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「それからアキちゃんはその親戚の方が引き取ってもらうことになって、この町から離れたんだよ」
「じゃああの家は誰も住んでいないんですか?」
そう聞くと谷さんは「半分あっているね」と言った。
半分あっているとはどういう事なのだろうか。
「最初のうちはアキちゃんも楽しく学校に通っていたらしいんだが、それから1年が過ぎるとだんだん不登校気味になっていったんだよ」
アキは両親への想いが深い心の傷となっていた。
それが現れたのがアキが中学2年生の頃だという。
「あれは雨の日だったなぁ」
アキの家を見つめる谷さんの姿がこれから話す内容の
惨さを物語っていた。
「買い物からの帰り道に家の前の道路に入ると
アキちゃんの家の前に傘もささないセーラー服をきた女の子が立っていたんだ、
驚いたよ、まだ昼間で授業もやっているはずなのに」
そして谷さんはその女の子に話しかけたという。
「あの…この家になにか用ですか?」
女の子は振り向いた。
そのときにその女の子がアキだということがわかったらしいが、前よりも瘴気がなく今にも倒れてしまいそうなほど、目が虚ろだった。
谷さんはとにかくアキを家に入れて、濡れた髪を拭くためのタオルを用意したが、アキはただ自分の家を眺めていた。
これはまずいと思った谷さんはすぐにアキを引き取った親戚の家に電話をかけたらしい。
「アキちゃんが雨の中、傘もささずに昔住んでいた家の前で立っていたのですが、なにかあったんですか」
落ち着いた声でそう尋ねると、親戚は「今すぐ迎えに行く」と言い電話を切ったらしい。
アキはその日の前日から家出をしていて、捜索願まで警察に出すほどのことが起きていたのだった。
アキは親戚がきても話そうとしなかったので、谷さんが「アキちゃんおやつ食べるかい?」とアキがいつも谷さんの家にいる時に食べていたお菓子を出した。
するとアキは少しだけ反応したが、口を開くことはなく、親戚に連れられ帰っていった。
車の後ろの窓からいつまでも自分の家を眺めるアキの顔を見ながら手を振った。
それから1週間もしないうちにまたアキは家出をしたらしい。
しかし、アキの家に帰ってくることはなかった。
「それが事件の真相だよ」
それから数秒もたたないうちに谷さんは涙を流した。
「私はアキちゃんのことをなにも分かってあげられなかった。私はおじいちゃんのような存在としてアキちゃんのそばにいることしか出来なかった…」
慰めの言葉などなにも言えずただただ俺は谷さんのことを見つめることしか出来なかった。
すると、女の人の声がうっすら聞こえた。
「わ…は…う…れ…か…た」
空耳なのか本当に聞こえているものか判断できなかった。
すると谷さんは、「何か聞こえてこないか?」
とこの声が空耳ではなかったことが確信できた。
耳を澄ませてみると、何となくだが聞こえてきた。
しかし谷さんは何を言っているのかはわからず、呆然としていた。
「わたし…?」
谷さんは少しずつ辿々しい言葉が理解出来ているようだった。
すると、谷さんの目の前にあの日公園で見た黒い人影が見えた。
「アキ…!」
「アキちゃんがどうかしたのかい?」
どうやら谷さんはアキの姿を見ることはできなかったらしい。
そうなると先ほどから聞こえてくる声はアキのものなんだろうか。
すると谷さんの方を向いていたアキはこっちを向いて話しかけてきた。
「わかった」
そう返事をすると、アキの人影から少しだけアキの顔が見えた。
彼女は笑顔だった。それは一瞬の出来事にすぎなかった。
「あんまり信じて貰えないことかも知れないんですが…さっきから聞こえてくるのはアキの声で、見えないかも知れないんですけど谷さんの目の前にアキが立ってるんですよ」
「アキちゃんが立ってる…?」
説明のしようがなかった。
堂前寺さんは「アキは死んだわけではなく人から見えないだけだ」と言っていた。
その事自体正しいことなのかもわからなかった。
「その…何て言えば…」
言葉に詰まると谷さんはアキのいる方向に話しかけた。
「なら良かった、アキちゃん急に居なくなるから心配してたんだぞ?」
谷さんは微笑みかけた。
「君はアキちゃんのことが見えるのかい?」
そう問われたので「うっすら影が見える」と言うと「そうか」と頷いていた。
「谷さん、アキはあなたは血は繋がらないけど私の本当のおじいちゃんだったよ、ありがとうと…言ってます」
「そうか…それは嬉しいことだなぁ」
そう言うと谷さんからの目から涙が溢れ出した。
それから谷さんはアキの事情を深追いすることはしなかった。
アキの姿は見えずともアキがここに居るというのはわかるらしい。
それは、アキが近くにいると心が温かくなるかららしく、初めて出会ったときからその事は変わらないらしい。
アキの人影が居なくなると谷さんは「アキちゃんはもう居なくなってしまったんだね」と少し寂しそうな素振りを見せた。
谷さんにアキの事を知るにはアキの家に行くしかないと言われ、合鍵を預かった。
「アキちゃんを頼むね」
