く避難を続けよう」

 誠の言葉に、一同は怪我人の救助と手当てを急いだ。
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