トンネルを抜けると、そこはあやかしの駅でした。

生と死のキズナ

4-5

　ちゃっちゃっちゃっ……と、尖った爪がコンクリートを蹴る音だけがホームに響く。
　風の音もカエルの合唱も全くない。それに、彼女の足音も。
　そうなんだ、あの人だけまるで足音がしない。狐に先導されて隣のホームへと向かっているというのに……

　オンボロホームへ2人が着くと、今度はまるでセンサースイッチが働いたかのように、電気がぱあっと一斉に点いた。
　急いで僕も身を隠す。2人に見つからないように。

　しかし……おかしいな。「基本的にここは使わないから」ってことで、この臨時ホームは電灯の交換すらしていなかったのに。今はまるで最新のLED照明に交換したばかりのように、眩しいほどの明るさだ。僕も一瞬目がくらんだほど。
　そしてら彼女が今腰掛けているベンチも、まるでそれ自体が発光素材で作られているかのように、暖かく光っている。　
　さっきまでは腐りかけた木製のベンチだったのに。

　彼女の隣にぴったりと寄り添う狐。2人の視線は下り方面のはるか先に向けられていた。

　そこは電灯ひとつない、真っ暗なトンネルの走る一本道だ。
　もちろんこんな時間にお客さんを扱う電車なんて来る予定はない。もちろん臨時の予定も、だ。

　じっと……2人は何一つ言葉を交わさないまま(当たり前だけど)どのくらい時が立ったのだろうか、トンネルのある暗闇から、突然パーンと警笛が鳴り響く音が聞こえた！ 空耳じゃない。確かに今のは警笛の短声だ！

　そして足元からはリズムある響き。
……カタンコトンと、それはだんだん大きさを増してくる。
　電車だ、こっちに近づいてきている！

　目を凝らすと、トンネルの奥から二つの光る目玉がゆっくりと迫ってきているのが分かった。

　でも……でも、ホームに停まったそれは、僕が知っている電車とは違っていた。
　それは先頭車両ーつまり、運転台ーが付いていなかった。要するに客車だけの車両が一台だけ。
　運転士が……いや、運転台が存在しなければ、もちろんこの客車の部分だって動かすことはできない。つまりはこの客車だけがずっと走ってきて、さらにはこの駅にきちんと停車までしている……そんなバカな！

　それに輪をかけるようにもっと不思議なこと。
　木製なんだ。床や天井、それに手すりに至るまでが。どう見たってこれ……十年、いや数十年くらい昔のタイプの車両だ。ヘタしたら戦前の博物館所蔵レベルの逸品かも。
　
　ベンチ同様、暖かな光に包まれている車内を見ると、先客らしき人たちが数人ばかり座っている。
　……うん。パジャマなんて着ている人なんて彼女だけかも。

　狐は目の前に停まった客車へ乗るようにと、また鼻先で彼女を誘導し始めた。

　……が、一向にベンチから立ち上がろうとはしない。
　それどころか、肩を小刻みに震わせ、泣いているようにも見えた。
　何故だろう。ここまで来たというのに、いきなり乗るのを拒むだなんて……
　僕は息を殺して、じっと彼女の動向を見守り続けた。