上 下
20 / 33
宝物と、山の子と。

3-2

しおりを挟む
 さて……と。子供たちと遊べとは言われても、いったいどんな遊びをすればいいのやら。寄さんに聞いてはみたものの、やっぱりかくれんぼとか鬼ごっこくらいしか思いつかなかったし。

 仕方ない、まずはみんなに会ってみるか。ということで制服のまま、僕はホームに向かった。

 ……が、誰もいない。
 つい1.2分前まではたくさんの声が聞こえていたというのに。
 ホームから外へ出て行ったのかな……と思い、ベンチからあれこれ探しては見たものの、やっぱり誰も、声すらしない。

「どこ行ったんだろ……電車だってまだ来ていないし」
「うわ、しゃべった!」その時だった。僕の独り言に反応してくれた子が。
 それに釣られるように出るわ出るわ。

ーなんだあいつ。
ーたえ様と話してたやつじゃ。
ーいつもの狐じゃないな。
ー梟ともちがう。
ーおれたちのこと見えるんか⁉︎

 柱から、生垣の中から、そしてホームの至る所から、まるで僕のことを観察でもするかのようにゆっくりと顔をのぞかせてきた。
 顔つきからして、まだ小学校低学年……から幼稚園生くらいかな。

 すると、そのうちの1人がそろり、そろりと僕の元へと近寄り、まるで犬のように鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いできた。
「え、なんか匂うのかな?」子供に匂いを嗅がれるなんて、ちょっと変な気分。
「お……おめえ、なにもんだ?」
 小学生にお前と言われるのはちょっとしゃくだけど、まあしょうがない。
「この駅に新しく来たんだよ」
「どっからだ?」
「ここから、うーん……電車で約2時間くらいかな」
 その言葉に、子供は首を傾げてしまった。距離的にピンとこないのかもしれない。
「つまり、おまえ……にんげんってことか⁉︎」
 そうだよ、としか答えようがなかった。
 それ以外にどういった選択肢が……って、やっぱり駅長がしゃべる猫だしなあ。例外もいるのか。

「「「にんげん⁉︎」」」

 すると突然、わあっという歓声と共にホーム中から子供たちが僕のもとに集まってきた。
「すげえ!おれらのことが視えるんか⁉︎」
「匂いもほかの奴らと全然変わらん!」
「おまえ、名前はなんというんじゃ?」
 もみくちゃにされながらも一つ一つ僕は質問に答えた。
 名前は志乃田正月。この駅に駅員の仕事に来たこと。
 そして、きちんとみんなのことは見えるよってこと。

「まさつき⁉︎まさつき言うんかおまえ」
「なあなあまさつき、一緒に遊ぼう!」
「今日は狐はおらんのか、あいつからかうと結構面白いのに」

 そういえば……狐ってさっきから言ってるけど、この駅に狐が出没するのかな?
「まさつき知らんのか?いつもそこで暇そうにしとる奴のこと。そいつが狐じゃ」と言って、一人が駅の窓口を指差した。

 よく分からないけど、山から狐が餌とかもらいに降りてくるのかな。と、とりあえず僕は無理やり納得した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

処理中です...