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第二章その1 ~九州が大変よ!?~ いよいよ助けに行きます編

サブマリンクエスト

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 潜水艇のラジコンは、どんどん船内を進んでいく。

 簡素な鉄階段を下ると、真っ直ぐな長い通路に出た。

 恐らくこの辺りが上級仕官の居住区だろう。所々に並ぶドアは、木目が美しい茶褐色の化粧合板つきいたである。

 そこで鶴が声を上げた。

「あっ、横の部屋が開いてるわ」

「横の部屋?」

 誠が画面を注視すると、右手のドアが半開きになっている。

 ドアには真鍮しんちゅうで作られた、円の中に十が入ったマークが輝いている。

「島津紋じゃないか……ってことは……」

 カメラが拡大ズームすると、室内の椅子に腰掛ける大柄な人物が見える。

 歳は50代半ばぐらいだろう。

 白髪の多い頭髪を、茶筅髷ちゃせんまげのように頭上で束ね、ド派手な着物を身に付けている。

 今は目を閉じているものの、太い眉やヒゲは力強く、組んだ腕には筋肉が隆起していた。

「凄い、船団長の島津さんだ!」

「まあ、さっきのガンコおじさんね」

 潜水艇はすーい、と部屋に入ると、眠る島津の傍に寄った。

 間近で見ると、島津はかなり疲れているようで、目の下には色濃いくまがあるのだ。

「よく眠っているわ」

 鶴は更に潜水艇を近づけ、機械腕マニピュレーターをニュッと伸ばす。

「つねってみましょう」

「何でだよ!」

 誠は思わずツッコミを入れたが、機械腕マニピュレーターは島津をつねらず、ずり落ちたひざ掛けをかけ直しただけだった。

「冗談よ黒鷹。この人は置いといて、あの女の人を調べなきゃね」

 潜水艇は廊下に出ると、再び霊気を辿っていく。

 青い霊気の線は、しばらく廊下を真っ直ぐに進み、右手にある一室へと吸い込まれていた。

「ここがあの人の部屋ね。あっ、机の上に手紙があるわ」

 鶴の言葉通り、執務机にはうず高く手紙が積み重なっている。

 簡素で無骨な室内は装飾に乏しく、あの強気な女傑じょけつの印象にぴったりだった。

「手がかり、手がかりっと……」

 鶴はそう言って調べ始めたが、天井から戸棚まで見渡しても、これと言って趣味の類は見つからない。

「困ったわ。何か好きなものでも分かれば、気さくに話を合わせるんだけど」

 鶴は調子に乗って執務机の引き出しまで開け始めたが、そこでカギのかかっている引き出しを発見した。

「こういう所に大事なヒントがあるものよ。神器の透け透けライトを使うわね」

 潜水艇はそこでライトを照射する。

 するとたちまち引き出しが透き通り、中の様子が見られるようになった。

 物が重なり合っていてよく見えないが、一番奥に何か光るものが見える。

 鶴が映像を拡大すると、それはキーホルダーのようだった。金具に繋がっているのは、何やらカラフルな丸っこいマスコット人形である。

 ディフォメされた卵型の体型で、一見して鳥を模した姿。

 つぶらな瞳とくちばし、翼は元気良く広げられ、長い髪がなびいている……が、良く見ると下半身は魚のようになっていた。

「ねえ鶴、これ、さっき言ってた妖怪アマビエだよ」

 コマが鶴の頬を前足でつついて言った。

「確か二十年ぐらい前、たちの悪い風邪が流行して、この妖怪のグッズを持つのが流行ったんだ。お守りになるし、見た目も可愛いからってさ」

「なるほど、見かけによらず可愛いものが好きなのね。他に手がかりはないかしら」

 鶴が更に引き出しの中を観察すると、皺だらけの紙が見つかった。

 随分古く、くしゃくしゃになっているその紙片を見た時、誠は思わず息を飲んだ。

「こ、これって……黄金のチケットだ……!」

「黄金のチケット?」

 鶴は不思議そうに首を傾げる。

「ああ。あの高千穂研究所の、公開イベントの入場券だ。限られた人数しか入れなかったから、当時はとんでもない倍率だったんだよ」

 誠は考えながらそう答えた。

「あんな事件が起きたわけだし、普通は忘れたいと思うはずだけどな……」

「ふーむ、どうもこの引き出しには、大事なヒントが多そうよ。カギをこじあけて、詳しく調べてみましょう」

 鶴がそう言うと、潜水艇から鋭いドリルが伸びたので、コマが慌ててツッコミを入れた。

「いやちょっと鶴、物を壊すのは流石にまずいよ」

「平気よコマ、形あるものはいつか壊れるわ」

「でもそれは今じゃないだろっ」

 もめる鶴とコマだったが、その時モニターに衝撃が走った。

 横手から炎のようなものがよぎったかと思うと、唐突に映像が途切れたのだ。

「あっ、肝心な所で!」

 鶴がスローで映像を再生すると、炎に混じって、潜水艇の細かな破片が飛び散っている。

「おかしいわね。力加減を間違えて、ドリルが爆発したのかしら」

 鶴は首を傾げているが、誠が振り返ると、柱に縛られた美濃木が小刻みに震えている。

 誠は彼のさるぐつわとロープを解いたが、美濃木は四つんばいになって、敗退した甲子園球児のように男泣きした。

 後ろで神使達が、『どっきり大成功』『こっちが本物やで』と書いた看板を持ち、潜水艇を掲げているので、どうやら壊れたのは霊力で作った複製品レプリカらしかった。

 だが鶴はそこで痺れを切らし、高らかに言い放つ。

「ええいじれったい、もうどうこう言っていられないわ! こうなったら力ずくで……」

「力ずくで、どうした」

「ひっ!?」

 鶴が振り返ると、そこには女神・岩凪姫と佐久夜姫の姉妹が立っていたのだ。

 鶴は冷や汗をかきながら後ずさる。

「……な、ナギっぺ、いつから見てたの?」

 女神はジト目で鶴を見下ろしながら答える。

「少しゴタゴタしていたが、今戻ったところだ。それで、ちゃんと務めを果たしていたか?」

 鶴は物凄い速度で頷きながら、肩に乗るコマに話を振った。

「モチロンもちろん、ずっと頑張っていたわ。ねえコマ?」

「ほんとにほんとに、よくそんな事を言うもんだね」

 コマはとことん呆れ果てるが、女神は珍しく鶴への追求を止めた。

「まあ今回はいいだろう。それより今は、取り急ぎ九州を何とかせねばならん」

 女神の真剣な表情に、鶴も誠も頷いたのだ。
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