12 / 18
第一章 失くした記憶と巡り会う運命
12. 魔術書
しおりを挟む
朝食を食いはぐれてなるものかと二人を起こし(クロは低血圧らしく、寝起きが悪くて大変だった)なんとか食堂にたどり着いた。
朝食は焼き立てのふわふわなパンに自家製のジャム、カリカリに焼いたベーコン、絶妙な味つけの炒り卵、青野菜のサラダやじゃがいものポタージュなど、どれも素材の味を活かした心のこもった料理で、朝から大満足だった。
部屋に戻ろうとすると、宿の女将さんが「がんばんな!」という激励の言葉とともに、三人それぞれに紙包を渡してくれた。中を見てみるとサンドイッチと自家製ジュースのビンが入っていた。
これ、絶対おいしいやつ!
みんなで女将さんにお礼を言い、ホクホクで部屋に戻った。
「約束の時間までしばらく時間があるな。どうする?」
「街を見て回るとか?」
「ぼく、お店に行きたい!ミツキとクロの魔法の杖を買わないとだし、ぼくも魔術書がほしいな」
「よし、では街を見て回りながら店を覗いてみようか」
「さんせー!」
女将さんに見送られて宿を出発し、街の中心部へ向かってしばらく歩くと、目抜き通りにたどり着いた。武器屋、魔術用品店などが店を構えており、冒険者として活動するにあたり必要なものは一通り揃えることができそうだ。僕たちはまず、魔術用品店を覗いてみた。
「わ~!」
店内には所狭しと様々な魔術用品が展示されている。中には瓶の中で溶液漬けにあやしげな肉塊など、無気味なものも……
アルシュは目を輝かせて店内を見回している。
「すごいね!ぜ~んぶ欲しくなっちゃう!」
「何をお探しでしょうか?」
声をかけてきた店員に相談し、ちょうどいい品物を見繕ってもらった。冒険者ギルドで明日仕事の予定だと告げると、値段をおまけしてくれた。お礼を言って、店を出た。
「かなりまけてもらえたね」
「ね!得しちゃったね。早く読みたいな~」
アルシュは先ほどの店で買った二冊の魔術書を胸に抱えていた。一冊は四大元素魔法基礎学、もう一冊は弓使いのための魔法応用術だ。クロも二冊の魔術書を手に入れていた。一冊はアルシュと同じ四大元素魔法基礎学、そしてもう一冊は治癒魔法基礎学の魔術。僕が手に入れた……というか、アルシュにお金を借りて買ったのは一冊。クロと同じ、治癒魔法の魔術書だ。
「この本を読み終えたときには、魔法が使えるようになってるのかなあ……」
「どうだろう。魔法を学ぶための学校もあるらしいから、誰でもすぐに習得できるというものではないだろう」
「そ、そうなんだ……」
「だが、明日には仕事が控えている。アルシュは弓が扱えるからいいが、私たちは……」
「護衛任務だよね……魔法が使えなかったら、できること、と言えば身を挺して盾になるくらいしか……」
「ううむ……魔法が習得できなかった場合は、接近戦用の装備を揃えなければならないか……」
「接近戦……」
魔物とガチで戦うなんて……手のひらに乗るサイズの昆虫ですら倒せるかどうか微妙なのに……?というか、まだ魔物を直に見たこともないんだけれど……
「ふたりとも、心配しすぎだよ~。大丈夫!クロとミツキならすぐに使えるようになるよ」
「ありがと、アルシュ。そうだといいんだけどなあ……」
それから僕たちは公園に行き、お昼のサンドイッチを食べながら魔術書を読むことにした。昨日の夕食や今朝の朝食時は会話が絶えなかったが、いまは魔術書を読むため各々集中している。
この魔術書、厚さが辞書くらいあるんだけど……勉強って苦手なんだよなあ……
ページを開くと、見慣れない文字の羅列が目に飛び込んできた。
ああ~!そうだった……まず、文字を読むのですら、すごく時間がかかるんだった……これを今日中に⁉︎無理でしょ……
「ファイア!」
「え……?」
クロの呪文を唱える声が聞こえた。まさか……
背後を振り返ってみると、いつの間に集めたのか、木の葉の塊が燃えて焚き火となっていた。薪の正面には杖を構えたクロの姿。
「クロ、すごーい!」
「もう魔法が使えたの……⁉︎早すぎだろ‼︎」
