9 / 90
~プロローグ~ 動き出す闇の一族
再戦の約束。一方的過ぎるけど
しおりを挟む
「鬼神族一の勇者剛角っ、ただいま参上じゃあっ!」
新手の鎧は跳躍し、一同の前に着地したのだが。
『………………えっ???』
一瞬、誰もが目を疑った。
彼はよりによって人間側の、香川やカノンの傍に立っていたからである。
もう1体の鎧がたまらず怒鳴った。
「剛角のどアホっ! そっちは敵じゃ!」
「うおおっ、ほんとじゃ、間違えたぁっ!?」
剛角と呼ばれた鎧は、慌てて立ち位置を移動させた。それから腕組みし、しきりに首を傾げている。
「……お、おかしいのお、なーんで間違えたんじゃろうのお……???」
「知るか、この単細胞っ! ていうか姫さん、殲滅呪詛はあかんじゃろ!」
斧を持った鎧は、そう言いつつ燃え上がる仲間に駆け寄った。
「しめた剛角、まだ術が浅い! 今なら戻せるぞ!」
「ほんとか紫蓮、助けを呼ぼう! 医者はどこだ!?」
金棒を持つ鎧は、慌ててぐるぐる駆け回っている。
誠達は呆然とその様を眺めていたが、不意に鶴が呟いた。
「なんか気が抜けたわね。ここらで退却しましょうか」
「せ、せやな、トドメさすと呪いもらうんやろ?」
「そーだぜ、敵の作戦も阻止したしな」
「同感だ、ひとまずお暇させて貰おう」
隊員も口々に同意したため、誠達はそそくさと退却を始めた。亀に飛び乗ると、そのまま陸を後にするのだ。
「ごめんね、また今度戦いましょう」
鶴が胸の前で手を合わせると、燃え上がる鎧を光が包んだ。鎧から立ち昇る禍々しい炎は、少し勢いを弱めたようである。
コマは不満げに口を尖らせた。
「ねえ鶴、なんで治してあげたのさ」
「……知らないけど、なんとなくそんな気になったのよ」
鶴は腕組みし、自分を納得させるようにそう言った。
「逆恨みで呪われても知らないよ。あの手の相手は執念深いんだから」
「その時はまたコテンパンにするわ。それにあれだけ焼かれたんだもの、当分は戦えないわよ」
鶴の言葉に、画面で難波が肩を竦めた。
「……当分って事は、そのうち復活するんやな。うちはパス、次は最初っから鳴っちがやりや」
「いや、俺だってヒメ子がいなきゃ、あんな相手近づけないし」
だがそこで後ろから大声が響いた。
あの剛角と呼ばれた鎧が、こちらに向かって怒鳴っているのだ。
「こら待ててめえらっ、わしとの決着はどうするんじゃあっ!」
相手は飛び上がって怒っているが、流石に自力では海を渡れないようだ。
しばし地団駄を踏む鎧だったが、やがて右手を掲げると、こちらに何かをぶん投げたのだ。
「何だ……?」
誠はモニターに目を凝らした。
弧を描き、きらきら輝く『何か』は、ぐんぐんこちらに近付いて来る。
誠は無意識に機体を操作し、片手でそれを受け止めていた。
「受けたな、ちゃんと覚えてろよ! 次こそは必ず……」
声は波音に掻き消され、次第に聞こえなくなってしまった。
「あいつ、何を寄越したんだ?」
誠はそっと機体の手を開いた。現れたのは、直径5センチぐらいの珠である。宝石のように透き通っており、全体がぼんやりと青紫に光っていた。
「罠でもない、発信機でも無さそうだけど……」
誠が不思議がっていると、コマが肩に飛び乗ってきた。
「あーあ、厄介な物を受け取ったね。あれって約定珠だよ」
「約定珠?」
「鬼が魔力を固めた結晶さ。必ず再戦するから、次会う時まで持っておけ……要するに果たし状だね」
「うっ、無視しとけば良かったな……」
誠はそう言いつつも、内心かなり複雑だった。
以前から少しずつ胸に積み重なってきた疑問は、もう放置出来ないレベルに膨れ上がっていたのだ。
餓霊とは、魔界から湧き出た悪霊ども……かつて女神はそう言った。地の底に封じられていた邪悪な魂が溢れ出し、大地のエネルギーを利用して実体化したものだと。
だったらあの鎧達は何なのだ?
