1 / 18
第一章 失くした記憶と巡り会う運命
1. 目が覚めたら
しおりを挟む
目を開けると、雲一つない青空が広がっていた。
近くで水の流れる音。少し遠くの方からは、鳥の可愛らしい囀りが聞こえてくる。
なんていい天気なんだろう——
——そういえば……
ここは、どこなんだ——?
草の上で仰向けに横たえていた上体を起こし、辺りを見回した。
見晴らしがいいなあ……丘の上だろうか。すぐ近くに小さな小川が流れているのを見つけた。そよそよと、穏やかな風が吹いている。
たしか……今日は面接が二件入っていて、どうにかこうにか終わらせて、家に帰るために電車に乗って……
——あれ?
それからの記憶がまったく思い出せない。
うそだろ——⁉︎
背筋に悪寒が駆け抜けるのを感じた。
あっ——そうか!
これは夢か……
僕は目を瞑り、早く覚めてくれ、と心から祈った。
これは夢だこれは夢だこれは夢だ……
どうしよう……覚めない……
もう一度草の上に身を横たえても、意識はハッキリとしたままだった。
「夢じゃない……? 現実?」
起き上がり、恐る恐る目を開けた。
淡い期待は裏切られ、僕はさっきとまったく同じ場所にいた。相変わらず、そよそよと心地のよい風が吹いている。
チチチ……小鳥の囀り。
「ハア——?」
夢じゃない? 現実? 一体何が起こった⁉︎ 目が覚めたら知らない場所にいたって……記憶喪失⁉︎
いや——名前も年齢も、昨日の夕食も覚えている。ただ、なぜここにいるのか、どうやってここに来たのか、その記憶はどうやっても思い出せなかった。
やばい……どうしよう。とりあえず、ここはどこなんだ。——そうだ!
立ち上がり、服のポケットを探ったが、ハンカチ以外何も入っていなかった。ちなみに服装はというと、上は襟付きの白いシャツと紺色の薄手のセーター、ベージュのパンツ、靴は黒のスニーカーを履いていた。
「うそだろ……」
スマホどころか、小銭一つ持っていないなんて、そんな……
もう一度辺りを見回すも、人の手による建造物はひとつも見当たらない。遠くの方には、霞んだ山々が見えるだけだった。
「き、きっと——何とかなるはず……パニクっちゃダメだ。落ち着こう……そうだ、深呼吸——」
自分を落ち着かせるためにに独り言を呟いていたせいか、誰かがこちらへ近づいて来る足音に直前まで気づかなかった。
すぐそばから聞こえた、草を踏みしめる足音にハッとして振り返った。
そこにいたのは外国人の少年だった。金色の髪が陽の光を受けてきらきらと輝いている。スクリーンの中から抜け出してきたような整った顔立ち。肌は透き通るように白く、頬や唇は健康的に赤く色づいている。くりっとした琥珀色の大きな目が、上目遣いにこちらをじぃっと見つめていた。
やっぱりここは、海外なのか……?
こういうとき、なんて言ったらいいんだろう。もっと英語を勉強しておけばよかった……
「あの……大丈夫?」
どう見ても外国人の美少年の口から出たのは、流暢な発音の日本語だった。変声期前のボーイソプラノが可愛らしい。
「……あ、ええっと……」
少年の重たげなまつ毛は髪と同じ金色だった。どう見ても日本人の見た目じゃないけれど……あ、日本で生まれ育った子なのかなあ。
ということは、ここは日本?
少年はゆっくりした足取りで、こちらへと歩み寄ってきた。
「お兄さん、何か困ってる? 僕にできること、ある?」
なっ……いい子っ——!
「あ、ありがとう! それじゃ、悪いんだけれど……スマホ持ってたら貸してくれる?」
「すまほ?」
少年は首を横に傾げた。身長は150㎝より少し低いくらいだから……歳は小学校高学年くらい? そのくらいだと、持ってない子もいるのか……?
「ぼく、すまほ? 持ってないよ」
「ああ、そっか……」
持ってないか……どうしよう……
「あの……すまほってなに?」
「え?」
スマホを知らない? 小学生が?
「ここって……日本だよね?」
「にほん……? ちがうよ」
「え……?」
「ここは、ルフェーブル王国のモネルの村だよ」
「ルフェーブル王国……?」
聞いたことのない国名だ。
「ええっと……響きから察するに、ヨーロッパだよね……?」
少年は、困ったように首を傾げた。
「ヨーロッパ? 違うよ。ルフェーブル王国はアーヴィング連合の加盟国のひとつで、エルフの王様が治める国だよ」
エルフ——?
とがった耳を持ち、人間よりも寿命の長い種族。
でも、実在しているわけじゃない。人間が空想した、ファンタジー世界の産物だ。
そんな——
金髪の隙間から覗いている少年の耳の先は、ツンと尖っていた。
じゃあ、ここは……
異世界——!⁉︎?
少年は日本人どころか、人間でもなかった。
ファンタジーの定番種族、エルフだったのだ——
近くで水の流れる音。少し遠くの方からは、鳥の可愛らしい囀りが聞こえてくる。
なんていい天気なんだろう——
——そういえば……
ここは、どこなんだ——?
草の上で仰向けに横たえていた上体を起こし、辺りを見回した。
見晴らしがいいなあ……丘の上だろうか。すぐ近くに小さな小川が流れているのを見つけた。そよそよと、穏やかな風が吹いている。
たしか……今日は面接が二件入っていて、どうにかこうにか終わらせて、家に帰るために電車に乗って……
——あれ?
