命、からがら尽きる

帰ろう。

 人の少ないバスに乗り込んで、薄暗い街を眺めた僕は思った。

 当たり前のように敷き詰められたアスファルト、コンクリートで固められた建造物、石油を燃やしながら標識に従って回るゴム製のタイヤ。
これはなんとも言い表せない違和感だった。

 少し前に友達と、たまにはリフレッシュがてら山にでも行って滝を拝めようかという話をしたのだが、一体この人工物は誰が作り出したのだろうか。

 人工物なので、それは人が作ったに違いない。
しかしここは本来デコボコとした砂利や草木が生い茂る予定だった地なのだ。
 それを人間様が丁寧に根絶やして常識を作ったらしい。

 この常識は数千年掛ければできてしまうものなのだろうかと、何から何まで起源のわからない物の上で暮らしていた僕には、全てが突然不思議な存在に見えた。

 山に行くと空気が澄んでいる気がして気持ちいい。
 滝の近くではミスト状のしぶきが涼しくて心地がいい。
 土の匂いは新鮮さの中に懐かしさを感じさせ、葉の隙間から漏れた光は照明の必要性を疑うほどに美しかった。

 人の手で作られた不自然な土地で生活し、その英智が幾年かけても勝利を収める自然に魅了された僕は、山の奥深くで目を閉じた。

 次に僕が目を開くと、とても眩しくライトがチラついていた。


 互いに相違はなく、この人はなんて不自然なのだろうかと考えにふけた。