悪魔の子

らろぱ

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今日も村には平和が訪れている。
皆が笑顔で汗水たらし、生き生きと各々の仕事をこなしている。老人は幼い子供たちの子守りの一環で笑いあい遊んでいる。
畑を耕すものもいれば家畜に餌をやる人もおり、内容は様々だ。

俺もいつものように畑を耕していた。
重い鉄製のクワを何度も振り下ろした。一度振り下ろすともう一度上げるのが一番辛い。
ある程度終わった頃には日が暮れていた。

夜になると村は今日取れた食物に感謝し夜ご飯を村人たちが円となり、全員で食べる。

なので村の人たちは皆が顔見知りで絆は固いし盗みをはたらこうとするものも出ることはない。
少し経つと大人の人たちが楽しそうに酒を飲み始めた。
お互いがお互いを思いやることで出来ているこの村は本当に素晴らしく、一生この生活が続くと思った。

俺はまだ酒が飲めないのでお茶を飲もうとコップを取ろうとしたが手に出来たまめのせいで痛みが走った。
「痛っ!」
すると幼なじみのローズがからかってきた。

「もっと力をつけないからまめが出来るんだよ」

「ローズは非力な女の子だからクワを持つこともないからこの痛みはわからないだろ?」

そして言い争いに発展すると酔った一人の大人が
「またまた夫婦喧嘩ですかー?」
とヤジを飛ばしてきた。

すると周りはガヤガヤと「もうすぐ2人も成人だから結婚が楽しみ」だの騒ぎだし、俺たち2人は顔を赤らめた。

俺たち2人の話題が終わり、ちょうど夕食を食べ終えたので、村から少し離れた星が綺麗に見える丘に来た。

「綺麗だなぁ」
誰にも害されることのない高度なところにいる星たちは俺たちの村のように平穏な日々が続いているのだろう。

「何してるの?」
とローズが隣に座ってきた。

「星を見てるんだよ」
そう答えるとローズも空を見上げた。

「星はいつみても綺麗だよね
それに比べて人間は年老いてしまって私も長老みたいにしわくちゃになっちゃうのかなぁ」
と嘆いたローズに対して
「どんなに老いて顔が変わってしまってもローズの清い心は変わらないさ」

「良いこと言うじゃん」と照れくさそうにローズは笑った。

「そういえば今日でサイがこの村に来てから10年も経ったね」

「そうなんだ…忘れてたわ」
とはいえ、この村に来てからカレンダーに毎日印をつけていたのだが…

「ということで…どうぞ!」
とローズは手編みのリストバンドをくれた。

「え!?本当に良いの?」

「良いの良いの」
嬉しかったのだが、申し訳ないと思い、遠慮していた俺に半ば強引に渡された。

「あ!流れ星!」
俺たち2人は慌てて手を合わせて願い事を考えた。
村の言い伝えで流れ星が来ると目を閉じて手を
合わせて、願い事を考えると叶うというものがある。
流れ星が見えなくなると俺は少し不吉な予感がした。
「サイ君は何をお願いしたのかな?」
とからかってきたローズの言葉さえ気にも止まらなかった。

「サイ?」
肩を叩かれやっと正気に戻るとローズに「何か聞こえなかった?」と聞いたが「私は長老の教えられた、耳を塞ぐとさらに願いが叶うって聞いたから聞こえなかった」と返された。

「気のせいなのかな…」
その後は願い事について他愛もない話をして村に戻った。

次の日起きると、村には招からざる人達が来ていた。
軍服に身を纏い銃を肩にかけた兵士10人ほどが村の長がいるテントで話していた。

たまに村長や兵士のあらげた声が聞こえてきたがなにを話していたのかははっきりとはわからなかった。

少し時間が経つとテントから兵士たちがお辞儀をして「頼みますよ」と村長に言い、乗ってきた馬で帰っていった。

すぐさま村の大人たちが村長に詰め寄ると覇気のない声で「村の皆を集めてくれ」と一言だけ言いテントに戻った。

村人が集まると村長は「みんな聞いてくれ…」と紙を取り出し「国から徴兵の命令が来た」と言った。

その紙には確かに国の判子が押してあった。
紙を見ると膝から崩れ落ちる人もいれば絶望感で泣いてしまう人もいた。
そしてある人が「いつから戦争は始まるんだ?」と聞くと村長は「昨日の夜、ある町に隣国から攻撃があったらしい
だから…今もう戦闘が行われている地域があるらしい」

