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プロローグ

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 一か月の研修の後、さっそく僕は駅へと配属された。

 いままでお客として駅は使ったことはあったけど、駅員としてお客を見るのなんて無論生まれて初めてだった。
 そして入社最年少は僕だけ。まあそれに関しては予想通りだった。成人してないのは僕だけ。

 それに……前にも話した通り、僕は背が若干低いのもあって、お客さんに「まあ、かわいい駅員さんね」と毎回のように言われてしまう。嬉しいんだか恥ずかしいんだか。

 いやいやそうじゃない。駅の話だ。
 まずは配属されて3か月ほど諸先輩方の下についていろいろ教えられる。
 これを「試雇」と呼ぶそうだ。いわゆるお試し期間とでもいうのだろうか……
 お試しとはいえやることはみんなと変わらないことだらけ。切符の料金とか清算の仕方はともかく、他会社線への乗り換え案内や近所のショッピングモールへの案内。果ては銀行の開店時間やらラーメン屋の場所まで……
 僕が思っていた駅員の仕事とは全然違うことばかりやらされる。別に不本意じゃあないんだけど、そう、理想と現実っていうのかな……

 一日で手帳が埋まっちゃうんじゃないかってくらい様々なことを学ばされた。
 切符の販売機、自動改札機が切符を詰まらせたときの修理の仕方、ダイヤを見て急行と普通とどっちが速いか……

「疲れたでしょ、覚えることいっぱいあるからね」
 僕の指導に就いてくれた先輩が、昼食のカレーを猛スピードでかきこみながらも笑顔で話してくれた。うん。ほんと笑顔の明るい先輩なんだ。
「でもマジで忙しいのはこれからだからね」

 さて、ホームに行ってマイク片手に列車監視。
「ま、まもなく5番線に〇〇行の普通……すいません快速電車が到着いたします。き、黄色い線の内側までお下がりください」
「ほらほら落ち着いて話しな。早口だとみんな聞き取れないよ」
「す、すいません」大失敗だ。マイクのスイッチ握ったまま謝ってた……心臓が口から出そうだ。

 そこそこ大きい鉄道会社ゆえに、配属される駅も比較的大きなとこが多い。
 僕が住んでたところより、たくさんの人が通って、乗って、そして降りて……
「大丈夫、こんなの慣れだよ慣れ。俺だって志乃田クンくらいの時は毎回バカやってたしね、それよかミスを精神的に引きずっちゃうことの方が重大だって、もっと気を楽に持ちな」
 とは言うものの、ね……

 早番は、まだ日の上らないうちから出勤して、駅を「起動」させることから始まって、
 遅番は逆に、夕方から出勤して、最終列車を見届けて全部の駅のスイッチを切るところまで。

 いずれにせよ、たまの休日もずっと寝てばかりだった。こんなことなら運動部に入って基礎体力とかきっちりつけとけばよかったな、なんて後の祭り。

 気が付いたら、カレンダーをもう3枚破り捨てていた。

 試雇期間はなんだかよく分からないうちに終わりを告げ、これからは正社員として……
 どこの駅に配属されるんだろう。
 お客さんがいい人ばかりのところがいいな、ここ酔っ払いが多すぎて遅番は毎回怖い思いしていたし。
 電車が遅れても響かないところがいいな、ここ電車遅延ですぐパニック状態になるし。
 そう、できたら忙しくないところ。

 でも事務所へ行ったとき、異動通知の張り出しの掲示板に僕だけ名前がなかった。
 え、どういうこと……? 自分が何かやらかした……とか⁉
 とどめに事務の先輩が「志乃田、駅長が呼んでるよ」って。
 ちょ……なんなんだよ一体!!
 直々に呼び出されたという恐怖で頭の中がグルグル回る中、僕は駅長室の重厚なドアをノックした。

「志乃田……正月くんか。周りからは結構頑張ってるって聞いてるよ」
 定年間近の白髪の駅長がゆっくりと僕に話しかけてきた。
 この話し方からして解雇とかじゃない気がする……でもなんだろうこの不安は。
 駅じゃないとこに飛ばされるとかなのかな、いやだ、それだけは絶対に!

「まことに恐縮なんだが、君に出向をお願いしようと思ってね」

 しゅっ……こう? なんだろう、初めて聞く言葉だ。
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