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第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編
冥界から来た火の車2
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「よおしっ、このまま叩き込め!!!」
だが壮太が叫んだその時、火車は急減速し、こちらとの距離を離した。
そのままアスファルトの破片を巻き上げながら、左右に蛇行し始める。
単発モードに切り替えた弾丸は追い切れず、攻撃は闇に吸い込まれるばかりだ。
その間に火車の防御魔法は回復し、強い輝きを取り戻したのだ。
壮太は悔しげに顔を歪めた。
「くそっ、単発じゃ当たらねえ!」
「でも連射だと止まらないでしょ!」
湯香里がそう怒鳴り返すが、彼女の機体のアサルトガンは、銃身基部の属性添加機が光を弱め、明滅している。
出力を上げた単発モードの射撃は、最大で6発の射撃が限度。その後は属性添加機を冷却する必要があるのだ。
やがて隊員達の機体は、次々射撃不能に陥っていく。
射撃がやんだ途端、火車の上半身に見える口が、笑ったように歪められた。
(……こいつ、知ってて撃たせてたのか……!!?)
流石の壮太も背筋が寒くなった。
いかにも効いているふりをして攻撃を誘い、こちらの属性添加機が電磁過負荷を起こすのを待っていたのだ。
この火車、餓霊の中ではズバ抜けて狡猾で、高い知能を持つと聞いていたが……まさかこれほどとは……!
やがて火車は道を外れ、横手の歩道を踏み砕いた。そのまま急激に加速すると、一同の車両の横に並んだ。
…………そう、『並ばれてしまった』のだ。
そこから先は一瞬のはずだが、時間がやけにゆっくりと流れた。
バスの割れ窓……そこに蠢く青紫の肉に、沢山の丸い物が浮き出てくる。一個一個はソフトボール程だろうか。
どの窓にも同じ物が盛り上がると、それぞれに一本の筋が走った。筋は亀裂となって開くと、牙の生えた口となったのだ。
まるで目のない深海魚が殺到し、こちらにかぶりつこうとするかのようなおぞましい光景。
壮太は咄嗟に機体を操作し、荷台の投擲地雷を掴んだ。
この距離では味方も危険であるが、今はこれしか方法が無い。
倒せなくても、バスの人々が避難する時間ぐらいは稼げるはずだ。
だが壮太が地雷を投げようとした時、割れ窓から更に何かが伸びてきた。
それは無数の人の手だった。
手はもがくようにこちらに伸ばされ、確かに人の言葉が聞こえた。そう、『助けてくれ』と聞こえたのだ。
伸ばされた手のうち、小さな子供のような1本が、弱々しく痙攣している。
「……っ!!!」
壮太は無意識に機体の動きを止めた。中に子供がいるなら、こんな攻撃なんて出来ない。
地雷が手から外れ落ち、後方の闇に吸い込まれていく。
次の瞬間、火車が宿した無数の口に、赤い幾何学模様が発生していた。
「…………っ!!!」
壮太は咄嗟に何かを口走った。
恐らく隊員達に、防御を指示したのだと思う。長い戦いの経験から、無意識の言葉が出たのだ。
いつの間に操作していたのか、機体の属性添加機がフル稼働し、青い防御の光が展開していた。
輸送車両も同様に、強固な電磁シールドを発生させる。
やがて火車を覆う炎が一際強く燃え上がり、轟くような咆哮が聞こえた。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、物凄い光が眼前を染め上げ、壮太達は吹き飛ばされていた。
超高温かつ、粘度を持った高重量の炎弾が、無数に殺到してきたのだ。
「ぐうっっっ!!!」
激しく何かに叩きつけられ、ともすれば意識が飛びそうになるが、壮太は必死に機体を起こした。
眼前の光景は、まさに地獄絵図である。
燃え上がる輸送車両、爆風で横転した避難バス。
崩れた粘弾は溶岩流のように路面を覆い、その合間に大人も子供も、沢山の人が倒れている。
隊員達の機体も必死に起き上がろうとしているが、その向こうに火車の巨体が見えた。
火車は人型の上半身の口を、そして車両前方の巨大な口をも開き、再び大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びなのか。
それともこの後繰り広げられる、食人の宴への歓喜なのか。
程なく道路を踏み締めて、他の餓霊達も追いついて来た。
「…………っ!!!」
壮太の脳裏に、幾度も見た凄惨な光景が思い出される。
敗北した仲間達が、逃げ遅れた人々が、巨大な活動死体どもに生きたまま喰われるあの光景だ。
何度思い出しても震えが来る。手の平に汗がじっとりと汗が滲む。
だが壮太は、無理やりその手で操作レバーを握り締めた。
「……こんぐらいで、負けてたまるかっ……!」
湯香里も、晶も、八千穂もキャシーもヘンダーソンも、そして避難してきた人々も。今は自分しか守れる者がいないのだ。
壮太は腹に力を入れて、眼前の殺戮者どもに叫んだ。
「九州男子を、舐めんじゃねえっっっ!!!!!」
だが壮太が叫んだその時、火車は急減速し、こちらとの距離を離した。
そのままアスファルトの破片を巻き上げながら、左右に蛇行し始める。
単発モードに切り替えた弾丸は追い切れず、攻撃は闇に吸い込まれるばかりだ。
その間に火車の防御魔法は回復し、強い輝きを取り戻したのだ。
壮太は悔しげに顔を歪めた。
「くそっ、単発じゃ当たらねえ!」
「でも連射だと止まらないでしょ!」
湯香里がそう怒鳴り返すが、彼女の機体のアサルトガンは、銃身基部の属性添加機が光を弱め、明滅している。
出力を上げた単発モードの射撃は、最大で6発の射撃が限度。その後は属性添加機を冷却する必要があるのだ。
やがて隊員達の機体は、次々射撃不能に陥っていく。
射撃がやんだ途端、火車の上半身に見える口が、笑ったように歪められた。
(……こいつ、知ってて撃たせてたのか……!!?)