あの流れ星は…まさかと思っていると長老が話しかけた。

「私はこの村から戦争などという人の欲で満ち溢れた最悪な出来事に関与させはしない!」

その言葉で聴衆は「そうだ!」と声をあげた。
村長の隣にいた副村長が「私たちの村から参戦はさせないことは出来ないのか?」
と尋ねると村長は重い口を開いた。

「私もそう言った。しかし、兵士たちは国側に逆らえば村の安全は保証しない」と脅迫してきたらしい。

徴兵を引き受けて村を守るのか、
徴兵を受けずに国に追いやられるのか村の人達の考えは一向にまとまらず、気づくと夜になっていた。

夕食の時、村の人達は静かだった。
いつもならどんちゃん騒ぎする大人たちも今日は酒を飲まずどんよりとしていた。
この空気の中では箸は進まなかった。
すると1人の村一番の大男のアベルが声を上げた。

「村長…徴兵は何人だ?」

「最低でも5人だ」

そしてアベルのまだ幼い息子を抱きかかえ「俺はこの村と妻とこの子のためにも行ってくる」と宣言した。
村からは歓声が上がった。
するとある男も立ち上がった。
「私もこの村皆さんのためにもこの村で暮らす家族のためにも行きます!」
副村長だった。

「父さん…代わりに僕が行くよ!」
副村長の息子さんが立ち上がると副村長は
優しい声で「私はもう長くはない。この村を繋いでいく1人にお前は入っているんだ。
父さんは絶対帰ってくるからな。」

と言って息子を座らせた。

後一人行けば良いというところで誰からも声があがることはなかった。
大人たちは立ち上がろうとしていたが、行く勇気がないのだろう。出兵など死にに行くようなものだ。

「なら、俺が行きます」
俺は立ち上がった。

「なに言ってんだ!まだ成人もしていないお前が戦争に行っても命を無駄にするだけだろ!」
と気迫が高まったローズに胸ぐらを捕まれた。

「ローズ…」と優しく手を振りほどいた。

「この10年間、捨て子だった俺を村人同様に接してくれた、この村に恩返しがしたいんだよ
それはローズお前にもだ。
汚かった俺と一番初めに話しかけてくれたのは他でもないローズだからな」
笑顔で返すと「馬鹿…」とローズは俺の胸に倒れかけた。
それを優しく抱きしめた。

次の日の朝支度をし、村の人達の応援の元村を出た。

妻と幼い息子を抱きしめるアベル。
若くして亡くなった妻の遺影を持った息子と話す副村長のドーマス。
俺のところには村長とローズの両親が来てくれた。

「私は君を誇りに思うよ」

「村長が村の一員にしてくれなかったら今頃生きてませんよ」
と言うと「生きて帰ってくれ」と肩を叩かれた。

ローズの母からはローズはいまだに君の行為を信じたくないと言って部屋から出てこないと伝えられた。

そしてローズのお父さんからは「君が戦争から帰ってきたら…娘を頼む。だから絶対生きて帰ってきてくれ」と握手した。

最後に3人並んで村の入り口の門の前に立つと、
アベルが大きな声を上げた。

「俺たちが帰ってきたら盛大に迎えてくれ!
そして、また幸せに暮らそう!」
その言葉で村の人達が全員涙を流した。
そして盛大な拍手が鳴り響いた。

そして、アベルは村を門をくぐった。
続いてドーマスはお辞儀をして村の門をくぐった。
その後に俺が手を振って村の門をくぐろうとすると「サイ!」と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと走って向かってきたのはローズだった。
「生きて帰ってきなさいよ…」
そしてローズを抱きしめた。

「あぁ、必ず帰るよ」
そして門を出た。

その後すぐにローズからもらったリストバンドを握りしめた。




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