「まあ……元々おおかたの理論は覚えていたんだ。だが、魔法を使うには体に流れる魔力の流れを意識しなければならない。そこさえ抑えることができれば……という状態だった。そして、そのやり方というかコツがこの魔術書に記されていたんだ」
そういえば、クロは昨日、街へ向かう道中でも魔法を使おうとしていた。そのときはあと一歩で、惜しかったんだっけ……
「本当にすごいよ!魔術書をほんのちょっと読んだだけで魔法を使えるようになるなんて……」
「う、うん……さすがクロだ」
「まずは第一歩というところだが……二人とも、ありがとう」
クロは目を細めて嬉しそうに微笑った。普段はつり目がちのきつい眼差しが、いまは穏やかに和らいでいrじゅ。
「クロ……お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「もし、時間が余ってたらでいいんだけど、僕に魔法の使い方を教えてくれない……?」
「もちろん、かまわない」
「あっ、そっか!ミツキは文字を読むのが苦手だったんだ……ぼくもミツキを手伝うよ」
「アルシュ……!ありがとう‼︎」
「私も協力を惜しまない。打ち合わせを終えて宿に戻ったら、さっそく取り掛かることにことにしよう」
「二人とも……っ!ありがとう~!」
仲間想いなクロとアルシュは頼もしく、もしかしたら今日中に……?なんて希望が湧いてきていた。気持ちを持ち直したところで、僕たちは公園から冒険者ギルドへと向かう。明日の任務の打ち合わせに出席するためだ。 ギルドの中に入ると、出入り口付近でルークが待っていてくれた。
「おう!」
「ルーク!」
「奥の個室を押さえてある。そっちで依頼人を待とう」
個室に通されてから程なくして、依頼人である初老の男性が、ギルドの職員に案内されて現れた。職員から紹介を受けた依頼人、ローウェル氏は人の良さそうな中年男性だ。
朝食は焼き立てのふわふわなパンに自家製のジャム、カリカリに焼いたベーコン、絶妙な味つけの炒り卵、青野菜のサラダやじゃがいものポタージュなど、どれも素材の味を活かした心のこもった料理で、朝から大満足だった。
部屋に戻ろうとすると、宿の女将さんが「がんばんな!」という激励の言葉とともに、三人それぞれに紙包を渡してくれた。中を見てみるとサンドイッチと自家製ジュースのビンが入っていた。
これ、絶対おいしいやつ!
みんなで女将さんにお礼を言い、ホクホクで部屋に戻った。
「約束の時間までしばらく時間があるな。どうする?」
「街を見て回るとか?」
「ぼく、お店に行きたい!ミツキとクロの魔法の杖を買わないとだし、ぼくも魔術書がほしいな」
「よし、では街を見て回りながら店を覗いてみようか」
「さんせー!」
女将さんに見送られて宿を出発し、街の中心部へ向かってしばらく歩くと、目抜き通りにたどり着いた。武器屋、魔術用品店などが店を構えており、冒険者として活動するにあたり必要なものは一通り揃えることができそうだ。僕たちはまず、魔術用品店を覗いてみた。
「わ~!」
店内には所狭しと様々な魔術用品が展示されている。中には瓶の中で溶液漬けにあやしげな肉塊など、無気味なものも……
アルシュは目を輝かせて店内を見回している。
「すごいね!ぜ~んぶ欲しくなっちゃう!」
「何をお探しでしょうか?」
声をかけてきた店員に相談し、ちょうどいい品物を見繕ってもらった。冒険者ギルドで明日仕事の予定だと告げると、値段をおまけしてくれた。お礼を言って、店を出た。
「かなりまけてもらえたね」
「ね!得しちゃったね。早く読みたいな~」
アルシュは先ほどの店で買った二冊の魔術書を胸に抱えていた。一冊は四大元素魔法基礎学、もう一冊は弓使いのための魔法応用術だ。クロも二冊の魔術書を手に入れていた。一冊はアルシュと同じ四大元素魔法基礎学、そしてもう一冊は治癒魔法基礎学の魔術。僕が手に入れた……というか、アルシュにお金を借りて買ったのは一冊。クロと同じ、治癒魔法の魔術書だ。
「この本を読み終えたときには、魔法が使えるようになってるのかなあ……」
「どうだろう。魔法を学ぶための学校もあるらしいから、誰でもすぐに習得できるというものではないだろう」
「そ、そうなんだ……」