彼らは明らかに餓霊とは異なる存在である。
はっきりした意思や感情を持ち、挙句の果てにこんな果たし状まで投げつけてきた。
自分たちが何と戦っているのか、何をどうすればこの戦いが終わるのか……知らない事が多過ぎるのだ。
新手の鎧は跳躍し、一同の前に着地したのだが。
『………………えっ???』
一瞬、誰もが目を疑った。
彼はよりによって人間側の、香川やカノンの傍に立っていたからである。
もう1体の鎧がたまらず怒鳴った。
「剛角のどアホっ! そっちは敵じゃ!」
「うおおっ、ほんとじゃ、間違えたぁっ!?」
剛角と呼ばれた鎧は、慌てて立ち位置を移動させた。それから腕組みし、しきりに首を傾げている。
「……お、おかしいのお、なーんで間違えたんじゃろうのお……???」
「知るか、この単細胞っ! ていうか姫さん、殲滅呪詛はあかんじゃろ!」
斧を持った鎧は、そう言いつつ燃え上がる仲間に駆け寄った。
「しめた剛角、まだ術が浅い! 今なら戻せるぞ!」
「ほんとか紫蓮、助けを呼ぼう! 医者はどこだ!?」
金棒を持つ鎧は、慌ててぐるぐる駆け回っている。
誠達は呆然とその様を眺めていたが、不意に鶴が呟いた。
「なんか気が抜けたわね。ここらで退却しましょうか」
「せ、せやな、トドメさすと呪いもらうんやろ?」
「そーだぜ、敵の作戦も阻止したしな」
「同感だ、ひとまずお暇させて貰おう」
隊員も口々に同意したため、誠達はそそくさと退却を始めた。亀に飛び乗ると、そのまま陸を後にするのだ。
「ごめんね、また今度戦いましょう」
鶴が胸の前で手を合わせると、燃え上がる鎧を光が包んだ。鎧から立ち昇る禍々しい炎は、少し勢いを弱めたようである。
コマは不満げに口を尖らせた。
「ねえ鶴、なんで治してあげたのさ」
「……知らないけど、なんとなくそんな気になったのよ」
鶴は腕組みし、自分を納得させるようにそう言った。
「逆恨みで呪われても知らないよ。あの手の相手は執念深いんだから」
「その時はまたコテンパンにするわ。それにあれだけ焼かれたんだもの、当分は戦えないわよ」
鶴の言葉に、画面で難波が肩を竦めた。
「……当分って事は、そのうち復活するんやな。うちはパス、次は最初っから鳴っちがやりや」
「いや、俺だってヒメ子がいなきゃ、あんな相手近づけないし」
だがそこで後ろから大声が響いた。
あの剛角と呼ばれた鎧が、こちらに向かって怒鳴っているのだ。
「こら待ててめえらっ、わしとの決着はどうするんじゃあっ!」
相手は飛び上がって怒っているが、流石に自力では海を渡れないようだ。
しばし地団駄を踏む鎧だったが、やがて右手を掲げると、こちらに何かをぶん投げたのだ。
「何だ……?」
誠はモニターに目を凝らした。
弧を描き、きらきら輝く『何か』は、ぐんぐんこちらに近付いて来る。
誠は無意識に機体を操作し、片手でそれを受け止めていた。
「受けたな、ちゃんと覚えてろよ! 次こそは必ず……」
声は波音に掻き消され、次第に聞こえなくなってしまった。
「あいつ、何を寄越したんだ?」
誠はそっと機体の手を開いた。現れたのは、直径5センチぐらいの珠である。宝石のように透き通っており、全体がぼんやりと青紫に光っていた。
「罠でもない、発信機でも無さそうだけど……」
誠が不思議がっていると、コマが肩に飛び乗ってきた。
「あーあ、厄介な物を受け取ったね。あれって約定珠だよ」
「約定珠?」
「鬼が魔力を固めた結晶さ。必ず再戦するから、次会う時まで持っておけ……要するに果たし状だね」
「うっ、無視しとけば良かったな……」
誠はそう言いつつも、内心かなり複雑だった。
以前から少しずつ胸に積み重なってきた疑問は、もう放置出来ないレベルに膨れ上がっていたのだ。
餓霊とは、魔界から湧き出た悪霊ども……かつて女神はそう言った。地の底に封じられていた邪悪な魂が溢れ出し、大地のエネルギーを利用して実体化したものだと。
だったらあの鎧達は何なのだ?
彼らは明らかに餓霊とは異なる存在である。
はっきりした意思や感情を持ち、挙句の果てにこんな果たし状まで投げつけてきた。
自分たちが何と戦っているのか、何をどうすればこの戦いが終わるのか……知らない事が多過ぎるのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる