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第三章
68. 継承者からの告白
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私が陛下の前から下がろうとすると。
「あ、グリーゼル様はまだその場でお願いします」
何故か進行役から止められた。
不思議に思っていると、エルガー殿下がすぐ私の隣まで来ていた。
つい婚約破棄された時のことを思い出す。
でも今の私は婚約者でもなければ、糾弾されるようなこともない筈だ。
拭いきれない不安を胸に、エルガー殿下の言葉を待っていると、目を伏せたまま重そうな口を開いた。
「以前私はここでグリーゼル嬢との婚約を破棄し、謂れもない罪を糾弾した」
婚約を破棄という言葉を聞いて、心臓が一際大きな悲鳴を上げた。
やっぱり婚約破棄のことを……。
ん? 謂れもない?
「その事をここで謝罪させてもらう」
エルガー殿下からの謝罪は、集まる貴族たちに激震を齎した。さっきとは打って変わって響めきが場内に広がる。
第一王位継承者であるエルガー殿下が謝罪ですって!?
これは……もしかして婚約破棄以上の大問題では!?
全ての決定権を持つ王位継承者は、間違ってはいけないものだ。下手をすれば私の方が罰せられかねない。
どうやってこの場を収めようと思考を巡らせるが、頭が真っ白になって何も出てこない。
すると今度は顔を上げたエルガー殿下が、更に衝撃的なことを言い始める。
「私は此度の過ちを認め、第一位王位継承権を兄レオポルド・ジベリ・フリードウッドに返還することを宣言する!」
響めきと共に拍手が巻き起こった。
多くの貴族がそれを認めていることが、その拍手の多さに現れていた。
レオポルド様は私の隣まで歩いてきて、エルガー殿下からの言葉を受け入れる。
「謹んで受ける」
胸に手を当てて、陛下に向かって礼をしたレオポルド様は、陛下から承認された。
見守る貴族たちの方に向き直り、王位継承者としての決意を示す。
「第一王位継承権を賜った者として、言わせてもらいたい。長く療養していた私では不安がある者もいるかもしれない。しかし弟と手を取り合って、必ずこの国をより良くしていくことをここに誓う!」
一斉に拍手が鳴り響いた。
レオポルド様とエルガー殿下は握手をして、二人が協力することを内外に示した。
これでもう王位継承争いは終わりだと、宣言するように。
「そしてもう一つ言いたいことがある」
拍手が止み多くの貴族が見守る中、レオポルド様は胸から小さな箱を取り出した。
そして私の前に跪き、真っ直ぐ私を見上げて言った。
「グリーゼル・ツッカーベルク侯爵令嬢、貴女を愛しています。僕の妃になってくれませんか」
手の上の小箱には、エメラルドの指輪が輝いていた。
会場中が黄色い歓声に包まれ、煩いくらい私の耳を叩く。
でもそれすらも心地良いと感じていた。
はっきりとこの会場にいる全員の前で、私を求めてくれた。
私が否定する理由は、もはや何一つない。
全てレオポルド様が取り払ってくれた。
今度こそ私からもレオポルド様に応えたい。
「はい。わたくしもあなたを愛しています」
「あ、グリーゼル様はまだその場でお願いします」
何故か進行役から止められた。
不思議に思っていると、エルガー殿下がすぐ私の隣まで来ていた。
つい婚約破棄された時のことを思い出す。
でも今の私は婚約者でもなければ、糾弾されるようなこともない筈だ。
拭いきれない不安を胸に、エルガー殿下の言葉を待っていると、目を伏せたまま重そうな口を開いた。
「以前私はここでグリーゼル嬢との婚約を破棄し、謂れもない罪を糾弾した」
婚約を破棄という言葉を聞いて、心臓が一際大きな悲鳴を上げた。
やっぱり婚約破棄のことを……。
ん? 謂れもない?
「その事をここで謝罪させてもらう」
エルガー殿下からの謝罪は、集まる貴族たちに激震を齎した。さっきとは打って変わって響めきが場内に広がる。
第一王位継承者であるエルガー殿下が謝罪ですって!?
これは……もしかして婚約破棄以上の大問題では!?
全ての決定権を持つ王位継承者は、間違ってはいけないものだ。下手をすれば私の方が罰せられかねない。
どうやってこの場を収めようと思考を巡らせるが、頭が真っ白になって何も出てこない。
すると今度は顔を上げたエルガー殿下が、更に衝撃的なことを言い始める。
「私は此度の過ちを認め、第一位王位継承権を兄レオポルド・ジベリ・フリードウッドに返還することを宣言する!」
響めきと共に拍手が巻き起こった。
多くの貴族がそれを認めていることが、その拍手の多さに現れていた。
レオポルド様は私の隣まで歩いてきて、エルガー殿下からの言葉を受け入れる。
「謹んで受ける」
胸に手を当てて、陛下に向かって礼をしたレオポルド様は、陛下から承認された。
見守る貴族たちの方に向き直り、王位継承者としての決意を示す。
「第一王位継承権を賜った者として、言わせてもらいたい。長く療養していた私では不安がある者もいるかもしれない。しかし弟と手を取り合って、必ずこの国をより良くしていくことをここに誓う!」
一斉に拍手が鳴り響いた。
レオポルド様とエルガー殿下は握手をして、二人が協力することを内外に示した。
これでもう王位継承争いは終わりだと、宣言するように。
「そしてもう一つ言いたいことがある」
拍手が止み多くの貴族が見守る中、レオポルド様は胸から小さな箱を取り出した。
そして私の前に跪き、真っ直ぐ私を見上げて言った。
「グリーゼル・ツッカーベルク侯爵令嬢、貴女を愛しています。僕の妃になってくれませんか」
手の上の小箱には、エメラルドの指輪が輝いていた。
会場中が黄色い歓声に包まれ、煩いくらい私の耳を叩く。
でもそれすらも心地良いと感じていた。
はっきりとこの会場にいる全員の前で、私を求めてくれた。
私が否定する理由は、もはや何一つない。
全てレオポルド様が取り払ってくれた。
今度こそ私からもレオポルド様に応えたい。
「はい。わたくしもあなたを愛しています」
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