流石の壮太も背筋が寒くなった。
いかにも効いているふりをして攻撃を誘い、こちらの属性添加機が電磁過負荷を起こすのを待っていたのだ。
この火車、餓霊の中ではズバ抜けて狡猾で、高い知能を持つと聞いていたが……まさかこれほどとは……!
やがて火車は道を外れ、横手の歩道を踏み砕いた。そのまま急激に加速すると、一同の車両の横に並んだ。
…………そう、『並ばれてしまった』のだ。
そこから先は一瞬のはずだが、時間がやけにゆっくりと流れた。
バスの割れ窓……そこに蠢く青紫の肉に、沢山の丸い物が浮き出てくる。一個一個はソフトボール程だろうか。
どの窓にも同じ物が盛り上がると、それぞれに一本の筋が走った。筋は亀裂となって開くと、牙の生えた口となったのだ。
まるで目のない深海魚が殺到し、こちらにかぶりつこうとするかのようなおぞましい光景。
壮太は咄嗟に機体を操作し、荷台の投擲地雷を掴んだ。
この距離では味方も危険であるが、今はこれしか方法が無い。
倒せなくても、バスの人々が避難する時間ぐらいは稼げるはずだ。
だが壮太が地雷を投げようとした時、割れ窓から更に何かが伸びてきた。
それは無数の人の手だった。
手はもがくようにこちらに伸ばされ、確かに人の言葉が聞こえた。そう、『助けてくれ』と聞こえたのだ。
伸ばされた手のうち、小さな子供のような1本が、弱々しく痙攣している。
「……っ!!!」
壮太は無意識に機体の動きを止めた。中に子供がいるなら、こんな攻撃なんて出来ない。
地雷が手から外れ落ち、後方の闇に吸い込まれていく。
次の瞬間、火車が宿した無数の口に、赤い幾何学模様が発生していた。
「…………っ!!!」
壮太は咄嗟に何かを口走った。
恐らく隊員達に、防御を指示したのだと思う。長い戦いの経験から、無意識の言葉が出たのだ。
いつの間に操作していたのか、機体の属性添加機がフル稼働し、青い防御の光が展開していた。
輸送車両も同様に、強固な電磁シールドを発生させる。
やがて火車を覆う炎が一際強く燃え上がり、轟くような咆哮が聞こえた。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、物凄い光が眼前を染め上げ、壮太達は吹き飛ばされていた。
超高温かつ、粘度を持った高重量の炎弾が、無数に殺到してきたのだ。
「ぐうっっっ!!!」
激しく何かに叩きつけられ、ともすれば意識が飛びそうになるが、壮太は必死に機体を起こした。
眼前の光景は、まさに地獄絵図である。
燃え上がる輸送車両、爆風で横転した避難バス。
崩れた粘弾は溶岩流のように路面を覆い、その合間に大人も子供も、沢山の人が倒れている。
隊員達の機体も必死に起き上がろうとしているが、その向こうに火車の巨体が見えた。
火車は人型の上半身の口を、そして車両前方の巨大な口をも開き、再び大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びなのか。
それともこの後繰り広げられる、食人の宴への歓喜なのか。
程なく道路を踏み締めて、他の餓霊達も追いついて来た。
「…………っ!!!」
壮太の脳裏に、幾度も見た凄惨な光景が思い出される。
敗北した仲間達が、逃げ遅れた人々が、巨大な活動死体どもに生きたまま喰われるあの光景だ。
何度思い出しても震えが来る。手の平に汗がじっとりと汗が滲む。
だが壮太は、無理やりその手で操作レバーを握り締めた。
「……こんぐらいで、負けてたまるかっ……!」
湯香里も、晶も、八千穂もキャシーもヘンダーソンも、そして避難してきた人々も。今は自分しか守れる者がいないのだ。
壮太は腹に力を入れて、眼前の殺戮者どもに叫んだ。
「九州男子を、舐めんじゃねえっっっ!!!!!」
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