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第一章
8.5.縋ってはいけない希望
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別に誰にも触れられなくてもいいって思っていた。
呪いが発動した直後だけ、呪いが発動しないのは分かってたけど、誰かを傷つけてまで触れようなんて思わない。
いつも城の執務室で一人で過ごす日々に、飽きてはいたけどどうということはない。
トールキンは部屋の入り口の方で、幼い頃からそうしてくれたように話しかけてくれるけど、近づくことが自分も僕も傷つけるって分かってるからそれ以上は絶対に近づかない。
それがトールキンの優しさだし、心地よくも感じてた。
でも幼い頃撫でてくれたあの手に触れられないのが、寂しくないわけじゃない。
それでも僕は貴族だし、恵まれてる方だって思ってた。
今日来るって聞いてた新しい使用人も、今までと同じだと……。
「レオポルド様、貴方は呪われているのですか!?」
どうしようもなく胸がざわついた。
見た瞬間分かった。解呪を調べてたあの女性だ。
また会えた!という喜びはすぐさま後悔に変わった。
どうやってまだ発動してない呪いに気づいたのか知らないけど、僕の呪いを責めてるんだと思った。
解呪を調べてたんだ、呪われた誰かがいたんだろう。
呪いを嫌ってる筈だ。
呪われてる男のところでなんて、働きたくないだろう。
いつもより激しく揺さぶられた感情に合わせて、いつもより激しい風が出た。
そして傷つけて……罪悪感に押し潰れそうだった。
痛かったろう。怖かったろう。
働きにきて1日目でこれなんて、あんまりだ。
こんな若くて美しい女性の身体に大きな傷をつけてしまうなんて。
命の危険だってあった。なんとか命は取り留めたけど……。
僕はなんて酷いことしてしまったんだ……!!
近づいてきた時、風魔法で押し返せばよかったんだ。
冷静に対処すればできた筈だ。
どんな状況であろうと、感情を乱してはいけないと教わった筈なのに、僕には全くできない。出来損ないだ。
「申し訳ありません!主人のベッドで寝るなど、使用人としてあるまじき…」
目を覚ましたのに、彼女にはあのいつもの恐れるような目も、責めるような目も向けられなかった。
それどころか、会ってすぐ攻撃された相手にまだ礼儀を気にしてる。
……いや、怖がってるのか?
ベッドの下に落ちて、動けないようだったので、またベッドに戻してあげた。
また呪いが発動しないか結構怖かったけど、まださっきの呪いから数分しか経ってないし、以前も出なかったから大丈夫だろうと手を貸した。何より床に手をついたままにしておくのも憚られた。
「いいえ、そもそも近づいてはいけないと言われていたのに、近づいてしまった私が悪いのです。それに私は元より誰かに嫁ぐことは難しいので、大丈夫ですわ。」
言っている意味が分からなかった。
僕は自分で言うのもあれだけど、それなりに優秀な方だという自覚はある。
教師の言うこともすんなり理解できたし、今までこれほど何を言ってるのか理解できなかったことなんてない。
言いつけを守らなかったからって、命に関わる傷を負わされていい筈がない。
普通はせいぜい叱られて終わりだ。
それなのに僕を全く責める素振りすらない。
それどころかまだ自分を責めるのか。
それに嫁げない……とはどういうことだ?
あとでトールキンに調べてもらおう。
見たところ、年齢は充分若いし、こんな美しい女性なら社交会では引く手あまたではないのか。
しかもツッカーベルクと名乗っていなかったか?
ツッカーベルクと言えばこの国でも有数の名門貴族、侯爵家で陛下の信頼も厚いと聞く。
そんな大貴族のご令嬢に傷をつけただなんて、目眩がしそうだ。
普通に考えて傷害罪で、厳罰に処されるだろう。
目の前の彼女が訴えれば……。
「どうかわたくしに貴方にかけられた呪術を調べさせていただけないでしょうか。」
手が震えた。声も出ない。
これほど望んだことがあっただろうか。
しかしそれではまた彼女を傷つけてしまう……!!
今日ほどこの呪いを恨めしいと思ったことはない。
もう僕は誰も傷つけたくはないのに!
