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第二章その2 ~助けに来たわ!~ 怒涛の宮崎撤退編

志布志隊の奮戦1

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 がたつく路面を、車列が飛ぶように駆けていく。

 頭上の殆どは暗雲に覆われていたが、微かな雲の切れ間から、弱々しく末期まつごの光が差し込んでいた。

 場所は旧宮崎県の東岸であり、もう少し南に進めば、かの有名なドライブコース、日南フェニックスロードが見えるだろう。

 平和な時代ならば、人々は道端に並ぶヤシの木を眺めながら、どこまでも続く南国の風景を楽しんだはずだ。

 でもそれは、遠い昔に失われた日々の光景なのだ。

(……ほんとに現実なのかよ……?)

 輸送車の屋根なしの荷台……そこに後ろ向きに座した人型重機の操縦席で、志布志壮太しぶしそうたは考えた。

 これが本当に、あの懐かしい故郷・九州の姿なのだろうか?

 壮太はかつて夢中でやったRPGロールプレイングゲームを思い出した。

 魔王が復活した世界は、こんなふうに暗雲が頭上の殆どを覆っていた。幼い壮太は『世界が完全に闇に閉ざされる前に、自分が魔王を倒さなければ』と意気込んだものだ。

 平和な時代なら高校に通っている歳であるものの、自分の中身はあの頃と大差ないように思える。

 年齢の割に小柄な背丈は、幼少から師範にしこたま面を打たれてきたせいなのか。

 だがその師範は、どんなに泣いて頼んでも、二度と稽古をつけてくれないのだ。

「……壮太、機体はどう? 添加機はまだ動く?」

 やがて音声通信が飛び込んできた。

 壮太の重機の傍らに座した、もう一機の人型重機からである。

 荷台の属性添加式防護板エレメンタル・ガードプレートの凹みに銃をはめ込み、油断なく後ろを睨むこの重機には、壮太の幼馴染が乗っているのだ。

「ちょっと壮太、ちゃんと聞いてる? ぼーっとしてたら、また地獄巡りお見舞いするわよ?」

 しびれを切らしたのか、壮太の機体の画面上に、同年代の少女が映し出された。

 いかにもしっかり者そうな顔立ちで、少し癖のある髪を、さっぱりと後ろで結んでいる。

 名は国東湯香里くにさきゆかり。某温泉県の出身であり、レプリカ布ではあるものの、旅館の仲居のような着物姿だ。

 お世辞にもパイロットスーツとは呼べないが、死ぬ時ぐらい自分の好きな格好でいたいだろうと思った壮太が、隊長権限で許可しているのだ。

 壮太は少し呼吸を整え、努めて能天気な語気で答えた。

「ようユーカリ、何か用か?」

「あたしゃコアラかっ! ほんとに緊張感ないわね、この剣道バカっ!」

 湯香里は一瞬で沸点に達し、顔を真っ赤にして叫んでいる。

「……あ、あの、壮太くん、具合が悪いの……?」

「いや八千穂、壮太が悪いのは頭だが、それはいつもの事だからな」

 通信画面が分割され、更に2人の顔が映し出された。

 一人は髪を長く伸ばした大人しそうな少女で、青島八千穂あおしまやちほ

 もう一人はメガネをかけて冷静そうな……悪く言えば堅物な印象のある少年で、嬉野晶うれしのあきらだ。

 壮太は湯香里の時と同じく、わざとからかって隊員の調子を確かめてみる。

「おう、ちほに嬉しーの、お前らこそ無事か?」

「嬉しーのじゃない、嬉野うれしのだ! 能天気なあだ名を付けるな!」

 あきらは即座に言い返したが、日本人形のような八千穂は、おろおろしながら訂正してくる。

「……そ、壮太くん、ちほじゃなくて八千穂なの。忘れないでね」

 困った時の彼女の癖で、眉が『八』の字になっているので、ちほと呼んでも結局は八千穂なのだ。

 2人とも、今のところケガも異常もなさそうである。

 あとの2人のからかい方を考えていると、画面に彼らが映し出された。

 1人は元気を濃縮したような笑顔を浮かべ、金髪を高く結んだ外国風の少女で、名はキャシー。少しそばかすが目立ち、星条旗のタンクトップに豊かな胸を包んでいる。

 もう1人はいかにも温厚で賢そうな少年で、アフリカ系アメリカンの系譜たるヘンダーソン。画面では分からないが、がっしりとした長身で、世が世ならハリウッド映画にも出れそうな男前であった。

 2人とも沖縄の海兵隊基地マリーンベースに勤める父と、日本人の母の間に生まれたハーフである。

 キャシーは明るくウインクして、壮太に語りかけてくる。

「ヘイソータ、珍しく元気なさそうデスね?」

「そりゃそうだキャシー、ずっと最後尾で連戦なんだ。どんなタフガイでも疲れは溜まるさ。なあソータ?」

 ヘンダーソンはそう気を遣ってくれる。

 隊員達の人型重機は、それぞれ2機ずつが輸送車両の荷台に乗り込み、避難する車列の最後尾で警戒を続けているのだ。

 このまま海沿いの道を南下し、宮崎自動車道に入れば、鹿児島までは高速道路を逃げる事が出来る。

 壮太にも疲れはあるものの、あと少しの辛抱なのだ。

 壮太は大きく息を吸い込むと、力強く言い返した。

「やいやいお前ら、黙って聞いてりゃ、この俺が元気ないだと? この男・志布志壮太にかかりゃあ、餓霊なんてボッコボコのギッタンギッタン、あっと言う間に大勝利だぜ!」

「……ったく、調子がいいんだから……あの親戚とそっくりだわ」

 湯香里が呆れて額を押さえているが、キャシーは事のほか喜んだ。

「そーデス、それでこそ私達のソータデース!」

 だがキャシーがナイロン製のポンポンを取り出し、チアガールのように振り上げたその時だった。

 辺りに物凄い咆哮が響き渡ったのだ。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 隊員達に一気に緊張が走った。

 やがて彼方の暗闇に、赤い光がちらついた。

 光は幾度か消えたり現れたりを繰り返した。路面の高低差やカーブの影響だろう。

 だがしばらく経つと、光はどう願っても消えなくなった。

 基本的に緩やかな道だから、敵が近付くと、カーブぐらいでは光が遮断されないのである。

 壮太は機体を戦闘起動バトルモードに切り替えながら、隊員達に伝える。

「ようし、志布志隊全機、戦闘起動! ここが正念場だ、俺らが抜かれたら、バスのみんなが喰われちまう。一匹も撃ち漏らすなよ!」

 日南にちなん方面防衛隊所属の、第601混成部隊……通称『志布志隊』は、この日何度目かも分からない戦闘を開始した。

 鹿児島へと逃げる人々を守り、九州最後の希望の灯を消さないためにだ。
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