2 / 74
第一章
2. 絶望の淵で見つめる先
しおりを挟む
普段地下にあるこの部屋には誰も近づかない。
それもそうでしょう。
常に薄暗く、怪しい呪術の装飾が並ぶ部屋は、侍女たちにとっては不気味そうで、近寄りたがらなかった。
それでも夕食の準備をする時間になっても姿を現さなかったからか、侍女たちはおそるおそる呼びに来た。
煤汚れ倒れている侯爵令嬢なんて、世界広しといえど、この私一人しかいないのではないかしら。
それからは屋敷中大慌てで、煤汚れた髪と服を綺麗にしてもらい、ベッドで絶対安静を言い渡された。
お父様には「侯爵令嬢としてあるまじき姿だ」とお叱りを受けたし、お母様にもとても心配された。
地下の呪い部屋は1ヶ月立ち入り禁止にされたが、私の闇魔法の才能を誇らしく思っているお父様からそれ以上の罰はなかった。
ちょうどよかったのかもしれない。
私には冷静になる時間が必要だった。
それまで愛してもらえると信じて疑わなかったエルガー殿下が好きなのは、ナーシャ嬢だという事実を知ってしまった。更にそれだけでは収まらず、婚約破棄され死罪まで言い渡される未来を知ってしまったのだから。
目が覚めたら忘れていれば、どんなによかっただろう。
思い出したゲームの記憶は今も鮮明に頭に残っている。
婚約破棄から断罪される光景が脳裏に焼き付いて、何度も頭の中で再生しては、首を振ってかき消す。
倒れる前、私はナーシャ嬢に呪いをかけていた。
ナーシャ嬢からエルガー殿下に嫌われるような行動をする呪いを。
ただ記憶の中で見た光景では、この後ナーシャ嬢はエルガー殿下に嫌われることはない。
ナーシャ嬢はエルガー殿下に素っ気なくする程度。むしろエルガー殿下がナーシャ嬢への気持ちに気付いて、絆が深まる。
しかもそこでナーシャ嬢の以前とは違う態度を不審に思ったエルガー殿下は、呪いの存在に気付いてしまう。
記憶の中の私はそれでもまだナーシャ嬢を呪うことを止めない。そして最後にナーシャ嬢がもがき苦しんで死ぬ呪いをかけたところで、呪いを跳ね返され首に呪いの反動の痕が残ってしまう。
エルガー殿下は呪った犯人が私だと分かり、貴族が集まるパーティーで婚約を破棄する。
そして首にある呪いの痕を証拠に私は死罪が決まる。
相手を殺してしまうほどの呪い……。
私ならやりかねないかもしれない……。
事実それほどまでにエルガー殿下に執着していた。
つい数時間前も本当にナーシャ嬢に嫌われる呪いをかけたところだったわ。
完全にナーシャ嬢への憎悪に支配されていた。
あのまま行けば、人を殺していた……と想像しただけで身が竦んだ。
しかももう呪いは何回かかけてしまっていた。
このまま行けば間違いなく死罪になるだろう。
半ば自暴自棄にさえなっていたが、絶対安静を言い渡され、ベッドで寝ているだけなので時間はたっぷりある。
私はぼーっとする頭で、これからあの結末を回避するために何ができるのか考え始めていた。
「今ならまだ呪いを解くことはできるかしら……?」
呪いの解呪は難しいと聞いていたが、幸いにも呪術の仕組みは完璧にマスターしてる。
死罪までもう一年もない。
それでも今ならまだ解呪すれば、少しはマシな結果になるんじゃないかしら。
少しでも希望を見出したかった、というのが正直なところかもしれない。
それでも何かに打ち込めば、気が紛れる気がした。
そうと決まれば明日は王立図書館で解呪について調べようと決意して、そっと目を閉じた。
それもそうでしょう。
常に薄暗く、怪しい呪術の装飾が並ぶ部屋は、侍女たちにとっては不気味そうで、近寄りたがらなかった。
それでも夕食の準備をする時間になっても姿を現さなかったからか、侍女たちはおそるおそる呼びに来た。
煤汚れ倒れている侯爵令嬢なんて、世界広しといえど、この私一人しかいないのではないかしら。
それからは屋敷中大慌てで、煤汚れた髪と服を綺麗にしてもらい、ベッドで絶対安静を言い渡された。
お父様には「侯爵令嬢としてあるまじき姿だ」とお叱りを受けたし、お母様にもとても心配された。
