吸血鬼と不死の花

アビト

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第1章

練習

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魔術師クロノスが来てから、魔法を覚える日々が始まった。

「例えば、これを凍らせてみて?」
「はい。こうですか?」
浮かせてある水をパキッと凍らせてみる。
「いいよ~!この闇魔法に汚染された水を浄化してみて!」
「うーん、こうですか?」

光を放ち、闇にまみれた水が綺麗になる。

「やっぱり、光魔法は温かい。」
穏やかな顔をしたクロが言った。ちなみに、愛称のクロと呼ばせてもらっている。

「でも、これ以上の光魔法が使えないねえ」

そう…なのだ。他の炎や水、木などの魔法は大概はたやすく使えるようになった。かなり上達が早い方らしい。

私をじっと見つめた後、考え込むクロ。「感情。嬉しい、楽しい、ポジティブがカギ。だが、人によるものはかなり大きいから…」ぶつぶつと呟く。研究者みたい…。

「光魔法はとっても難しいんだ。」困った顔でクロが言った。
「どうして?」

「僕たち吸血鬼は、ほとんど光魔法が使えない。だから、教え方がわからないんだ。」
「光魔法が使えない?」
「そう。吸血鬼には、温かさがないんだ、体温的にも心的にも。」
「クロは吸血鬼なのに、光魔法が使えるの?」
「僕は、元吸血鬼なんだ。」
悲しそうな顔をして笑っていた。
「またこの話は今度しよう。」
ほら、といって見やるとアルノクスがやってきた。
「アル、ごはんの時間?」アルノクスも愛称で呼ぶ仲になった。
「そうだ。」


「なかなか上手くいっていないようだな。」
「ええ。光魔法というのは難しいものなのね。」
食事の時間が終わり、書斎のような部屋で話していた。
「…吸血鬼には未来がない。」
私を召喚した理由。詳しくは聞いたことがなかった。
「長らく吸血鬼はこの世界で栄えていたのだが、もうほとんど絶滅した。
生き血を飲むことは、罪ある事。だが、吸血鬼はそれを罪とも思わず飲み続ける。」
「罪と思わない…?つまり、傷つけても平気ってこと?」
「そうだ。かわいそうとか、助けたいという感情が湧かない冷たい種族なのだ。だから、光魔法が使えない。」
「しかし、私たちには光魔法がいる。
__浄化の力があれば、吸血鬼でなくすることができるのだ。つまり、生き血を吸わなくても生きることができる。」
「吸血鬼でなくする?」
「ああ。クロは特別な存在で、吸血鬼で唯一光魔法が使える奴だった。それを自分の浄化に使ったのだ。」
「えっ、でも光魔法は使えないって…」
「自分を吸血鬼でなくするために浄化の力を使い果たし、光魔法が使えなくなったのだ。」
「そんな…」

表情豊かなクロが光魔法が使えない理由。もともとは感情豊かな人だったのだろう。しかし、今は感情がないまま表情を作っていたということなのか…。

「私は生き血を飲まなくなって10年ほど経った。そろそろ寿命だ。」
呆れたように鼻で笑っていた。
「寿命…」
「俺はな、食事を何年もとっていない。割と力はある方だが、そろそろ終わりが見えている。死を受け入れるのは怖くない。」

死を受け入れる…。そんなの怖くないわけがない。私だって、勇気を振り絞って…あの日…。

「どうした?お前から闇魔力が溢れ出ている。」ふふっと笑うアル。闇魔法は自分の属性なため、慣れているらしい。

「アル。死が怖くないなんて嘘。誰だって怖い。私は…勝手なこと言うけど、最後まで諦めてほしくない。
…私のこと、食事にしてもいいから。生き延びさせてくれたアルに生きていてほしい。」

思いが溢れ出た。少しでも解放された生活を送れたのはアルおかげ。気づけばアルの冷たい手を握っていた。

すると。

私の手からまばゆい光があふれだし、私たちを包みこんだ。

「な…。」
それは、温かな心地よい空間を作り出した。

「温かい。」アルはそう呟いた。
「俺は、もう誰も食べない。もちろんお前もだ。」
そういうアルはふっと笑い、ありがとうと私の頭に手をのせた。
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