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生と死のキズナ

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 時計の針は23時を回っていた。

 今仕事しているこの駅は、最終電車が22時35分までしかない。それを見終えてからシャッターを閉め、事務所や線路の後点検を行い、そして駅構内全ての電気を消して、その日の業務は終わる。
 どんなに遅くとも23時までには帰れる……けど、今夜は一向に電気の切れる気配が無い。駅の照明は煌々とついたままだ。

 ……そんな僕はどこにいるかっていうと、ホーム向かい側の草むら。そこに身を隠している。
 いや、厳密に言うと、この駅のホームは通常使われているものの他に、その向かいに臨時電車用のホームがあるんだ。
とはいえ現在はほとんど使われることなく、手入れすらされていないアスファルトのひび割れからは雑草が生えていて、駅名看板も錆びまくっている。目を凝らしてようやく文字が判読できるくらいだ。
 そんなホームゆえに、その周りも草が伸び放題。僕が隠れるにはうってつけの場所だった。

 全ては……そう、今夜行われるであろう、村雨先輩の仕事をこっそり見てみたいがために、だ。

 結局、あれから先輩と駅長は何も教えてはくれなかった。それならば自分自身で確認してみよう。という結論に至ったんだ。
 もちろん、2人には内緒でね。

 本当ならばこんな事をするのって職務違反だろう。でもこれだけ不思議なことだらけの駅なのだし、この秘密のベールに包まれた案内番にしても、やはり何か壮大な秘密が……って。そうなったら好奇心の勝ちだ。もう盗み見るしかない。


 ……しかし、もう何度睡魔と戦ったことだろう。眠気覚ましのガムも底をつき、足元を照らすハンドライトもバッテリが切れかかってきた。

 今一度腕時計に目をやると、針はもう1時。
 前の職場以来長らく深夜の駅仕事をしていなかったせいもあるからか、時おりカクッと意識が飛びそうになる。
そろそろ限界かな……と身体が感じてきた、そんな時だった。

 駅の改札口を、人が通ったんだ。
 年齢は……うん。20代くらいかな。女の人がひとり。色白の肌に栗色のショート。
 まあ、それくらいなら何の変哲もないけれど、服装が……

 まるで病院に入院しているかのような、ゆったりとした薄ピンクのパジャマに、黄緑色のガウンを羽織っていて、足元はスリッパ履き。
 明らかに場違いな格好だ。
 まるでたった今病院から抜け出してきたかのような、そんな感じだ。

 彼女は窓口に目をやることもなく、そのまま改札からホームへと足を進めた。
たまに何かを探しているみたいに左右をキョロキョロ見回しつつ、ゆっくりベンチへと腰掛けた。

 ……なんなんだろう。もう終電はとっくに過ぎているし。
 彼女がいわゆる「見送り」のお客さんだということはもう分かるんだけど、でも……これから彼女はいったいどうするんだろう?
 まさかこのまま朝6時の始発までホームで待っているとか……?
 だからこんな時間にもかかわらず、駅の照明を点けたままにしているのだろうか。
 
 いや、そんなバカな! わざわざ1人だけのお客さんのためだけに臨時電車動かすだなんておかしすぎる。国賓とかならまだしもね。
 それにこんな深夜帯……
 まさか、やっぱり病院を脱走した人だとか?
 それの手助けをうちの会社がやっているとか?
 だとしたら、犯罪の片棒を担いでる……?

 そんなヤバい会社なのかなあ……
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