それからの記憶がまったく思い出せない。
うそだろ——⁉︎
背筋に悪寒が駆け抜けるのを感じた。
あっ——そうか!
これは夢か……
僕は目を瞑り、早く覚めてくれ、と心から祈った。
これは夢だこれは夢だこれは夢だ……
どうしよう……覚めない……
もう一度草の上に身を横たえても、意識はハッキリとしたままだった。
「夢じゃない……? 現実?」
起き上がり、恐る恐る目を開けた。
淡い期待は裏切られ、僕はさっきとまったく同じ場所にいた。相変わらず、そよそよと心地のよい風が吹いている。
チチチ……小鳥の囀り。
「ハア——?」
夢じゃない? 現実? 一体何が起こった⁉︎ 目が覚めたら知らない場所にいたって……記憶喪失⁉︎
いや——名前も年齢も、昨日の夕食も覚えている。ただ、なぜここにいるのか、どうやってここに来たのか、その記憶はどうやっても思い出せなかった。
やばい……どうしよう。とりあえず、ここはどこなんだ。——そうだ!
立ち上がり、服のポケットを探ったが、ハンカチ以外何も入っていなかった。ちなみに服装はというと、上は襟付きの白いシャツと紺色の薄手のセーター、ベージュのパンツ、靴は黒のスニーカーを履いていた。
「うそだろ……」
スマホどころか、小銭一つ持っていないなんて、そんな……
もう一度辺りを見回すも、人の手による建造物はひとつも見当たらない。遠くの方には、霞んだ山々が見えるだけだった。
「き、きっと——何とかなるはず……パニクっちゃダメだ。落ち着こう……そうだ、深呼吸——」
自分を落ち着かせるためにに独り言を呟いていたせいか、誰かがこちらへ近づいて来る足音に直前まで気づかなかった。
すぐそばから聞こえた、草を踏みしめる足音にハッとして振り返った。
そこにいたのは外国人の少年だった。金色の髪が陽の光を受けてきらきらと輝いている。スクリーンの中から抜け出してきたような整った顔立ち。肌は透き通るように白く、頬や唇は健康的に赤く色づいている。くりっとした琥珀色の大きな目が、上目遣いにこちらをじぃっと見つめていた。
やっぱりここは、海外なのか……?
こういうとき、なんて言ったらいいんだろう。もっと英語を勉強しておけばよかった……
「あの……大丈夫?」
どう見ても外国人の美少年の口から出たのは、流暢な発音の日本語だった。変声期前のボーイソプラノが可愛らしい。
「……あ、ええっと……」
少年の重たげなまつ毛は髪と同じ金色だった。どう見ても日本人の見た目じゃないけれど……あ、日本で生まれ育った子なのかなあ。
ということは、ここは日本?
少年はゆっくりした足取りで、こちらへと歩み寄ってきた。
「お兄さん、何か困ってる? 僕にできること、ある?」
なっ……いい子っ——!
「あ、ありがとう! それじゃ、悪いんだけれど……スマホ持ってたら貸してくれる?」
「すまほ?」
少年は首を横に傾げた。身長は150㎝より少し低いくらいだから……歳は小学校高学年くらい? そのくらいだと、持ってない子もいるのか……?
「ぼく、すまほ? 持ってないよ」
「ああ、そっか……」
持ってないか……どうしよう……
「あの……すまほってなに?」
「え?」
スマホを知らない? 小学生が?
「ここって……日本だよね?」
「にほん……? ちがうよ」
「え……?」
「ここは、ルフェーブル王国のモネルの村だよ」
「ルフェーブル王国……?」
聞いたことのない国名だ。
「ええっと……響きから察するに、ヨーロッパだよね……?」
少年は、困ったように首を傾げた。
「ヨーロッパ? 違うよ。ルフェーブル王国はアーヴィング連合の加盟国のひとつで、エルフの王様が治める国だよ」
エルフ——?
とがった耳を持ち、人間よりも寿命の長い種族。
でも、実在しているわけじゃない。人間が空想した、ファンタジー世界の産物だ。
そんな——
金髪の隙間から覗いている少年の耳の先は、ツンと尖っていた。
じゃあ、ここは……
異世界——!⁉︎?
少年は日本人どころか、人間でもなかった。
ファンタジーの定番種族、エルフだったのだ——
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
導きの暗黒魔導師
根上真気
ファンタジー
【地道に3サイト計70000PV達成!】ブラック企業勤めに疲れ果て退職し、起業したはいいものの失敗。公園で一人絶望する主人公、須夜埼行路(スヤザキユキミチ)。そんな彼の前に謎の女が現れ「承諾」を求める。うっかりその言葉を口走った須夜崎は、突如謎の光に包まれ異世界に転移されてしまう。そして異世界で暗黒魔導師となった須夜埼行路。一体なぜ異世界に飛ばされたのか?元の世界には戻れるのか?暗黒魔導師とは?勇者とは?魔王とは?さらに世界を取り巻く底知れぬ陰謀......果たして彼を待つ運命や如何に!?壮大な異世界ファンタジーが今ここに幕を開ける!
本作品は、別世界を舞台にした、魔法や勇者や魔物が出てくる、長編異世界ファンタジーです。
是非とも、気長にお付き合いくだされば幸いです。
そして、読んでくださった方が少しでも楽しんでいただけたなら、作者として幸甚の極みです。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる