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~プロローグ~ 動き出す闇の一族

小豆島の衝撃

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「うんうん、さすが私ね」

 鶴は瞬間移動で誠の後ろの補助席に現れ、満足そうに頷いている。

「や、やった、倒せた! 倒せました!」

 順当な勝ち戦のせいか、守備隊は次第に自信をつけたようだ。危ない時には誠達が援護するが、1人の被害も出さずに敵軍を倒していく。

 たださすがに敵の数が多いため、少しずつ戦場が広がり始めたのが気になるところだ。

 誠は半透明の地図を確認してみる。

「さすがにバラけ始めたな。ヒメ子が感知出来るとは言え、奥に入り込むと厄介だし……幾つか強いのが混じってる」

 敵軍の中には、形が洗練された鎧のような奴らがいて、それらはある程度まともな立ち回りをしている。そいつらの相手をしているうちに、戦場が横へ横へと広がっているわけだ。

「平気よ黒鷹、天罰メニューで助っ人を呼ぶわ」

 鶴は四角いタブレットのような神器を取り出し、指で画面を操作していく。

 たちまち巨大な土偶どぐう埴輪はにわが現れたが、よく見るとそうめんやしょうゆまで混じっていたため、誠は思わずツッコミを入れた。

「ちょっと待て、何出してるんだよ!」

「道すがら調べたのよ、この地方の名産らしいわ。丹精込めて作ってるから、そういうのにはしろの魔法がかけやすいの」

 鶴の言葉と共に、そうめんの束やしょうゆのビンからニューと手足が生えてきた。彼らはそのまま土偶達に混じり、勇ましく戦い始めたのだ。

 そうめんが敵を麺で締め上げたかと思えば、しょうゆは中身を高速で発射し、餓霊の目をしみさせている。

「名物強すぎだろ……こんなのどう報告書に書けってんだよ」

 誠は呆然と呟き、コマも呆れ顔で後を続ける。

「四国は取り戻したからね。邪気が無いから、鶴の魔法もずっと強くなってるんだ。要するにやりたい放題だよ」

 しょうゆ達の活躍により、上陸した餓霊軍は総崩れとなった。生き残った敵は慌てふためき、艦船型の餓霊に乗って退却していく。

「良し、こっちは勝ち戦ね。そろそろ仕上げだわ」

 鶴は満足げに頷くと、手を合わせてまた念じ始める。すると海面が盛り上がり、巨大な海亀が何匹も現れた。

 鶴は瞬間移動し、亀の1つに飛び乗ると、太刀を抜いて高らかに叫んだ。

「さあ黒鷹、本州へ討ち入りよ! 敵の龍穴を塞いで、しばらく攻められないようにしなきゃ!」

「分かった! 守備隊のみんな、小豆島こっちは任せたぞ!」

 誠の言葉に、守備隊の面々が勇ましく答えた。

「了解です! 任せてください!」

「ようし、上出来! あとヒメ子がいない時は、ウインクはいいからな!」

 誠は機体をジャンプさせ、海亀の背中に飛び乗った。難波や香川、宮島やカノンも後に続く。

(そう言えば、カノンはやけに静かだな……)

 誠はふと彼女の様子が気になったが、特に負傷した様子も無いようだ。

 モニターを切り替え、遠ざかる浜辺を確認すると、そうめんが敵に上段回し蹴りハイキックを食らわしているのが見えた。

 しょうゆは豪快なラリアットをかまし、喰らった餓霊が空中で1回転する。

(だめだっ、考えたら負けなんだ……!)

 誠は無理に己に言い聞かせ、視線を無理やり前に戻した。



 潮は恐ろしい勢いで一同を押し流していく。

 誠は地図をスクロールさせ、敵陣を再度確認した。

 浜辺に普通の餓霊が配備され、やや奥手に砲撃型の大きな餓霊が陣取っている。

 敵が作った龍穴……つまり餓霊が噴き出す大地の穴は、更に後ろにあるようだ。

「敵に付いて行ってるから砲撃出来ないだろうけど、上陸したら乱戦になるな」

「それも考えてあるわ、黒鷹」

 鶴は自信満々で胸を叩くが、そうする間にも陸地は近づき、一同は一気に浜に打ち上げられた。

 慌てふためく海辺の敵、つんのめる艦船型の餓霊。そして横滑りで急ブレーキをかける亀達。

 巨大な波しぶきが舞い上がった瞬間、鶴は胸の前で手を合わせた。

 すると辺りにいた餓霊がぜんぶ、人型重機と同じ姿に変わったのだ。

「な、何なんこれ、敵がうちらみたいに見えるで???」

 鶴の幻術であり、これで相手は誰を攻撃していいか分からないはずだ。

「それじゃみんな、手はず通りね! 後で合流しましょう!」

 鶴は巨大化したコマの背に乗り、陸の奥へと駆け出していった。

 誠達もあらかじめ分担した攻撃地点へ疾走していく。

 モニターで確認すると、幻術をかけられた餓霊達は、互いにひっぱたいたり追いかけられたり、すったもんだを繰り広げていた。

「…………見つけた、あれか……!」

 やがて前方の高台に、巨大な四つ足の餓霊が見えた。

 肩口には筒が幾つもあり、そこから呪詛じゅそを込めた突起物を撃ち出すのだろう。いわゆる砲撃型の餓霊というヤツだ。

 彼らは巨体を揺らして向き直るも、誠はすれ違いざまに機体の刀で両断していた。

 誠は次々相手を切り伏せていくが、不意に後ろから爆音が響いた。

(そろそろ強いのが来たな。多分ここの大将級か)

 やがて地を踏み鳴らし、相手が姿を現した。

 それぞれ巨大な斧や金棒を担いでいて、明らかに他の鎧より迫力を感じさせる。

「……全員気をつけろ。出来るだけ足止めするけど、こいつらは手強いぞ」

 誠はそう言って皆に映像を送った。
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