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海と花火
しおりを挟む夏の輝く海と夜空に咲く打ち上げ花火。
どちらが綺麗かなど、考えもしなかった。
僕は夏が嫌いだった。暑いし、虫は多いし。
単純な理由だが、僕にとっては重要な事なのだ。
ただ、そんな夏にも良いところはある。
夏の風物詩、海と花火だ。他にも夏を代表するものなどいくらでもあるのだろうが、特にこの二つは思い入れが強いのだ。
どちらも、僕が最も親しかった幼なじみとの思い出が詰まっている。その幼なじみは女の子なのだが気は強く、とても頼りになる人だったので、姉のような存在だった。
朝方の早い時間に2人で海に行き、泳ぎの不得意な僕に合わせて砂浜で遊んでくれたこと。小さな頃、はぐれないように手を握って歩いた花火大会。
僕はこれらの中で、水平線から顔を出す太陽と、夜空を彩る鮮やかな花火がとても好きだった。
ずっと綺麗なまま見れると思っていた。
そんな思い出から数年後、彼女は死んだ。
交通事故だった。
僕と打ち上げ花火を見る待ち合わせに向かう途中の出来事だった。
涙が枯れるまで泣き、自分を思い詰め、したところで意味の無い後悔をし、戻ってこない彼女を呼び続けた。
彼女のことを毎日思い返し、その度に僕は悲しんでいた。もう一度会って話をしたい。笑って隣を歩きたいと、過去の当たり前を強く願っていた。
それから1年が経ち、今年もまた夏がやってきた。
暑いし、虫は多いが、今年の夏は好きだ。
打ち上げ花火も朝方の海も、今年は1人で見た。
どちらもさほど綺麗には見えなかった。
しかし、そんな夏にもいい所はある。
夏を代表するものなどいくらでもあるのだろうが、どんな海よりも、どんな花火よりも、彼女に会えるかもしれないという妄想だけで、夏を好きになるには充分な理由だった。
そう思った僕は、手持ち花火に火をつけ、綺麗な彼女が写った真っ暗な海に沈んだ。
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