禁断の魔術と無二の愛

くー

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17話

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「ふふ……」
「ん? どうかした?」
「マーサおばさん、変わってないなと思って」
「あぁ……さすがにさっきのはちょっと鬱陶しかったよな」
「そんなことはないさ。私にはもう母がいないからかな……嬉しいんだ」
「セシル……」
 マシューはセシルの表情をこっそりと窺う。少し寂しげに微笑む幼馴染の面持ちを目にし、マシューは眉根を軽く寄せた。
「でもそれ、かあさんの前では言わない方がいいかもな」
「どうしてだい?」
「お前の家にまで押しかけて来るようになってもいいんなら、言えばいいけどさ」
「それは……遠慮してもらえると助かる……かな」
「だろ?」
 しばらく談笑しながら歩いていると、やがてセシルの住居である村外れに建てられた魔術師塔へとたどり着いた。
 セシルが魔術で造り出した土人形、ゴーレムたちにより、数日の内にあっという間に建てられた塔は、四階ほどの高さがあり、村にあるどの建物と比べても見劣りしていない。硬そうな灰色の石が隙間なく積まれ、しっかりと造られていた。
「これをたった五日で建てられちゃうんだからなあ……ゴーレムって……魔術ってすごいな」
「確かに便利だ」
「気になってたんだけどさ……」
「なんだ?」
「実は、セシルって、すごい魔術師なのか?」
「いや……私より優れた魔術師など、王都にはざらにいた」
「そうなのか!? はあぁ……」
「どうしたのだ。溜め息など吐いて」
「いやぁ……世界は広いんだなぁって思ってさ。俺は生まれてこのかた村からほとんど出たことないから、世間知らずなんだろうなあ」
「そうとは限らないだろう。環境は違えど、やっていることは大概どこも同じだ」
「なるほどなあ」
「……まさか、村を出たいのか?」
「俺が? そんなわけないだろ。せっかくお前と、また会えたっていうのに」
「そうか。ならいいんだが……」
 マシューの言葉を聞いたセシルは、内心ホッと胸を撫で下ろした。
「俺のことよりお前のことだよ。村の魔術師としてやっていくって言うけど、具体的には何をするんだ?」
「ああ……魔術学院の授業で習った限りでは、小さな村での魔術師の役割は、病や怪我に効く薬を煎じてやったりするのものらしい」
「なんか医者みたいだな。この村には医者も魔術師もいないし、ちょうどよさそうだな。それにしても、魔術学院ってのは何でも教えてくれるんだな」
「魔術師は面倒事を背負わせられやすいから、用心せよと教わった」
「面倒事って?」
「誰彼に呪いをかけてほしいだとか、魔物を倒してほしいだとか……そういった危険を伴う依頼だな。それから、人の手でもできる作業や労働は魔術で代替すべきではない、と教えを受けている。まったく……先人たちの苦労が偲ばれるよ」
「確かに……。あの土人形といい、魔術って便利だからなあ」
 マシューは感慨深げに頷いた。
「じゃあ……俺に手伝えることってあんまりない?」
「ああ……薬の材料も揃っているし、手は足りている」
「そうか……いや、待てよ」
 マシューは何か閃いたようで、ポンっと手を打った。
「あるだろ、やること!」
「えっ……? 何だろうか」
「宣伝だよ、宣伝。せっかく役に立つ薬を作っても、買いに来る客がいないと始まらないだろ?」
「ああ、なるほど」
「しょうがねえな。俺が村のみんなに宣伝しといてやるよ。やっぱ酒場がいいかな」
「正直、それは失礼助かるな」
「へへっ。そうだろ? あ、そういえば、薬の値段とかも聞いておいた方がいいよな」
「確かに……だが、まだそういった細かいことは決めていないんだ」
「なんだよー……まあ、こっちに越してきたばかりなんだし、そりゃそうか」
「いや……考えておくべきだった」
「大丈夫だって! ゆっくりやってけばいい」
「そうだな」
「俺も手伝ってやるんだし……そうだ、ビラを作ってやるよ」
「ビラ……?」
「紙くれ、紙! あとなんか書くものも」
 マシューは書き物机に据えられた椅子に腰を落ち着ける。セシルは数枚の紙とペン、インクを渡した。
「うーん……魔術師セシルの魔法薬屋、新規開店ってとこか?」
 紙に文字を書きつけていくマシューに、セシルは目を見張った。
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