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11話*
しおりを挟む「しかし、どう考えても兄貴は尻に敷かれるだろうな」
「ああ、いいんじゃないか。すごく嬉しそうにしていたし」
「ははっ……だよなぁ」
ふたりは夜道をゆっくりと歩いていた。今夜の空には雲が出ていて、星は隠れ、月は靄のような雲の中からぼんやりと淡い光を滲ませていた。
マシューはセシルの黒衣から覗く白い手を、そっと掴んだ。
「……!」
「急に冷え込んできたよな、大丈夫か?」
「ああ……」
マシューは力を込め、日々の労働で荒れたマシューの手とは、比べものにならないほど柔らかな手を、やさしく包んだ。
「俺はちょっと寒い」
「……そうか?」
「セシル……あっためてくれる?」
顔を上げ、セシルはマシューと目を合わせた。熱に浮かされたような目を向けるマシューにセシルは戸惑いの声を上げた。
「……なっ!? なんだ、それは……」
「こっち……」
マシューはセシルの手を引き、道から逸れて木立の方へといざなった。
セシルはマシューの意図に感づき、抗議の声を上げた。
「こんなところで、何をする気なんだ!?」
「痺れ薬の見返りを貰いたいなって」
「くっ……あと5分もしないで塔に着くだろっ……なぜ、こんなところで……」
マシューはセシルをうしろから抱きしめ、耳元で囁いた。
「待てない」
「……っ!」
低い声と共に耳をくすぐる熱い吐息に、セシルの背筋はぞくりと粟立った。うしろから重なるマシューの身体は酔いゆえか、いつもよりも熱く感じられた。
マシューは一際大きな楢の木の下までセシルを導くと、ランタンの灯を消し地面に置いた。
それから、長いローブの合わせを解き、中に着込んでいる黒いシャツの裾から手を差し入れ、滑らかな肌をゆっくりとなぞり出す。浮いた肋を辿り、胸へと至った荒れた指先は、慎ましやかな赤い飾りをやさしく揉みこむ。
(ああ……っ!)
セシルは木の幹に手を付き、口をついて出そうになる声を飲み込んだ。陽はとうに落ち、辺りは闇に包まれていたが、誰が通るとも知れない道が声の届く距離にある。
(誰かに見られたら、身の破滅だ!)
必死に声を抑えるセシルをよそにマシューの指先は容赦なくセシルを追い込み、胸の飾りはぷっくり膨らんでいた。マシューはセシルの身体の向きを変えシャツをたくし上げると、身をかがめて胸元へ顔を埋め、胸の頂きをちろりと舐め上げた。
「あっ……!」
思わぬ刺激に堪えきれず、高い声を上げてしまったセシルは、両の手のひらで口元を覆い、固く目を瞑った。
「気持ちいい?」
木の幹へ身を預け、かぶりを振るセシルにマシューは、「本当に?」と言葉を返し、尖ったそこへの舌での愛撫を再開した。たっぷりと唾液を絡め、ぴちゃぴちゃと猫がミルクを舐めるような音が、静かな夜のあわいに融けていく。
セシルの口を覆った指の間から漏れ出たあえかな声に、マシューは耳を澄ませる。
——好きだ。
こみ上げる愛しさにより脳裏に浮かぶ言葉を口にできないことをマシューはもどかしさを感じ、赤く色づくそこに歯を立てた。
「あぁ……っ!」
想い人の感じ入った声に、マシューは顔を上げた。口元を抑えたセシルの濡れた目と視線が合い、マシューは釘付けになるが、セシルはすぐに顔を横へと背け、固く目を瞑った。
——明かりがないのが、残念だ。
と、マシューは内心で独り言ちた。白い肌に朱が落ちたときの色香を眼裏に浮かべながら、マシューはセシルの下肢を覆う衣服へと手をかける。
もつれる指で腰帯を緩め、下衣と下着を一緒に落とすと、闇の中に淡く光を放つような真っ白な腿と——。
「み、見るなっ!」
身体の中心へと顔を近づけるマシューの気配を察し、セシルは鋭い声を発して彼を制した。
「舐めてやろうかと」
「なっ……! 必要ないだろ、そんなこと」
「えーっ?」
「明日は早朝から作業がある。早く終わらせろ」
冷たい言葉にマシューは渋々立ち上がり、セシルの身体を反転させ、華奢なうなじへ額をつけた。
——俺の気も知らないで……セシルのばか。
マシューは自身の下衣を寛げ、昂ったものを取り出した。黒いローブを捲り上げ、白く艶めかしい尻に痛いくらいに腫れたそこを押し付ける。
「ここに手をついて、そう——」
マシューの導きに従い、木の幹へと両の手を付いたセシルの背は反り、尻を突き出す体勢になった。セシルの白い肌は羞恥で赤く染まる。マシューは若い肌の弾力を楽しみつつ、ゆっくりと腰を下げ、白い腿のあわいへと昂りを押し込んだ。
腰をゆるゆると動かしながら、マシューはセシルの下腹部へと腕を回した。自分と同じ熱を持ち、快楽の蜜をこぼすそこを、やさしく握って愛撫した。
「んっ……」
セシルは艶めかしい息を吐き、行き場のない直接的な快楽を逃そうと背をくねらせる。その動きにマシューはごくりと喉を鳴らした。
——くそっ。ローブが邪魔だ。剥ぎとっときゃよかった。
徐々に動きを速め、共に高みへと昇るふたりの耳に、かすかな足音が届いた。その音は次第にこちらへと近づいてきており、顔を上げると遠くにランタンの小さな灯りが見えた。
セシルの心臓は早鐘のように胸を打つ。見つからぬよう、呼吸も止める。
(んぅっ……!)
思わぬ刺激に、セシルは首を捻りうしろを振り返った。
——やめろ!
口の動きだけで伝えるセシルにマシューは不敵な笑みを浮かべ、無慈悲にも腰の動きを再開させた。セシルは固く目を瞑って歯を食いしばり、片方の手で口元を覆うと、どうか気づかれませんように——と、祈った。
行き場のない快楽を少しでも逃そうと、マシューの分身を挟む腿の力を緩めようとする動きは、当のマシューによって妨げられた。腿の外側を手で押さえつけられ、さらに腰の動きを強める男を、セシルはあらん限りに眉を顰め、涙の溢れる目で睨みつけた。
次第に遠ざっていく足音に、セシルが胸を撫で下ろす暇もなく、マシューの動きが終局へと向け激しさを増していく。
肌と肌のぶつかり合う音が静かな闇夜に響き渡り、セシルの羞恥心が煽られる。互いの蜜が滴り濡れた下肢からは卑猥な水音が鳴り始めたが、セシルは耳を塞ぎたくともできない。彼の両腕はマシューの激しい動きを受け止めるため、木の幹に手をつくのに塞がっている。
「あっ……あっ……あぁっ……」
下肢が熱いもので擦られる刺激と、再開された手淫に翻弄され、セシルはとうとう声を抑えられなくなった。
断続的に続くセシルの艶のある声に、マシューは煽られ、歯を食いしばり堪えた。それから、片方の手で生白い尻を揉み、固く閉ざされた場所へと熱い視線を注いだ。
——挿入たい。
そこの熱さを夢想し、マシューは白い飛沫を迸らせた。続いてセシルもマシューの手のひらの中でビクビクと欲望の残滓を吐き出した。マシューはセシルの肩口で荒い息を吐き、
——クソッ。どうすりゃいいんだ。
内心で毒づき、この関係が始まった日——およそ一年と半年前のことを思い返していた。
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