地下の呪い部屋は1ヶ月立ち入り禁止にされたが、私の闇魔法の才能を誇らしく思っているお父様からそれ以上の罰はなかった。
ちょうどよかったのかもしれない。
私には冷静になる時間が必要だった。
それまで愛してもらえると信じて疑わなかったエルガー殿下が好きなのは、ナーシャ嬢だという事実を知ってしまった。更にそれだけでは収まらず、婚約破棄され死罪まで言い渡される未来を知ってしまったのだから。
目が覚めたら忘れていれば、どんなによかっただろう。
思い出したゲームの記憶は今も鮮明に頭に残っている。
婚約破棄から断罪される光景が脳裏に焼き付いて、何度も頭の中で再生しては、首を振ってかき消す。
倒れる前、私はナーシャ嬢に呪いをかけていた。
ナーシャ嬢からエルガー殿下に嫌われるような行動をする呪いを。
ただ記憶の中で見た光景では、この後ナーシャ嬢はエルガー殿下に嫌われることはない。
ナーシャ嬢はエルガー殿下に素っ気なくする程度。むしろエルガー殿下がナーシャ嬢への気持ちに気付いて、絆が深まる。
しかもそこでナーシャ嬢の以前とは違う態度を不審に思ったエルガー殿下は、呪いの存在に気付いてしまう。
記憶の中の私はそれでもまだナーシャ嬢を呪うことを止めない。そして最後にナーシャ嬢がもがき苦しんで死ぬ呪いをかけたところで、呪いを跳ね返され首に呪いの反動の痕が残ってしまう。
エルガー殿下は呪った犯人が私だと分かり、貴族が集まるパーティーで婚約を破棄する。
そして首にある呪いの痕を証拠に私は死罪が決まる。
相手を殺してしまうほどの呪い……。
私ならやりかねないかもしれない……。
事実それほどまでにエルガー殿下に執着していた。
つい数時間前も本当にナーシャ嬢に嫌われる呪いをかけたところだったわ。
完全にナーシャ嬢への憎悪に支配されていた。
あのまま行けば、人を殺していた……と想像しただけで身が竦んだ。
しかももう呪いは何回かかけてしまっていた。
このまま行けば間違いなく死罪になるだろう。
半ば自暴自棄にさえなっていたが、絶対安静を言い渡され、ベッドで寝ているだけなので時間はたっぷりある。
私はぼーっとする頭で、これからあの結末を回避するために何ができるのか考え始めていた。
「今ならまだ呪いを解くことはできるかしら……?」
呪いの解呪は難しいと聞いていたが、幸いにも呪術の仕組みは完璧にマスターしてる。
死罪までもう一年もない。
それでも今ならまだ解呪すれば、少しはマシな結果になるんじゃないかしら。
少しでも希望を見出したかった、というのが正直なところかもしれない。
それでも何かに打ち込めば、気が紛れる気がした。
そうと決まれば明日は王立図書館で解呪について調べようと決意して、そっと目を閉じた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
婚約相手と一緒についてきた幼馴染が、我が物顔で人の屋敷で暮らし、勝手に婚約破棄を告げてきた件について
キョウキョウ
恋愛
カナリニッジ侯爵家の一人娘であるシャロットは、爵位を受け継いで女当主になる予定だった。
他貴族から一目置かれるための権威を得るために、彼女は若いうちから領主の仕事に励んでいた。
跡継ぎを産むため、ライトナム侯爵家の三男であるデーヴィスという男を婿に迎えることに。まだ婚約中だけど、一緒の屋敷で暮らすことになった。
そしてなぜか、彼の幼馴染であるローレインという女が一緒についてきて、屋敷で暮らし始める。
少し気になったシャロットだが、特に何も言わずに受け入れた。デーヴィスの相手をしてくれて、子作りを邪魔しないのであれば別に構わないと思ったから。
それからしばらく時が過ぎた、ある日のこと。
ローレインが急に、シャロットが仕事している部屋に突撃してきた。
ただの幼馴染でしかないはずのローレインが、なぜかシャロットに婚約破棄を告げるのであった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる