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第二章その1 ~九州が大変よ!?~ いよいよ助けに行きます編

落ち武者香川

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「雪菜さんが行っちゃったから、もっちゃんの悩み相談はまた今度ね」

 鶴は腰に手を当て、残念そうにそう言った。

 神使達は名残惜しそうに手を振り、再び霊界の仕事場へと戻っていく。

 カノンはぐったりして机に突っ伏しているが、鶴はそんな事は気にもかけず、腰に手を当てて一同に尋ねる。

「折角だから、他に悩みのある人はいないかしら。宮ちゃんは?」

 唐突な振りに、宮島は困って思案している。

「えっ俺か? うーん、困ったな、悩み事かあ……」

「いや、それを悩むんかい」

 難波がビシ、と手でツッコミを入れるが、不意に香川が声を上げた。

「そんじゃあお姫さん、俺の頭を脱毛してもらえないかな」

 一同が香川を見ると、彼は片手で後頭部を撫でながら、もう片方の手で拝むようなポーズをしている。

 仏門の家系である彼は、今朝も頭を剃っていたのだが、既に頭皮はざらざらしていた。

 環境変化の影響を受け、髪色が変わった少年少女も数多いが、彼は毛根が著しく活性化し、毎日恐ろしい量の毛が伸びるのである。

 放っておくと半日でウニかパックロッカーのようになり、仏僧とは正反対の見た目になるのだ。

「毎日うどんを食ってるせいか、どんどん伸びるの早くなってね。何度も剃るのが大変なんだよ」

「ふむふむ、がわちんはお寺の子だものね。いいわよ、私がやってあげる」

 鶴は即座に快諾し、得意げに鎧の胸を叩いた。

「私に任せれば、どんなヘヤァスタイルも望みのままよ。それじゃ早速、そこになおって」

 鶴は上機嫌で椅子に香川を座らせ、『カットハウスつるちゃん』の前掛けを付けさせる。

 そのまま目を閉じて手をかざすと、鶴はむにゃむにゃ呪文を唱えた。

 香川の頭が丸いので、どことなく水晶玉と占い師のような絵面である。

「ヒメ子、目を閉じないと出来ないのか?」

 誠が尋ねると、鶴は目を閉じたまま答えた。

「敵なら適当に丸焼きにすればいいんだけど、人は手加減がいるから集中するのよ」

 そこでコマが鶴の肩に飛び乗った。

「たまにはいい事言うじゃないか。そうそう、普段から僕を見習って集中力を養うんだ」

「コマを見習う? あっ!」

 その瞬間、鶴の手から光が放たれ、香川の頭に直撃した。

 香川の顔は瞬く間に長い毛に覆われ、ライオンのたてがみのようになった。

「しまったわ、コマの事考えてたら、モップみたいになっちゃった」

 笑い転げる難波をよそに、香川は恐る恐る頭に手をやった。

「おわーっ、こ、これは……!」

「とにかく剃ってみようよ」

 コマが剃刀かみそりを持って香川に飛び乗り、手早く毛を剃り落とすが、剃っても剃ってもどんどん毛が伸びていく。

「こりゃ剃るのは無理だね。セットしてみよう」

 コマがブラシで香川の毛をとかすと、今度は犬のヨークシャーテリアのように、長いサラサラヘアが足元まで垂れた。

「あかん、あかんて、うちを殺す気やな!」

 難波は転がりながら手で地面を叩いている。

 コマはブラッシングしながら鶴に言った。

「駄目だ鶴、これじゃ妖怪アマビエだよ」

「アマビエって何よコマ」

「昔熊本の海に出たっていう、サラサラヘアーの妖怪だよ。疫病を治してくれるんだけど……ともかく毛を抜かなきゃどうにもならないね」

 コマの言葉に、鶴は再び気合を入れた。

「分かってるわ、今度こそうまくやるから」

まゆ睫毛まつげは抜いちゃだめだよ?」

「そこは平気よ。でも念のためがわちん、目は閉じておいてね」

「承知した」

 香川は大人しく目を閉じている。

 鶴は再び手の平に光を集めるが、その時宮島が呟いた。

「妖怪かあ。そう言えば、俺のじいちゃんが岩手で河童見たとか言ってたなあ」

「まあ、河童?」

 鶴が返事をした途端、発射された光は香川の頭を直撃。

 頭頂部はたちまち河童のような……いや、多少力加減を間違ったのか、額の辺りまで焼け野原になった。

 香川は何も知らず、大人しく目を閉じている。

「は、はわわわ……」

 鶴は青ざめて囁いた。

「どうしようコマ、河童どころか、落ち武者みたいになっちゃったわ」

「で、でも治るんだよね? 抜けたところを伸ばせば……」

 コマが尋ねると、鶴は悲しげに首を振った。

「力加減を間違っちゃって、どうにもこうにもならないのよ。抜けた所は一年ぐらい生えてこないし、他のとこだって、そんな何回もやったら頭の皮が死んじゃうわ」

 香川はまだ目を閉じていたが、たまりかねて催促してきた。

「お姫さん、まだかな? そろそろ目を開けても……」

「まだよ!」

 鶴は反射的に叫んだ。

 誠は見かねて鶴に耳打ちする。

「ヒメ子、一年経てば治るのか?」

「多分ね」

 そこで香川がまた口を開いた。

「お姫さん、そろそろ……」

「まだよ!」

 鶴は怒鳴り返したが、そこで誠の通信端末に連絡が入った。

 見ると、画面には緊急の召集サインが表示されている。

 集合先は、最近新設された大三島おおみしまの国防対策センターである。

「俺とヒメ子に召集か。防対センターに直だなんて、ただ事じゃ無いぞ」

「きっと大事な用よ! 急いでいきましょう!」

 鶴はがぜんやる気を見せ、誠にぐいぐい詰め寄ってくる。

 香川も納得したらしく、目を開けて頭に手をやった。

「そういう事ならしょうがないな。しばらくはこの長髪で……」

 香川の言葉が終わるか終わらないかのうちに、鶴は誠の手を取り、全速力で駆け出していた。

「あっおい、ヒメ子!」

 誠が走りながら後ろを確認すると、香川が髪を振り乱して叫んでいる。

 難波と宮島が地面で笑い転げ、カノンはまだ机でぐったりしていた。

「すまん香川、強く生きろ!」

 誠達は光に包まれ、そのまま虚空へと消えたのだ。
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