その言葉に背中を押されたような気がした。
「じゃああの家は誰も住んでいないんですか?」
そう聞くと谷さんは「半分あっているね」と言った。
半分あっているとはどういう事なのだろうか。
「最初のうちはアキちゃんも楽しく学校に通っていたらしいんだが、それから1年が過ぎるとだんだん不登校気味になっていったんだよ」
アキは両親への想いが深い心の傷となっていた。
それが現れたのがアキが中学2年生の頃だという。
「あれは雨の日だったなぁ」
アキの家を見つめる谷さんの姿がこれから話す内容の
惨さを物語っていた。
「買い物からの帰り道に家の前の道路に入ると
アキちゃんの家の前に傘もささないセーラー服をきた女の子が立っていたんだ、
驚いたよ、まだ昼間で授業もやっているはずなのに」
そして谷さんはその女の子に話しかけたという。
「あの…この家になにか用ですか?」
女の子は振り向いた。
そのときにその女の子がアキだということがわかったらしいが、前よりも瘴気がなく今にも倒れてしまいそうなほど、目が虚ろだった。
谷さんはとにかくアキを家に入れて、濡れた髪を拭くためのタオルを用意したが、アキはただ自分の家を眺めていた。
これはまずいと思った谷さんはすぐにアキを引き取った親戚の家に電話をかけたらしい。
「アキちゃんが雨の中、傘もささずに昔住んでいた家の前で立っていたのですが、なにかあったんですか」
落ち着いた声でそう尋ねると、親戚は「今すぐ迎えに行く」と言い電話を切ったらしい。
アキはその日の前日から家出をしていて、捜索願まで警察に出すほどのことが起きていたのだった。
アキは親戚がきても話そうとしなかったので、谷さんが「アキちゃんおやつ食べるかい?」とアキがいつも谷さんの家にいる時に食べていたお菓子を出した。
するとアキは少しだけ反応したが、口を開くことはなく、親戚に連れられ帰っていった。
車の後ろの窓からいつまでも自分の家を眺めるアキの顔を見ながら手を振った。
それから1週間もしないうちにまたアキは家出をしたらしい。
しかし、アキの家に帰ってくることはなかった。
「それが事件の真相だよ」
それから数秒もたたないうちに谷さんは涙を流した。
「私はアキちゃんのことをなにも分かってあげられなかった。私はおじいちゃんのような存在としてアキちゃんのそばにいることしか出来なかった…」
慰めの言葉などなにも言えずただただ俺は谷さんのことを見つめることしか出来なかった。
すると、女の人の声がうっすら聞こえた。
「わ…は…う…れ…か…た」
空耳なのか本当に聞こえているものか判断できなかった。
すると谷さんは、「何か聞こえてこないか?」
とこの声が空耳ではなかったことが確信できた。
耳を澄ませてみると、何となくだが聞こえてきた。
しかし谷さんは何を言っているのかはわからず、呆然としていた。
「わたし…?」
谷さんは少しずつ辿々しい言葉が理解出来ているようだった。
すると、谷さんの目の前にあの日公園で見た黒い人影が見えた。
「アキ…!」
「アキちゃんがどうかしたのかい?」
どうやら谷さんはアキの姿を見ることはできなかったらしい。
そうなると先ほどから聞こえてくる声はアキのものなんだろうか。
すると谷さんの方を向いていたアキはこっちを向いて話しかけてきた。
「わかった」
そう返事をすると、アキの人影から少しだけアキの顔が見えた。
彼女は笑顔だった。それは一瞬の出来事にすぎなかった。
「あんまり信じて貰えないことかも知れないんですが…さっきから聞こえてくるのはアキの声で、見えないかも知れないんですけど谷さんの目の前にアキが立ってるんですよ」
「アキちゃんが立ってる…?」
説明のしようがなかった。
堂前寺さんは「アキは死んだわけではなく人から見えないだけだ」と言っていた。
その事自体正しいことなのかもわからなかった。
「その…何て言えば…」
言葉に詰まると谷さんはアキのいる方向に話しかけた。
「なら良かった、アキちゃん急に居なくなるから心配してたんだぞ?」
谷さんは微笑みかけた。
「君はアキちゃんのことが見えるのかい?」
そう問われたので「うっすら影が見える」と言うと「そうか」と頷いていた。
「谷さん、アキはあなたは血は繋がらないけど私の本当のおじいちゃんだったよ、ありがとうと…言ってます」
「そうか…それは嬉しいことだなぁ」
そう言うと谷さんからの目から涙が溢れ出した。
それから谷さんはアキの事情を深追いすることはしなかった。
アキの姿は見えずともアキがここに居るというのはわかるらしい。
それは、アキが近くにいると心が温かくなるかららしく、初めて出会ったときからその事は変わらないらしい。
アキの人影が居なくなると谷さんは「アキちゃんはもう居なくなってしまったんだね」と少し寂しそうな素振りを見せた。
谷さんにアキの事を知るにはアキの家に行くしかないと言われ、合鍵を預かった。
「アキちゃんを頼むね」
その言葉に背中を押されたような気がした。
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