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1章

翠くんと放課後デート

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 空くんと光くんと話をした日から、もう2週間も経っていた。

 率先して話すことはしなかったけれど、僕がαと言うことはクラスには浸透していた、みんな誰かに話すことは無く、いい意味でクラス内はいつも通りだった。

 空くんも、先生に話をしたみたいで、然さり気無げなく光くんをフォローをしてくれてるのも分かった…

「楓、まだ帰らねぇ~で大丈夫か?」

  空くんの言葉に急いで支度をして、空くんと光くんに挨拶をして翠くんのクラスの靴箱へと急ぐ。

 そう言えば、少し前にも同じような事があったな……

そんな事を考えながら翠くんを待っていると、翠くんが僕に気付いて小走りで来てくれた。

 「楓、遅くなってゴメン……待たせた?」

 はぁ~今日も顔がいい……いくらでも見ていられる翠くんの顔は罪作りだな……

「楓?」

 名前を呼ばれて、翠くんに見とれたのがばれないように笑顔で待ってないよと答えた。

 それなら、よかったと笑う翠くん、面影の残る笑顔を見る度に好きが止まらなくなる。

 昔は僕よりも大きくて気付かなかったけど、つむじも可愛い……いや存在事態が可愛い……

「楓……そんなに視られると、さすがに恥ずかしいかも……」

 漆黒に艶めいている翠くんの揺れる睫毛を見ていると体中でドキドキしてきたのが分かった。

「――翠くん……好きです……」

 翠くんは目を大きく開くと、こんな場所で言うなよ……と僕にだけ聞こえる声で言った翠くんの耳が少し赤くなっていて、かわい翠くんの事がもっと好きになった。

「なぁ~楓、どこに遊びに行く?」

 翠くんの質問に、翠くんと一緒ならどこでもいいと言いたかったけど、翠くんのオススメの場所に連れていって貰う事にした。

  路地から少し入りくんだ所にあるお洒落なカフェに着いた時、すぐに翠くんが好きそうな雰囲気と分かった。

 入り口には、白と茶色の大きなクマのぬいぐるみが出迎えていた。

「――可愛い……」

 そう言葉をもらしながら目尻を下げている翠くんを見て僕は翠くんの方が可愛いくて自然と顔がゆるんだ。

 席に着いてメニューを見ているだけなのに翠くんのコロコロと変わる表情を見ているだけで、こんなにも心が満たされてしまう。

「楓は何にする?ケーキセットとか、美味しそうなんだけど楓は甘いの好きだったよな?」

 メニューを指さしながら、僕にだけ問いかける翠くんに答える為に近付いた時、翠くんの前髪が僕に触れそうになった時に、あの時みたいな甘い香りが漂ってきた。

 この甘い香りがすると僕のお腹の奥がキューとした甘い痛みがして頭がボーっとしてくる……

「楓、何にする?」

 僕は、いちごミルクとミルクレープと翠くんに告げてトイレに行ってくると伝えると席を立った。

  鏡に映る自分の顔に嫌気がさす……目の前に映る自分の目がギラギラしているのが分かるから……

 今すぐ翠くんを僕のものにしたい気持ちと、翠くんを怖がらせたくない……可愛い楓で居たいとの気持ちがせめぎあっている。

 はぁ……

  僕は洗面台で顔を洗うと、両頬をパチンと叩くと気持ちを切り替えた。

 翠くんの待つ席へともどると、翠くんが楓は見た目は大人っぽくなったけど、昔と全然変わらなくて安心したと言うと、言葉に言い表せないほどに可愛い笑顔を向けてくれた。

 ヤバ……可愛いすぎて言葉が出てこない……。

「楓、顔が赤いみたいだけど店内暑い?大丈夫?」

 そういう気づかい嬉しいけど……翠くんって天然なのかな……僕が平気と答えると、ならよかったと言った。

「――見た目は大人っぽくなったけど、楓の中身は子供の頃と変わらないな」

 真っ直ぐに向けられた翠くんの目が、なんだかくすぐったくて 目を反らしてしまった。

「僕ってそんなに、こどもっぽい……?」

  翠くんは、焦ったような困ったような表情をしながら、変わらないから頭が混乱するんだと言った。

 翠くんの言っている意味が理解できなくて、僕たちの間には沈黙が流れた。

 そんな空気が変わったのは、頼んだ品物が届いた時だった。

  僕の前には、ねこの形をしたミルクレープにチョコで出来た肉球が添えられていた。

「可愛い!」

 僕と翠くんの声が重なり、お互いに笑いあった。

 翠くんの元に届いたのは、いぬのパンケーキにねこといぬのテラアートされたカフェオレだった。

「翠くんも、子供の頃と変わらないよ……あの頃よりイケメンになったけど」

 僕の言葉に、みるみるうちに顔を赤らめる翠くんを目の当たりにすると、僕も顔に熱を感じた…間違いなく僕の顔も赤くなっているはずだ。

「そんな顔するの、ずるい……」

 その後は少しぎこちないながらも、今まで過ごせなかった時間を取り戻すかのように、お互いの事をたくさん話した。

 気付いた頃には、窓から見える空が茜色に染まっていた。

「楓、この後すこしだけ時間とれる?」

 翠くんの意図がつかめない声色に僕の胸がキューッっと掴まれたような感覚に陥った。

 もしかして……もう仮が終わりって事?

まだ答えがでていないのに嫌な予感だけが頭を巡った。

 何故か、翠くんの事を直視できずに、大丈夫とだけ伝えた。

「俺、楓に話したいことがあるんだ……」

 嫌な予感が的中してしまうのかな……

 楽しい気分から一転してしまった、僕は翠くんを諦めることが出来るのか?答えは決まってるNOだ!

 カフェを出てからは、とりとめの無い会話をしながらも僕は喉に何かを詰まっている様な感覚から逃れることが出来なかったから、翠くんが何処に向かっているかも分からなかった。

「楓、おぼえてる?」

 翠くんに言われて顔を上げると、そこは翠くんと初めて出会った公園だった。

 子供の頃は、凄く遠くに感じていたけれど家からも翠くんの家からも、そんなに遠くなかった事に驚きが隠せなかった。

 翠くんがベンチに座ると、楓も座ってと笑顔を浮かべている……僕は思い出の場所で振られるのかとおもうと泣きそうだった。

「楓、おいで……」

 ちゃんと僕の気持ちも伝えよう。

「楓はこの公園、覚えてる?俺は今でも覚えてるよ……理不尽な事を言われてる綺麗な子と初めて出会ったから忘れたくても無理だな」

 そんな事を言われたら、僕は期待してしまうよ……

「楓、俺はみんなが思ってるような人間じゃないんだ……凄く臆病だし……バースへのコンプレックスもある……楓がΩだと思っていた時、いつか番が現れる時が来るなら……先に離れた方がいいと思って、理由も告げずに楓と距離をとったんだ……」

  翠くんの話を聞くと僕の事が前から好きって言われているみたいだった。

「楓を忘れる為に、楓とは正反対の見た目のβに告られたら手当たり次第付き合ってすぐに別れたし……俺は最低だろ……」

 翠くんの口から紡ぎ出された言葉の1つ1つが僕の胸に刺さる、僕が目指していたのは間違いだったの?その言葉の意味をそのまま受け取っても良いの?

「それなのに、頭の中には楓が浮かぶんだ……一緒に行けたら楽しいだろうとか、この料理を一緒に食べたいとかね……それでも考えてしまうんだ、楓がαだと分かってからも、いずれ番が現れたら?将来、楓が子供が欲しくなってもβとαでは無理だよな……」

 翠くん、そんな悲しそうな笑顔を僕に向けないでと思うより先に声が出ていた。

「僕の気持ちを勝手に決めないで!」

 少し強めの語尾に翠くんがビクッとしたのを見て、やってしまったと自分にイライラした。

「翠くん、強い言い方してゴメンね……翠くんの本当の気持ちを聞かせてくれてありがとう……それでも僕は翠くんの事が凄く好きなんだ……」

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