希望に縋るよりも、恐怖が勝った。
今度こそ死なせてしまうぞと誰かが囁いた気がした。
それでも彼女は怯むこともなく、僕に手を差し伸べた。
……美しい。
見目だけでなく、そう思った。
まだ希望を持ってもいいのだろうか。
この罪深い僕が希望に縋ることを許してくれるだろうか。
いや目の前の女神が許してくれるのなら、僕は何をしてでも彼女を守ろう。
呪いが発動した直後だけ、呪いが発動しないのは分かってたけど、誰かを傷つけてまで触れようなんて思わない。
いつも城の執務室で一人で過ごす日々に、飽きてはいたけどどうということはない。
トールキンは部屋の入り口の方で、幼い頃からそうしてくれたように話しかけてくれるけど、近づくことが自分も僕も傷つけるって分かってるからそれ以上は絶対に近づかない。
それがトールキンの優しさだし、心地よくも感じてた。
でも幼い頃撫でてくれたあの手に触れられないのが、寂しくないわけじゃない。
それでも僕は貴族だし、恵まれてる方だって思ってた。
今日来るって聞いてた新しい使用人も、今までと同じだと……。
「レオポルド様、貴方は呪われているのですか!?」
どうしようもなく胸がざわついた。
見た瞬間分かった。解呪を調べてたあの女性だ。
また会えた!という喜びはすぐさま後悔に変わった。
どうやってまだ発動してない呪いに気づいたのか知らないけど、僕の呪いを責めてるんだと思った。
解呪を調べてたんだ、呪われた誰かがいたんだろう。
呪いを嫌ってる筈だ。
呪われてる男のところでなんて、働きたくないだろう。
いつもより激しく揺さぶられた感情に合わせて、いつもより激しい風が出た。
そして傷つけて……罪悪感に押し潰れそうだった。
痛かったろう。怖かったろう。
働きにきて1日目でこれなんて、あんまりだ。
こんな若くて美しい女性の身体に大きな傷をつけてしまうなんて。
命の危険だってあった。なんとか命は取り留めたけど……。
僕はなんて酷いことしてしまったんだ……!!
近づいてきた時、風魔法で押し返せばよかったんだ。
冷静に対処すればできた筈だ。
どんな状況であろうと、感情を乱してはいけないと教わった筈なのに、僕には全くできない。出来損ないだ。
「申し訳ありません!主人のベッドで寝るなど、使用人としてあるまじき…」
目を覚ましたのに、彼女にはあのいつもの恐れるような目も、責めるような目も向けられなかった。
それどころか、会ってすぐ攻撃された相手にまだ礼儀を気にしてる。
……いや、怖がってるのか?
ベッドの下に落ちて、動けないようだったので、またベッドに戻してあげた。
また呪いが発動しないか結構怖かったけど、まださっきの呪いから数分しか経ってないし、以前も出なかったから大丈夫だろうと手を貸した。何より床に手をついたままにしておくのも憚られた。
「いいえ、そもそも近づいてはいけないと言われていたのに、近づいてしまった私が悪いのです。それに私は元より誰かに嫁ぐことは難しいので、大丈夫ですわ。」
言っている意味が分からなかった。
僕は自分で言うのもあれだけど、それなりに優秀な方だという自覚はある。
教師の言うこともすんなり理解できたし、今までこれほど何を言ってるのか理解できなかったことなんてない。
言いつけを守らなかったからって、命に関わる傷を負わされていい筈がない。
普通はせいぜい叱られて終わりだ。
それなのに僕を全く責める素振りすらない。
それどころかまだ自分を責めるのか。
それに嫁げない……とはどういうことだ?
あとでトールキンに調べてもらおう。
見たところ、年齢は充分若いし、こんな美しい女性なら社交会では引く手あまたではないのか。
しかもツッカーベルクと名乗っていなかったか?
ツッカーベルクと言えばこの国でも有数の名門貴族、侯爵家で陛下の信頼も厚いと聞く。
そんな大貴族のご令嬢に傷をつけただなんて、目眩がしそうだ。
普通に考えて傷害罪で、厳罰に処されるだろう。
目の前の彼女が訴えれば……。
「どうかわたくしに貴方にかけられた呪術を調べさせていただけないでしょうか。」
手が震えた。声も出ない。
これほど望んだことがあっただろうか。
しかしそれではまた彼女を傷つけてしまう……!!
今日ほどこの呪いを恨めしいと思ったことはない。
もう僕は誰も傷つけたくはないのに!
希望に縋るよりも、恐怖が勝った。
今度こそ死なせてしまうぞと誰かが囁いた気がした。
それでも彼女は怯むこともなく、僕に手を差し伸べた。
……美しい。
見目だけでなく、そう思った。
まだ希望を持ってもいいのだろうか。
この罪深い僕が希望に縋ることを許してくれるだろうか。
いや目の前の女神が許してくれるのなら、僕は何をしてでも彼女を守ろう。
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