「だが、明日には仕事が控えている。アルシュは弓が扱えるからいいが、私たちは……」
「護衛任務だよね……魔法が使えなかったら、できること、と言えば身を挺して盾になるくらいしか……」
「ううむ……魔法が習得できなかった場合は、接近戦用の装備を揃えなければならないか……」
「接近戦……」
魔物とガチで戦うなんて……手のひらに乗るサイズの昆虫ですら倒せるかどうか微妙なのに……?というか、まだ魔物を直に見たこともないんだけれど……
「ふたりとも、心配しすぎだよ~。大丈夫!クロとミツキならすぐに使えるようになるよ」
「ありがと、アルシュ。そうだといいんだけどなあ……」
それから僕たちは公園に行き、お昼のサンドイッチを食べながら魔術書を読むことにした。昨日の夕食や今朝の朝食時は会話が絶えなかったが、いまは魔術書を読むため各々集中している。
この魔術書、厚さが辞書くらいあるんだけど……勉強って苦手なんだよなあ……
ページを開くと、見慣れない文字の羅列が目に飛び込んできた。
ああ~!そうだった……まず、文字を読むのですら、すごく時間がかかるんだった……これを今日中に⁉︎無理でしょ……
「ファイア!」
「え……?」
クロの呪文を唱える声が聞こえた。まさか……
背後を振り返ってみると、いつの間に集めたのか、木の葉の塊が燃えて焚き火となっていた。薪の正面には杖を構えたクロの姿。
「クロ、すごーい!」
「もう魔法が使えたの……⁉︎早すぎだろ‼︎」
「まあ……元々おおかたの理論は覚えていたんだ。だが、魔法を使うには体に流れる魔力の流れを意識しなければならない。そこさえ抑えることができれば……という状態だった。そして、そのやり方というかコツがこの魔術書に記されていたんだ」
そういえば、クロは昨日、街へ向かう道中でも魔法を使おうとしていた。そのときはあと一歩で、惜しかったんだっけ……
「本当にすごいよ!魔術書をほんのちょっと読んだだけで魔法を使えるようになるなんて……」
「う、うん……さすがクロだ」
「まずは第一歩というところだが……二人とも、ありがとう」
クロは目を細めて嬉しそうに微笑った。普段はつり目がちのきつい眼差しが、いまは穏やかに和らいでいrじゅ。
「クロ……お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「もし、時間が余ってたらでいいんだけど、僕に魔法の使い方を教えてくれない……?」
「もちろん、かまわない」
「あっ、そっか!ミツキは文字を読むのが苦手だったんだ……ぼくもミツキを手伝うよ」
「アルシュ……!ありがとう‼︎」
「私も協力を惜しまない。打ち合わせを終えて宿に戻ったら、さっそく取り掛かることにことにしよう」
「二人とも……っ!ありがとう~!」
仲間想いなクロとアルシュは頼もしく、もしかしたら今日中に……?なんて希望が湧いてきていた。気持ちを持ち直したところで、僕たちは公園から冒険者ギルドへと向かう。明日の任務の打ち合わせに出席するためだ。 ギルドの中に入ると、出入り口付近でルークが待っていてくれた。
「おう!」
「ルーク!」
「奥の個室を押さえてある。そっちで依頼人を待とう」
個室に通されてから程なくして、依頼人である初老の男性が、ギルドの職員に案内されて現れた。職員から紹介を受けた依頼人、ローウェル氏は人の良さそうな中年男性だ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
刻印術師のやり直し
夜桜蒼
ファンタジー
悪の組織に所属するアノンは自身が作りだした魔術を悪用され一国を滅ぼした。二度と同じ過ちを繰り返させないため、研究成果と共に自身の命を絶つ決断をする。
復讐に身を捧げ、利用され続けた日々。後悔の連鎖に苛まれた短い生涯に終わりが訪れる。
――そして目が覚めると少年時代へと戻っていた。
アノンは後悔し続けた人生をやり直し、自身の望みを叶えるために動き出す――。
カクヨムにも投稿中
R4/1/31 タイトル変更。内容変更。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる